シャッター通り商店街にフレッシュな風を。 家族で営む八百屋さんの挑戦!

フルーツきやなぎ 店主

鬼柳 洋(きやなぎ ひろし)

やおや果フェ 店長

菊池淑子(きくち しゅくこ)

満州から引き揚げてきた祖母が開業。

 御鎮座1200年を超える諏訪神社のお膝元に、北上市諏訪町商店街があります。全長およそ250mのこの商店街は、今でこそシャッター通りとなっていますが、一時期はさまざまなお店が通りを埋め尽くし、平日でも人通りの絶えない商店街として、北上市のにぎわいを支えていました。

 当時の様子を、鬼柳洋さんと菊池淑子さんの兄妹は子ども心にもよく覚えています。満州から引き揚げてきた祖母が諏訪町に開いた八百屋さんを両親が受け継いだため、洋さんと淑子さんは諏訪町商店街が暮らしの場であり、遊びの場でもありました。

「商店街には何でもありましたよ。靴屋さん、かばん屋さん、服屋さん、薬屋さん、化粧品屋さんに美容院、喫茶店、魚屋さん、肉屋さん、総菜屋さん、八百屋さんだけでも5軒ぐらいはあったよね?」

 店番をするお母さんに洋さんが尋ねると、お母さんは一つひとつ確かめるように、かつてあった八百屋さんの名前を挙げていきます。金曜日の昼下がり、洋さんが両親から受け継いだ「フルーツきやなぎ」の店頭でのんびりお話を伺っていると、ときよりご近所の居酒屋の店主や、常連の奥様が買い物にやってきて、にぎやかな会話がはじまります。

 季節ごとに旬のフルーツや野菜が並ぶ「フルーツきやなぎ」では、これからのシーズンは北上名物の二子里芋やりんごが人気。そうした品々を、遊びにきた友人や家族に持たせるお土産用に箱詰めにしてほしいという注文にも柔軟に応える洋さん。お客さんとのやりとりに何気なく耳を傾けていると、その会話の端々にお客さんからの信頼を感じます。

 そのとき、通りをはさんだ向こう側の歩道を歩く2人の女子高校生の姿が見えました。しかも、その2人が「フルーツきやなぎ」の方を見て何やら耳打ちしていて、表情からは笑顔もこぼれています。洋さんの仕事っぷりを微笑ましく眺めているのかと思いきや、視線の先にあるのは残念ながら洋さんではありません。

 どうやら2人が気になっているのは、「フルーツきやなぎ」の一角にある可愛らしいお店のよう。

常連のお客さんとにぎやかに会話を交わす洋さんは「フルーツきやなぎ」の三代目。

店内には旬の野菜やフルーツが所狭しと並びます。

これからのシーズンは北上名物の二子里芋が人気。

北上に遊びにきた友人や家族に持たせるお土産用に、こちらの箱に里芋やりんごなど季節の品々を箱詰めにしてほしいという注文にも気軽に応える柔軟性が地元のお客さんに愛されています。

SNSで拡散、八百屋さんがつくるフルーツジュースの魅力。

 「やおや果フェ」という可愛らしいお店が「フルーツきやなぎ」の一角にオープンしたのは、今年の6月。店長は、洋さんの妹の淑子さんです。淑子さんはお店を手伝っていて、店頭に並ぶ色とりどりのフルーツや野菜を見て、それらを使ったジュースやスープのあるお店は北上市内にはないので、やったら面白いだろうなと以前から考えていました。

 そのため、遊びや用事で仙台や東京などに出かけると、フルーツジュースの専門店やカフェなどに足を運んでは、自分のアイディアをあたためていました。

 そんな淑子さんの背中を押したのは、Instagramで見つけた神奈川県にあるジューススタンド。そのお店のInstagramには、カラフルなフルーツジュースやスムージーの可愛らしい写真が並び、「八百屋さんが手掛けるテイクアウトオンリーのフルーツジュース専門店」というコンセプトも、淑子さんが目指すお店のスタイルそのものでした。

 さっそく洋さんに話すと、諏訪町商店街振興組合の若手チームのリーダーとして、諏訪町商店街を盛り上げようと奮闘している洋さんも快諾。パートさんの女性の協力も得て、念願のオープンにつながりました。

「お客さんが来てくれるか心配でしたが、お兄ちゃんが自分のネットワークを使って宣伝してくれたので、最初の頃はたくさんのお客さんがお店に足を運んでくれました」

と語る淑子さんはFacebookを活用。果物を贅沢に丸ごと使ったフレッシュジュースや、季節限定のフルーツを使ったスムージーなど、八百屋さんならではの特徴を活かしたメニューを考案。さらに、新鮮な素材のおいしさを活かして安心して飲めるようにとシロップも余計な甘さを加えず手づくりにこだわり、高校生にも気軽に味わってもらえるようにとリーズナブルな値段で提供している点を、可愛らしい写真とともに積極的にアピールしました。

 こうした兄妹の努力が実を結んだのか、「やおや果フェ」の色鮮やかなフレッシュジュースやスムージーの写真がInstagramやFacebookで拡散。

「客層は小さなお子さんのいる若いママさんたちが中心ですが、SNSの写真を見て北上市内だけでなく水沢や盛岡からも足を運んでくださるお客さんもいて、ヒトとヒトとのつながりってすごいなと改めて感じました。それに、最近は女子高校生のお客さんや、八百屋に訪れる年配の方も利用してくださるようになってきて、それがとてもうれしいです」

と淑子さんが語れば、

「以前は年配の方が多かったんですが、『やおや果フェ』がスタートして客層が広がりました。これをきっかけに、若い世代もどんどん商店街に足を運んでくれたら」

と語る洋さんの顔もほころびます。

 家族が営む八百屋さんの挑戦は、好スタートを切りました。しかし、淑子さんは、それに浮かれてばかりはいませんでした。

キウイフルーツを丸ごと使ったフルーツジュース(左:250円)と、苺&ブルーベリースムージーの上に生クリームをたっぷりのせ、さらに新鮮な苺で飾った「いちごスムージーボンボン」(右:450円)。どちらも甘すぎず、味わいもすっきりしていて旬なフルーツのフレッシュなおいしさが楽しめました。

可愛らしいデザインの外観は、淑子さんとパートさんの女性がアイディアを出し合って決めました。

フレッシュジュースは250円から、スムージーは200円からというリーズナブルな値段設定は八百屋さんだからこそであり、高校生にも気軽に飲んでもらいたいという淑子さんの想いの現れでもあります。

 

季節限定のメニューも豊富。淑子さんのこだわりもしっかりアピールしています。

諏訪町商店街に吹き渡るフレッシュな風、はじまりの予感。

 今、淑子さんはやがて訪れる北上の寒い冬に備えて、いろいろなアイディアを練っています。

「冬のメニューとして考えているのは、フルーツサンドを中心としたサンドイッチに、野菜スープやコーヒーなど温かい飲み物ですね。ホットスムージーというのもあるんですが、ここでそれができるか検討中です」(淑子さん)

 いずれはカウンター席も設けたいなど、淑子さんの夢は広がります。しかし、それもまずはこの冬を乗り切ってからと気を引き締めていますが、そんな淑子さんを支えてくれるのは家族やパートさんの女性だけではありません。

「この商店街の飲食店の仲間もよくお客さんとしてきてくれるんですが、そういうヒトたちが私の相談に乗ってくれたり、いろんなアドバイスをしてくれたりするので、本当に有難いと思っています」(淑子さん)

 八百屋さんの一角に誕生した「やおや果フェ」という小さなお店ですが、そこから広がるフレッシュな風が商店街の仲間たちにも心地よい風となって届いているようです。

 一方、洋さんは「やおや果フェ」はもちろん、諏訪町商店街振興組合の若手チームのリーダーとして、諏訪町商店街の今後にも目を向け、動き出しています。

 今年の8月29日には、商店街としては全国でも珍しく、岩手県では初の試みとなる大学生のインターンシップを受け入れ、大学生の視点で商店街の活性化策を考えてもらい、意見交換する機会を得ました。

「インターンシップは5日間だけでしたが、若い世代をいかに呼び込むかなど、私たちが考えていることと一致する部分も多かった。今回、参加してくれた大学生の女の子は3年生なんですが、2年後には自分もここで起業したいと言ってくれました。彼女がこの商店街に再びやってきたときに、少しでも変わったと言ってもらえるようにしていきたいですね」(洋さん)

 現在、全長250メートルほどの諏訪町商店街に名を連ねるお店は20店舗ほど。その半分は居酒屋やバーなど夜のお店のため、商店街全体で会合を重ね、足並みを揃えて活動するにはなかなか時間調整ができず、難しい状況でもあります。しかし、洋さんは諦めてはいません。

「例えば、商店街全体でなくても、何店舗かで組んでイベントをしたり、商店街以外の方とも協力していろいろ仕掛けていくのもありだと仲間とは話しています。できる店舗同士や個人でもフットワーク軽く活動し、少しずつでもいいので商店街ににぎわいを取り戻していきたいですね」

 そう語る洋さんは、さっそく実践しています。自然栽培の野菜をつくる農家さんたちを応援する取り組みに参加し、今年の9月11日から毎週火曜日に自然栽培の農家さんたちが集まって野菜を販売できる場所を提供。そのお店は、諏訪町商店街とJR北上駅を結ぶ中間にあるため、自然栽培の農家さんたちを応援すると同時に、そのお店に足を運んでくれたお客さんが、さらに諏訪町商店街にも足を運ぶきっかけになればと願っての取り組みでした。

 少しずつ、一歩ずつ、諏訪町商店街ににぎわいを……。家族で営む八百屋さんの挑戦は、これからも続いていきます。

淑子さんはInstagramやFacebookでお店の魅力を積極的に発信しています。

お店に飾られているポスターは地元の高校生がつくってくれたもの。洋さん、淑子さん、お母さん、パートさんの女性の4人が描かれています。

◇洋さんが応援している自然栽培の野菜農家さんたちの取り組みの詳細はこちら!

(了)

フルーツきやなぎ & やおや果フェ  

岩手県北上市諏訪町2-4-37

Tel/0197-63-4553

営業時間/フルーツきやなぎ 9:00~18:30

     やおや果フェ 10:00~17:00

定休日/フルーツきやなぎ  8月第4土・日曜日、元旦のみ

    やおや果フェ  日曜日、第2・4火曜日

2018-09-28|
関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA