北上の桜に想いを込めて。みんな笑顔で「つながる北上さくらプロジェクト」が見つめる未来。

ときよじせつ ONODERA

小野寺伸也

美しい桜を眺めながら、寄付金付きディナーに舌鼓。その先には……。

「ほんの遊び心です」

 評判のディナーを楽しもうと席につくと、そんな言葉とともに目の前に置かれたのがご覧のひと皿。オープンキッチンに立つ男性が笑顔を浮かべている様子が、マスク越しからでも伝わってきます。

一品目 大人味のプリンとチーズケーキ

Prologue 「つながる北上さくらプロジェクト」の舞台

▲左は北上市のご近所・水沢の苺と生ハムを合わせたゴルゴンゾーラのベイクドチーズケーキ。右は沿岸部・山田町特産のウニが入ったクリームブリュレに、山菜のしどけを添えた一品。最初の料理の意外な展開に驚きつつ、甘じょっぱい不思議な味わいに思わず笑みがこぼれます。

岩手のおいしい食材と生産者さんに寄り添って。

 その男性の名前は、小野寺伸也さん。北上市内でメニューのないコース料理を提供する「ときよじせつ ONODERA」のシェフを務める方です。

 料理の内容を見ればわかる通り、地元・岩手で育まれた季節のおいしい食材にこだわり、その出会いを大切にしている同店。メニューがないのも、生産者さんがその日届けてくれる食材をもとにコース料理を組み立てるため。

「私は料理人じゃないってよく言うんです」 そう言って笑顔をみせる小野寺さんは、さらに言葉を続けます。

「一般的に料理人はコース料理に合わせて必要な分だけ食材を仕入れますよね。でも例えば農家さんはたくさん野菜ができれば、当然たくさん出荷したい。そういうときはうちもいっぱい使ってあげたい。

 そうすると結局メニューをつくれないんです。その日にどんな食材が揃うかわからないし、逆にメニューがあるとそれに縛られて私も動きが取れなくなるし、そもそもそれだと自分も楽しくない……。ですから、メニューもなく自由にやらせてもらっています」

 ゲストを目の前にしてオープンキッチンに立つ小野寺さんは、料理をつくる前に食材の説明や生産者さんのこだわりなどを自分の言葉でわかりやすく語ってくれます。

 さらに、聞かれれば料理のレシピでも包み隠さず話してくれる気さくな人柄でゲストとのトークも弾みます。そうした会話のなかで小野寺さんの口からたびたび登場するのが、「遊び心」と「自由」という言葉。

 その言葉には、季節のおいしい食材にこだわり、生産者さんに寄り添う小野寺さんの想いが詰まっています。

 そんな小野寺さんが店内に桜を飾るようになったのは3年前。きっかけは、やっぱり「遊び心」でした。

▲この日、店内に飾られていたのは「八重桜」。牡丹桜とも呼ばれ、丸くふんわりとしたカタチがかわいらしく、眺めているだけで心が和みます。

二品目 海の幸と大地の恵みで彩る春の前菜 

Episode.1 「つながる」が「はじまる」

▲右上は三陸のアワビ、その下には牡蠣とサクラエビとシラスのソースのパスタ。右下はキノコとベーコンが入ったサクラエビのケークサレ。その上に金ヶ崎町のアスパラガスの網焼き、さらに宮古市のサーモンをスモークしたムース、大船渡の葉ワサビ……。種類も彩りも豊富で、見た目はもちろん食べるたびにいろんな春と出会えるワクワク感も楽しめる一品です。

▲左上に紅白でめでたく並んでいるのは、北上市内で約80種類の野菜を年間を通して栽培する「うるおい春夏秋冬(ひととせ)」さんが、規格外の野菜も無駄なく活用しようとつくった桜風味の「とんとん拍子漬け」。ちなみに「うるおい春夏秋冬」さんも「つながる北上さくらプロジェクト」のメンバーです。

『満開になったら見に来いよ』 もし、あのとき……。

「桜の枝を飾ってみませんか?」

 そんな提案を小野寺さんにもちかけたのは、「ときよじせつ ONODERA」のお店の花を担当している花屋さん。「桜の種類もわからない」と語る小野寺さんは、しかし「遊び心」で飾ってみることに。

「『花瓶に生けておくだけだろ』と思ってやってみたら、意外と大変で(笑) 

 でも店内に桜の木があると楽しいんですよ。『いつ咲くんだろ?』というのもあるし、満開になったら家族も呼んでお花見したり(笑) ただ、そのとき親父が末期がんで『満開になったら見に来いよ』と誘っていたんですが……。

 クルマで20分か30分ぐらいの距離なんで大丈夫かなと思ったんですが、『動きたくない』と言うので……。結局、桜を見せられないまま亡くなったんですよね。あのとき桜を持っていけば良かったという後悔がずっとあって……」

 店内に桜の枝を生けることで生まれる日々のワクワク感。そして、桜を「持っていけば良かった」という後悔。それが翌年の春の「つながる北上さくらプロジェクト」へとつながっていくことに。

三品目 春香る宮古産牡蠣の天ぷら

Episode.2  「つながる北上さくらプロジェクト」始動!

▲宮古の浜に春の訪れを告げる牡蠣。春は身が少し大きくなるそうで、その身にスモークをかけて天ぷらに。「香りも楽しんでいただきたいので、フライではなく天ぷらにしてみました。葉ワサビといっしょに、塩だけでどうぞ」と小野寺さん。さっそく口に含むと、ジューシーな旨味とともに牡蠣の香りがふわり。味と香りで春を感じるひと皿です。

職業の壁を超えて、桜でつながるメンバーたち……。

 小野寺さんの体験が想いとなり、それが北上市内とその近隣の事業者さんたちにひろがり、「つながる北上さくらプロジェクト」として動き出したのは2019年11月。同プロジェクトのFacebookには、こんな想いがつづられています。

「満開の桜の下で食事を楽しんでもらいたい」そう想った料理人さん。

「天気に左右されず桜を楽しんでもらいたい」そう想ったお花屋さん。

「桜も農産物も食事も工業品も知って欲しい」そう想った行政職員。

「さくらを見られない子どもたちを笑顔にしたい」そう想った医療ガス事業者さん。

想いと想いがつながって、新しい芽が……。

 病気や障がいなどの理由でお花見に行くことができない施設やご家族に桜を届けるため、寄付金付きのディナーを提供する「つながる北上さくらプロジェクト」は、職種や事業の壁を超えてつながり、2020年4月、第1弾として開催されました。

 そこでの「えん」が新しいつながりを生み、プロジェクトは次のステージへ。

四品目 春を届ける山田の花どんこ 

Episode.3 最初の贈り物

▲沿岸部に位置する山田町は、乾燥シイタケで全国品評会の最高賞「農林水産大臣賞」を何度も受賞するシイタケの名産地。そのなかにあって「花どんこ」と呼ばれるご覧のシイタケは2月中旬から3月にかけて採れるもので、生で食べられるのもこの時季のみ。そのため市場にほとんど出回らない貴重な食材だそう。

▲「汁までおいしい」と笑みを浮かべる小野寺さんは、そのジューシーな味わいを楽しんでいただきたいと、一度ボイルして鉄器で一気に焼き上げて汁と旨味を閉じ込め、渾身のひと皿に。肉厚な身にナイフを入れると、あふれ出す汁の多さにびっくり。素材そのもののおいしさとともに、「汁」までおいしくいただきました。

最初の贈り物も、桜が「えん」でつながる……。

 「つながる北上さくらプロジェクト」の最初の贈り物は、同店を訪れたひとりの女性から。

 北上市内で訪問診療を手掛ける「ホームケアクリニック えん」の看護師長・髙橋美保さんが、店内に飾られた桜を見て「末期がんの患者さんにもぜひ見せてあげたい」と小野寺さんに相談したことがきっかけです。

「『一本だけ桜の枝を持っていってあげてもいいですか』と言われたんですが、『そういう理由でしたら、これを持っていってください』ということで、きちんとアレンジした桜を1個お持ちいただきました。

 その患者の方にはすごく喜んでいただいて、私たちもうれしかったです」と小野寺さん。

 桜を「えん」にさまざまな想いが「つながる北上さくらプロジェクト」はこうして動き出し、1年目を終えたのでした。しかし、カタチにはなったものの、ある課題も……。

五品目 海の幸で彩る春の味わい 

Episode.4 原点回帰

▲山田町のプリプリのツブ貝とマグロ、からすみをウニのバーニャカウダソースにたっぷりつけて味わう一品。乾燥ノリの程よい歯応えとうっすら漂う磯の香りも味のアクセントに。日本酒の杯も進む、お酒好きにはたまらないひと皿です。

『ご家族の方に喜んでもらうこと』を第一に。

 昨年の「つながる北上さくらプロジェクト」は、思ったほどひろがらなかったと語る小野寺さん。2年目の今年に向けてプロジェクトメンバーと話し合い、昨年の反省を踏まえて導き出した答えは、「親父に持っていけば良かった」というような後悔をご家族にさせないこと、つまりはご家族の想いに寄り添うこと。

「去年はやりたいことがいっぱいありすぎて、あれもこれもとひろげていくうちに、髙橋さんとの出会いで患者さんに桜を届けることはできましたが、それ以外は終わってみれば『結局、何もできなかったよね』とメンバーと話していて……。

 だったら今年は『やれることからやろう』ということで、みんなで話し合って出した結論が『ご家族の方に喜んでもらうこと』。それが一番になったんです」

 病気や障がいなどの理由でお花見に行くことができない施設やご家族の方に喜んでもらうことを第一に。

原点に戻って迎えた2年目の今年は……。

六品目 夜しか出さないサンドイッチ

Episode.5  2度目の春、2つの贈り物

▲水沢のシソが入ったパンにフォアグラを挟んだ贅沢な一品。「手で一気に食べてください」と言われてパクリと頬張ると、フォアグラといっしょにシソのパンも溶けるよう。「さっぱりとした感じでしょ」という小野寺さんの言葉も納得。フォアグラを重く感じることもなく、むしろとろけるようなおいしさを堪能しながらペロリといただきました。

▲2017年7月のオープン以来、ディナーのみの営業だった「ときよじせつONODERA」もコロナの影響でテイクアウトのランチも提供。そこで大好評なのが、パン職人でもある小野寺さんがパンから手づくりするこだわりのサンドイッチ。その他にも弁当やオードブル、キッシュなどのテイクアウトメニューも大人気。

一番の喜びは、ご家族の笑顔に出会えること。

 「つながる北上さくらプロジェクト」2年目の今年は、「ときよじせつONODERA」にて日曜日を除き、4月5日(月)から17日(土)までの12日間にわたって寄付金付きディナーを提供。

 さらに、同店の店内に寄付金箱も設置し、店内に桜を飾ったり寄付金箱を置いたりしてもらえる飲食店などの募集もしながらの開催となりました。

 病気や障がいなどの理由でお花見に行くことができない施設やご家族に桜を届けることをシンプルに伝えることに専念した今年はテレビや新聞でも取り上げられ、話題に。

「お陰さまで今年の寄付金付きディナーは17日の最終日まで予約でいっぱいです。コロナの影響で席数を減らしているせいもあるのかもしれませんけど……」

 そういって照れ笑いを浮かべる小野寺さんですが、今年は桜の贈り物も2つのご家庭に届けることに。しかも、そのひとつは昨年に続き「ホームケアクリニック えん」さんからつながったものだそう。

 仲間のつながりも深めて、さらに枝葉をひろげる「つながる北上さくらプロジェクト」ですが、小野寺さんが何よりもうれしいのが……。

「私は行けなかったのですが、新聞を見て一番うれしかったのが、みなさんの笑顔が見られたこと。やっぱりそれが一番ですよ」

 しみじみとそう語る小野寺さんも、もちろん満面の笑顔です。

▲2021年4月8日付けの岩手日報さんの紙面より。ご家族に桜を届ける「つながる北上さくらプロジェクト」の取り組みを紹介した記事です。

七品目 3種のお肉食べ比べ

Episode.6  つながる仲間、ひろがる未来

▲写真左より牛タン、江刺梁川のやながわ羊、地元・北上の岩中ポークの3種。さっぱりとしながらコクもある黒にんにくとバルサミコでつくったソースは、やわらかくてジューシーなお肉との相性も抜群。ちなみにお肉はすべて真空包装して温度を一定に保ち、じっくり加熱することで旨味を閉じ込め、やわらかく仕上げる真空低温調理法によるもの。なかでも年間60頭ほどしか出荷されないというやながわ羊はしっとりとしたやわらかさで、初体験のおいしさでした。

「つながる北上さくらプロジェクト」を支え、ひろげる仲間たち。

 4月17日(土)の寄付金付きディナーの提供を最後に、2年目となる「つながる北上さくらプロジェクト」も大盛況のうちに終了となりました。

このプロジェクトでつながり、想いをひろげるメンバーは以下の通り。

ときよじせつONODERA株式会社アリーブ)…寄付金付きディナーを提供

花仕事屋Lamb’s …桜の用意とアレンジメントを担当

医療用ガス製造販売・北良株式会社 …患者さんをつなぐ役割

うるおい春夏秋冬(ひととせ) …ディナーの食材を提供

 その他、プライベートでかかわる北上市職員さん、「旬彩ごほうびフェア」というイベントでつながった岩手県職員さん、さらに「ホームケアクリニック えん」髙橋美保さんグループホーム「おおきな木」黒澤 豊さんなど、そのつながりはしっかりと根を張り、少しずつ枝葉をひろげています。

 もちろん、プロジェクトメンバーは随時募集中。

 そんな「つながる北上さくらプロジェクト」には大きな夢が……。

八品目 いわて牛3種揃い踏み

Episode.7  飲食店も満開に!

▲「今日はお肉がいろいろ入ったので、せっかくですので牛肉も3種類を少しずつ味わってみてください」という小野寺さんの言葉とともに登場したのが、こちらも真空低温調理でやわらかく仕上げた一品。いわて短角牛、いわて牛のみすじ、いわて牛のサーロインの3種揃い踏み。少しずつと言いながらも七品目と合わせると6種類もおいしいお肉を堪能することができた、なんとも口福なひとときでした。

たくさんの飲食店で、桜を楽しめる街へ。

 全国的にも例年になく桜の開花が早かった今年。展勝地の桜も4月15日の「さくらまつり」が開幕する前に「満開になるのでは?」と心配しましたが、なんとか開幕日に見頃を迎えることができました。

 ただ、一番の見頃と思われたその週末の17日(土)は雨や風に見舞われるなど、開花時期や天候が読めないところがお花見には難しいところ。

 しかし……。

「お店に桜を飾ると、そういう心配がないんですよ。温度管理をきちんとすれば満開の日を設定できますから。

 それに桜の時期は展勝地に桜を見に行った帰りに『寒い』と言ってうちのお店に寄ってくださるお客さまも多くいらっしゃいますが、店内だとあたたかいですし、風も吹かないし雨も降らないので、桜を眺めながらゆっくりお食事を楽しんでいただくことができます。

 そういう飲食店が50店舗、100店舗と増えていったら、例えば『この期間に来れば北上市内の飲食店は満開の桜が見られますよ』とPRできるし、それがマチナカにヒトを呼ぶ観光のひとつにもつながるんじゃないかと思うんです。

 『じゃあ、2軒目は違う桜を見に行こう』となったら、楽しいじゃないですか」

 そう夢を語る小野寺さん。コロナの影響で厳しい状況が続きますが、それでもコロナ後の未来を見据えて種を蒔く「つながる北上さくらプロジェクト」。

 病気や障がいなどの理由でお花見に行くことができない施設やご家族に桜を届け、喜んでもらうことを第一に。

 その笑顔の輪が、たくさんの飲食店に、事業者に、そこを訪れるお客さまにとつながり、ひろがっていくことを夢見て……。その想いは、次の春へと受け継がれていきます。

▲「つながる北上さくらプロジェクト」のイメージマーク。東北有数の産業集積都市として発展する北上市だからこそ、職種の壁を超えて多くのヒトが桜を通してつながることができたら楽しい未来が……。

最後に  ふんわり笑顔のデザート

Epilogue  桜でみんなを笑顔に

▲左より黒は竹炭、赤はビーツ、薄い緑がホウレンソウ、右手前が桜をイメージし桜のリキュールと葉を練り込み、紫いものパウダーで淡いピンクに仕上げたもの。また、中央にあるスウィーツは、スペインの代表的なデザート「クレーマ・カタラーナ」。ひんやりとした舌ざわりと、クリームの濃厚な甘味の奥から現れるほどよい苦みがアクセントになった大人味のデザートです。

笑顔つながる街へ。また来年の春に想いを託して。

 最後に登場したのが、上のデザート。この日、ご家族で訪れたゲストの方たちが大のパン好きだそうで、ランチのサンドイッチが人気という話題から、小野寺さんがつくり立てのパンを持って現れると大興奮に。「ぜひ食べてみたい」ということで、つくり立てのパンが急遽その日のデザートとなりました。

 4種類のパンのなかには桜をイメージしたものもあり、その彩りはもちろんやわらかな口当たりもゲストのみなさんに大好評でした。

 ご家族の方に喜んでもらうことを第一に……。

 満開の桜を眺めながらおいしい料理を食べて笑顔がひろがる店内のように、桜を通してご家族に、さらには桜でつながる多くのヒトに笑顔を届ける「つながる北上さくらプロジェクト」。満開の桜と出会える来年を、どうぞ、お楽しみに!

●プロジェクトの詳細はこちら!  ⇒  つながる北上さくらプロジェクト

(了)

ときよじせつONODERA

岩手県北上市本通り1-8-28

営業時間/18:00〜21:00(時間短縮営業)

定休日/日曜日

テイクアウト/火~土曜日 11:30~13:30(無くなり次第終了)

★ご予約など詳細は公式サイトをチェック! ⇒ ときよじせつONODERA

2021-04-20|
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