「夏油ブルー」に輝く水の上を散歩。SUPで美しい自然のなかへ、非日常の世界へ。

Water & Snow SPICE

代表

佐藤 克行(さとう かつゆき)

 

夏も夏油高原に活気を! スキースクール講師の挑戦。

TVゲームよりも、公園で遊んだり川遊びをしたりして外で1日中遊んでいる子どもでした。なんにも遊ぶ道具がなくても、仲間たちといろんな遊びを考えては日が暮れるまで走り回っていました。

「『TVゲームで遊んでいる暇があったら外で遊んできなさい』という親だったので、外で遊ぶしかなかったんですよ」

 そう言って照れ笑いを浮かべながら、佐藤克行さんは子ども時代を振り返ってくれました。秋田県羽後町(うごまち)の田んぼに囲まれた自然豊かな場所でのびのび育った佐藤さんが、北上市にやってきたのは今から4年ほど前。2012年度に秋田県スキー連盟のデモンストレーター(滑走技術の模範を示す資格を持ったスキーヤー)となっていた佐藤さんは、夏油高原スキー場のスキースクール講師 兼 管理者として招かれたのでした。

 それ以来ずっと北上市で暮らしている佐藤さんは、1年、2年と年を重ねるごとにモヤモヤした気持ちが強くなっていったといいます。

「冬はたくさんの方が夏油高原スキー場に来てくれて夏油高原がにぎわうのに、雪が消えると途端に誰も来なくなってしまう。それが寂しいというか、悔しいというか……」(佐藤さん)

 そうしたモヤモヤした気持ちを忘れさせてくれたのが、SUP(サップ=スタンドアップパドルボードの略)です。

 SUPとは、海や川、湖やダムなどで、長さ3mほどのボードに立ってパドルで水を漕いで進むアクティビティです。湖やダムなど水面が穏やかな場所なら初めての方でも20分ほどの練習で比較的簡単にボードに立って乗ることができます。

しかも、ボードに立ってバランスをとりながらパドルで水を漕ぐため、体全体を使い、腕・脚だけでなく体幹も鍛えられると話題に。近年では20~40代の女性がエクササイズ感覚で楽しむなど人気も集まっています。上級者になるとボードの上でヨガをしたり、釣りをしたりするヒトもいるなど、さまざまな楽しみ方ができるのも魅力です。

 このSUPに夢中だった佐藤さんは、暇を見つけては夏油高原にある入畑ダムを訪れ、自分のボードに乗って汗を流すことで、モヤモヤした気持ちを束の間、忘れることができました。当時、入畑ダムではSUPどころかマリンスポーツをやるヒトは誰もいません。水面の揺れを足元に感じながらボードに立ち、ひとりで黙々とパドルを漕ぐ日々。水の上を歩くようなSUPならではの楽しさを満喫していると……。

 そのとき出会ったのが、「夏油ブルー」と佐藤さんが命名した入畑ダムの水の美しさ。季節ごとに景色を変える夏油高原の自然の色どりの鮮やかさ。水位が変わるたびに自然の見え方が変わる面白さ。水位があがったり、下がったりしたときだけ行ける場所を見つけたときの驚き。日常から解き放たれ、豊かな自然に囲まれた非日常の世界に踏み込んで、そこを探索するときのワクワク感。アドベンチャー気分もくすぐられ……。

 佐藤さんは「これだ!」と思いました。「SUP体験」を主宰して、冬以外の季節にも多くのヒトに夏油高原に足を運んでもらい、豊かな自然を楽しんでもらえるようにしようと考えたのです。

「夏油ブルー」に輝く入畑ダムの水の上で、SUPというアクティビティを楽しみながら、四季折々の美しい自然を堪能できるのがSUPの魅力です。

 

2年間ひとりで通い、SUPをした経験を糧に。

 佐藤さんは試しにスキースクールの仲間たちを誘い、入畑ダムでSUPに乗ってもらうことにしました。そのとき、みんながワイワイやりながら楽しそうにSUPに挑戦する姿を見て、一般のヒトを集めて「SUP体験」をするイメージをくっきりと思い浮かべることができました。

 佐藤さんはさっそく動き出します。1台15万円もするボードを3台購入。痛い出費ですが、「自分が見て感動した夏油高原の自然の素晴らしさを多くのヒトに知ってもらいたい」「冬以外にも多くのヒトに夏油高原に足を運んでもらいたい」という想いが、佐藤さんを突き動かしました。

 自分のボードと合わせて4台のボードを揃えた佐藤さんは、入畑ダムで有料のSUP体験会を開催。それまで2年間、入畑ダムでひとりSUPを楽しんでいた佐藤さんです。今の時期の水位なら、どの場所の自然が美しいか。どこに行けばアドベンチャー気分を味わえるか。SUPのいろんな技にチャレンジしてもらうなら、どこがいいか。浅瀬は落ちると捻挫などの危険があるから、あそこは気をつけよう。「夏油ブルー」はぜひ見てもらいたい……そういう見どころ・楽しみ方・気をつけなければいけない場所のストックはたくさん持っています。

 と、同時に佐藤さんは、ダムで体験会を開くメリットにも自信を持っていました。それは、佐藤さんがSUPと出会った7年ほど前の体験が記憶にあったから。スキーができないシーズンのトレーニングの一環としてサーフィンをはじめたときのことです。

「日本海の波って夏は穏やかなんですよ。波がないときにできることはないかって探していたら、たまたまSUPの体験会をやっていたんです。面白そうだなと思って試しに乗ってみたら、2秒で海に落ちちゃった(笑) サーフィンをやってたから自信はあったんですけど」(佐藤さん)

 それでSUPにハマり、波のある日はサーフィンをして、波のない日はSUPを楽しみ、腕を磨いてきた佐藤さん。そうした経験から、初心者がいきなり海でSUPをやる難しさと危なさをよく知っています。

「水面が穏やかなダムなら、老若男女を問わず、20分ほどの練習で比較的簡単にボードの上に立つことができるんですよ。海だと波や風の影響もあるからそうはいかないし、波が荒いと落ちたときに危険も伴います。

 入畑ダムの穏やかな水面だからこそ、より多くのヒトにSUPの楽しさを実感してもらえると思ったし、より多くのヒトにSUPを通じて、夏油高原の自然の素晴らしさ、水位の変化によって見え方が変わる面白さ、森林に囲まれた曲がりくねったダムの奥を探検するワクワク感やアドベンチャー気分を味わってもらえると思ったんです」(佐藤さん)

老若男女を問わず、幅広い世代が気軽に楽しめるのがSUPの魅力です。

2年間ひとりで入畑ダムに通い、SUPをしていた佐藤さんは、楽しめるポイントや季節ごとの見どころを熟知しています。

のんびり昼寝ができるのも、水面が穏やかなダムならではの楽しみ方。初心者でも簡単にできるようになります。

 

楽しい思い出と一緒に帰ってもらうために。

 日本SUP協会(SUPA)公認のインストラクターでもある佐藤さんは、より多くのヒトに“安全”にSUPの魅力を楽しんでもらいたいという想いから、SUPに乗る前に乗り方はもちろん、ライフジャケットの正しい着用の仕方、ボードから落ちたときの対処法、ボードへの戻り方などをレクチャー。準備体操もしっかり行ってから、SUP体験をはじめています。

「SUPのボードだけ貸して、あとは『ご自由にどうぞ』というところも多いんですよ。でも、それだと安全に楽しめないじゃないですか。

 以前いらしたお客さまで『前に行った海でSUPをレンタルしたんですけど、何も教えてもらえなくて、今日やっとSUPの楽しみ方がわかりました』と言ってもらえたのが印象に残っていて……。せっかくSUPをやるなら安全性は大事なことだし、そのうえで乗り方、パドルの使い方、いろんな技のバリエーション、落ちたときの対処方もしっかり学んでから楽しんでもらえたら、『また来たい』と思ってもらえる可能性も高まると思うんです。

 なにより、『また夏油高原に来たい』『またSUPに乗って美しい景観が見たい』と思ってもらえることが大切なことですから」(佐藤さん)

 個人的にさまざまなイベントに参加し、SUP体験会を開いて実績を積み重ね、手応えを掴んだ佐藤さんは、ついに今年の5月、「Water & Snow SPICE」を創業。夏油高原をベースキャンプに、冬はスキースクールの講師として、それ以外はSUP体験を通じて、夏油高原をはじめ近隣の豊かな自然の魅力を伝えていく道を切り拓きました。

 と同時に、それは苦労のはじまりでもありました。

「知っているヒトは知っていて女性にも人気だったりするんですけど、東北ではまだまだSUPの認知度が低いんですよ。ですから、いろんなところにチラシを配ったり、ポスターを貼らせてもらおうとお願いに行くんですけど、『SUP? 何それ?』『なんか難しいそう』という感じなんです。

 最近になってようやくメディアにも取り上げてもらえるようになって、だいぶ周りの反応もよくなってきましたけど、そこはこれから地道に取り組んでいかなきゃいけないところですね」(佐藤さん)

   

SUP体験の前には、日本SUP協会(SUPA)公認のインストラクターでもある佐藤さんのレクチャーがあります。それをきちんと聞いていたお陰で……

    

SUP体験した筆者も体験が終わる最後の最後に、撃沈! しかし無事、生還することができました。「最後に『オチ』がついたので、SUP体験はこれで終わりにしましょう」との佐藤さんの言葉で体験が終了。佐藤さん、ご指導ありがとうございました!

 

地域とつながり、夏油高原の魅力をさらに深く広く。

苦労も多いですが、手応えもあります。今年の7月末に導入した最大10人乗りの「モンスターSUP」がとても好評でした。

「団体向けに導入したんですが、ある中学校が『夏の思い出づくりに』ということで体験してくれたときの反応がすごくよかった。最初はひとりでボードに立つのも難しくてキャーキャー言いながらやるんですけど、それを10人で一緒にやるのでさらに盛り上がるんです。

 実はモンスターSUPを導入するに当たって、いろんな学校に営業に行ったんですけど、子ども会とかレクリエーションとか、そういう行事の予定って年間スケジュールで決まっているらしいんですよね。みなさん、すごく興味を持ってくれるんですけど、『もっと早く、4月ぐらいに来てくれたら良かったのに!』と言われて(笑) ですから、来年はモンスターSUPももっと活躍してくれると思います」(佐藤さん)

 その他、入畑ダム以外にもフィールドを広げ、北上川下りや、近隣の錦秋湖、湯田ダム、胆沢ダムなどでもSUP体験ができるツアーを企画。なかでも、錦秋湖で水位が下がったときだけ見られる鉄道遺構を水上から訪ねるツアー(10月末まで開催)は人気で、紅葉シーズンの10月は新聞にも取り上げられるなど話題を集めています。

 残念ながら今年のSUP体験は10月末で終わりますが、来年に向けて佐藤さんの夢は広がっています。それは、近隣の飲食店や農家さん、温泉・宿泊施設などと連携を深めたSUP体験プランを充実させていくことです。

「現在は、お向かいにある『夏油古民家Cafe 小昼~kobiru~ 』さんとか、入畑ダムの近くにある『入畑温泉 瀬目乃湯』さんとコラボして、SUPを体験した方にドリンクや入浴料が割引になるサービスをご提供しています。

 そうしたサービスやプランをもっともっと充実させて、SUP体験のあとにみんなでランチを楽しむとか、温泉施設に宿泊してのんびり温泉に入って疲れを癒やしてもらうとか、農家に宿泊して農業体験も楽しんでもらうとか、近隣のみなさんと連携していろんなことを仕掛けていけたらと思っています。

 やっぱりせっかく夏油高原に来てもらうなら、SUP体験が終わって『さよなら』ではもったいない。夏油高原の素晴らしさを、SUPだけでなく、食事したり、温泉入ったり、農業体験したり、いろんなことをして実感してもらいたい。

 そうすることで、さらに夏油高原を好きになってもらって、『また来よう』と思ってもらえたら、夏油高原がもっとにぎわうと思うんですよ。それを地域のみなさんと一緒にやっていけたら……。少しずつですけど、そういう地域の輪を広げていきたいですね」(佐藤さん)

 たったひとりで入畑ダムを訪れ、SUPに乗り、黙々とパドルを漕いでいた佐藤さんをやさしく包んでくれた夏油高原の豊かな自然。その美しさを誰よりも知る佐藤さんだからこそ、たくさんのヒトに見せたい景色があります。その熱い想いを胸に、地域とのつながりを深めながら、いろいろな世代のヒトたちを非日常の世界へと誘うSUP体験。「夏油ブルー」に輝く水の上にどんなワクワクが待っているのか、ぜひご自分の目で確かめてみてください。

みんなでバランスをとるのが難しいため、大いに盛り上がるという「モンスターSUP」。来年は大活躍してくれることでしょう。

近隣の湖やダムでもSUP体験を実施。こちらは、水位が下がったときだけ見られる錦秋湖の鉄道遺構をめぐる人気のツアーです。

上級者には、波や流れが強い北上川にチャレンジするツアーも。

筆者も佐藤さんが絶賛した「夏油ブルー」を堪能できました! 夏はもっとキレイなのか!? 雪解け水が増える春になると、向こうに見えるコンクリートの堰(せき)も水没するため、SUPでさらに奥に進めるとのこと! アドベンチャー気分をくすぐられます。

来年はこの先に行くぞ! 春が楽しみになりました!

 

「SUP体験」の魅力を広げるため、佐藤さんはふるさと納税を活用したクラウドファンディングにも挑戦中! 興味のある方はこちら! 

※その他、仕事人図鑑第2弾で紹介した「平野はり灸整骨院」、北上産手打ち蕎麦で地域を活性化しようと奮闘する「自家製粉・石臼挽き手打ち蕎麦 神楽屋」、農家を元気にしようと「銀河のしずく」の無洗米販売に挑む稲作農家、住宅の外構デザインで未来へつなぐ景観づくりに取り組む「ガーデンプランニング・エバーグリーン」、きたかみ牛のレトルトカレーの商品化で北上の農業の活性化に貢献する「西部開発農産」もクラウドファンディングに挑戦中。興味のある方は、ぜひご覧ください。

◇佐藤さんは、冬は夏油高原スキー場のスキースクール講師として活動! 詳細はこちら!

 

(了)

 

Water & Snow SPICE     

岩手県北上市和賀町岩崎3-76-2

新夏油橋駐車場 バス待合所内

Tel/080-6002-5431

※SUP体験は5月~10月末までとなります。詳細は公式Webサイトでご確認ください。

 

2018-10-23|
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