海を渡る“羊”たちがひろげる夢。岩手の木のぬくもりを、手仕事の素晴らしさを多くのヒトに。­­

wood works crando(ウッド・ワークス・クランド)

木工作家 笠原悠貴

Twitterにアップした画像がイギリスの羊飼いの目にとまり……。

 その羊の人気に最初に火がついたのは、牧羊が盛んなイギリスでした。

 今から7年ほど前のこと。丸みのあるフォルムが愛らしい羊のメモスタンドの画像をTwitterにアップすると、それがイギリスの羊飼いの目にとまり……。

「その方は自分で染めたウールの糸をネットで販売していて、全世界にフォロワーがいるような方でした。

 ネットにもかなり詳しくて、当時イギリスでは国民の8割ぐらいが情報収集のツールとしてTwitterを活用していて、『だから情報発信した方がいいですよ』と私にアドバイスしてくれたんです。

 しかも、『もし海外にも販売したいのなら私に売らせてほしい』とまで言ってくださって、『ぜひ!』(笑)という感じでお願いしました」

 北上市の東部に位置する口内町でオーダーメイドの家具などを手づくりする木工作家・笠原悠貴さんは、当時を振り返ってそう語りながら、さらに言葉を続けます。

「その方に窓口になっていただいたお陰で、イギリスからの注文が増えたんですよ。その後に『羊のメモスタンドをイギリスに送りました』とTwitterでつぶやいたんですが、そちらにも反響があって国内からの注文も増えたんです」

 笠原さんが手づくりする木製の羊には、目がありません。しかし、ひとつひとつに個性が感じられ、ご購入された方から「この子(羊)と目が合った気がするから思わず買っちゃった!」と言われることも多いそう。

「首の傾け方や体の向きはもちろん、使用する木の種類や色合い、年輪の模様なども羊の毛並みに見えるようにひとつひとつこだわってつくっています。

 ですから、羊に目は入れていないんですが、『目が合った』とか言っていただくとすごくうれしいですね」

 そう言って顔をほころばせる笠原さん。海を渡って遠くイギリスの地で人気に火がついた木製の羊のメモスタンドは、その後フランス、アメリカとファンのすそ野をひろげていくことに。

 と、ここまで読むと木工作家としての笠原さんの歩みは順調のように見えますが、その道のりは決して平たんではありませんでした。

▲豊かな自然に囲まれた口内町に笠原さんの工房はあります。

▲自宅の隣にある笠原さんの工房。手づくりのモンドリアン柄が印象的。産業革命期(19世紀末)にイギリスで興った「アーツ・アンド・クラフツ運動」
(手仕事の良さを大切にし、日々の生活の中に美を見出す)をお手本に、笠原さんは“手仕事”の魅力をひろげようと活動しています。

▲笠原さんが現在手掛けている椅子もオーダーメイド。

師匠がつくる、木の家具との運命の出会いに導かれて。

 小さい頃から美術や工作が好きだったという笠原さんは、地元の高校に当時あった建設科に進学。そこでさまざまな建築家の作品と触れるうちにデザインに興味を持ち、卒業後は仙台市にあるデザイン専門学校へ。そしてそこで、のちに笠原さんの師匠となる木工作家さんと運命の出会いが……。

「“家具設計”という授業があったんですよ。そこで、その授業の講師だった木工作家がつくる家具を見て……。

 その家具は、雑誌で紹介されているような“カッコいい”とか“斬新”とか、そういう感じでは全然ないんです。それよりももっと“人間味”があるというか……、それを見て『こういうものをつくりたい』と思ったんです」

 その講師の先生こそ、のちに笠原さんの師匠となる木工作家さんであり、その出会いからすっかり手づくりの木の家具のトリコとなった笠原さんは、卒業制作も自分で家具をデザインし、手づくりすることに。

「卒業制作だったので、1年ぐらい時間をかけて練りに練ってつくることができました。

 家具を手づくりすることはもちろん、デザインも自分で考えるというのが初めての経験だったので、周りの先生たちからはダメ出しの連続でしたけど(笑) 

 当時は自分自身も自分が思っている以上にきちんとできなくて、それがすごく悔しくて、どうすればきちんとできるのか? もっとこうしたらいいんじゃないか? と常に家具のことばかり考えていました。

 もちろん、『もっとこうしたら……』というのは今でもそうなんですが、当時学生だった自分が師匠の工房に通わせてもらって手取り足取り教えてもらいながら、1年かけて家具づくりとじっくり向き合うことができたのは大きかったですね。

 デザインについても、ものすごく突き詰めて考えることができましたし、今思えば本当にいい経験になったと思います」

 笠原さんがつくった家具は卒業制作展に出品。さらに、その卒展を見学に訪れた方から「売ってほしい」とまで言われ……。

「お断りしたんですよ。『すいません。これは売れません』と……。ただ、あとでそのことを師匠に話したら、『なんで売らなかったんだ』と怒られて(笑) 

 でも、当時の私は『売り物をつくっている』という意識もなく、ただ一生懸命家具をつくっていただけなんですよね。それに、最終的な家具の仕上がりには満足してはいたんですが、『果たしてこれで完成でいいのか』という迷いもあって……」

 笠原さんはそんなモヤモヤを抱えながら、デザイン専門学校を卒業。一度は地元に戻り、一般の会社に就職しようとしますが……。

羊のメモスタンドが出来るまで

角材をおよそ10cm四方にカットし、羊のフォルムに削り、磨いていきます。使用する木は「セン」や「エンジュ」「ミズキ」など5種類ほどで、羊の種類や毛並みに合わせて木を選び、使っているそう。

現在手掛けている羊は、「サフォーク」「ハードウィック」「スウェールデール」など10種に及ぶそう。それらのカタチが出来上がったら、最後に「足」「頭」「角」などをつけて完成!

首の傾け方や体の向きはもちろん、木の色合い、毛並みに見立てた年輪の密度なども一頭一頭違うため、集める楽しさも!

▼写真上段は2015~17年、下段は2017~20年の作品。

地元を離れ、アルバイトで食いつなぎながら6年の修行……。

「やっぱり私が初めてつくった家具を『売ってほしい』と言われたことが大きかったですね。自分が認めてもらえた、というと大げさかもしれないですが……」

 師匠から「弟子はとらない」と言われていたため地元で就職しようとした笠原さんでしたが、家具づくりへの想いは消えず、1年間派遣社員として働きながらお金を貯めようと決意。その後は、北上市で働きながら宮城県にある師匠の工房にもたびたび足を運び……。

「結局、押し掛けで弟子にしてもらいました(笑) 『来ても何もないよ?』『いや、来ます!』『家は?』『アパート借ります!』『家賃は?』『バイトします! なんとかします! お願いします!』で押し切りました(笑)」

 笠原さんはその言葉の通り、1年間貯めたお金でアパートを借り、独り暮らししながらバイトと掛け持ちで師匠の工房で6年間修業。その日々はご本人曰く、本当に“貧乏暮らし”だったそうですが、念願叶って2009年についに独立し、地元・北上市に戻り、木工作家・家具職人としてスタートを切ったのが27歳のとき。

「独立といっても、最初から仕事があるわけではありません。自分でつくった家具やカトラリーを持ってクラフト展やアート展に参加したり、師匠の工房に手伝いに行ったり……。実家暮らしだったので、最初の方はなんとかそれでやっていけたという感じですね」

▲笠原さんの作品。独立して間もなくの2009~12年は、かんざしやペンダント、スプーンなどのカトラリーが人気だったそう。
▲笠原さんの作品。2010~13年頃。

 そんな日々のなかで、転機となったのが2011年に起きた東日本大震災。

「世の中、何が起こるかわからない。やりたいことがあるなら本気でやっておかないと、あとで後悔する」

 そう思った笠原さんは、地元・北上市にある自分の工房にどっしり腰を据えて、木工の仕事と向き合おうと決意。そんなときに出会ったのが、仕事の打ち合わせ先で飼われていた一頭の羊。

「見た目がかわいいし、丸いフォルムも良くて、『木でつくったら面白いんじゃなか』と思ったんです」

 それから試行錯誤の日々。羊の飼い主さんの意見を取り入れながら、最初はペタッと寝かせていた耳を立たせ、木目も毛に見えるように工夫。それこそ最初は頭や足を本物とは違う色にして遊んでみたりと、いろいろチャレンジしたそうですが……。

「最初はいろいろやったんですが、『まず本物をつくりなよ』と言われたんです。『本物がいないと、“遊び”もわかんないでしょ』と言われて、『なるほどな~』と(笑)」

 そうして完成した木製の羊のメモスタンドをお披露目したのが、2012年に開催された「いわて木の工房展」というイベント。岩手県内で活躍する木工作家さんや家具職人さんたちが集い、自分の作品を披露するその展示会には多くの職人さんたちが顔を揃えます。

「みなさんから『面白いね』と言っていただいて、感触もすごく良かったんですよ。それが自信になりました。本物の羊にして良かったなと(笑)」

 この羊の画像をTwitterにアップし、それがイギリスの羊飼いの目にとまるのは、それから1年後のことでした。

▲上段が2012年当時の羊で、下段が2014~15年頃の羊。現在のフォルムと比べると……。当時は“本物”の羊にこだわっていましたが、
現在は頭や足の色を変えてみたり、あえて削った後のデコボコを残した“遊び心”あふれる羊も人気だそう。これも“本物”があるからこそでしょう。

▲笠原さん愛用の道具。「手道具をちゃんと使いなさい」という師匠の教えを大切にしている笠原さんの道具は、特注品や手づくりのものも多いそう。
写真左の小刀は修行中に師匠からいただいたもので、現在も切れ味抜群。

材料豊富な岩手県で、木を使った“手仕事”の魅力をひろげたい。

 家具職人として独立してからおよそ11年、羊のメモスタンドが人気となり海外からもオーダーがくるようになって7年。笠原さんは今改めて自然の木を使って手づくりする、この仕事の難しさと向き合っています。

「極端な話、私が死んでも、私がつくった羊や家具はずっと残るんですよ。特に家具は孫の代まで使えるものですから、変なものはつくれないですよね。

 ですから、少しでも違和感があれば、そこを突き詰めて……。木の家具の難しいところは、自然の木は動くんですよ。呼吸もするし、時間が経てば反ったりもします。それが果たしていつ出るのか、反りが出たときにどう見えるのか……。

 そこまで意識してつくってはいるんですが、家具はお客さまの家の環境、例えば家具を置く部屋の湿度にも影響されて変化するので、2年、3年と経ったときに木がどう動くのか……。自然の木は本当に奥が深いですし、だからこそ面白いですね」

 そう語る笠原さんに、今後の夢を伺うと……。

「『自分もやってみたい』というヒトを増やしたいですね。職業として木工をやっているヒト、家具をつくっているヒトが、県北に比べて県南はすごく少ないんですよ。

 岩手県は森林面積が北海道に次いで全国2位で、私が扱う広葉樹の出荷量も全国2位なんです。こんなにも材料が豊富な恵まれた環境にあるわけですから、それを生かした“手仕事”の良さがもう一度見直されて、もっともっと職業として家具職人や木工作家の方が増えていってくれたら……」

 「そういうお手伝いができたら」と語る笠原さん。Twitterがきっかけでイギリスの羊飼いと出会い、海を渡った“羊”たち。そのひとつひとつには、森林資源に恵まれた岩手の“手仕事”の素晴らしさをひろげようとする笠原さんの想いも詰まっています。

 どこかでその“羊”たちと出会ったら、そのなかにきっと、あなたと“目が合う”一頭とめぐり合えるかも……。その日をお楽しみに!

▲現在、制作中の羊。

▲笠原さんの作品。2013年から現在まで。“羊”が人気となってからは、干支を題材にしたオーダーも多いそう。下段中央は、来年の干支“牛”の置き物。

▲海を渡った“羊”がご縁で、映画にも登場する著名なフランスのカフェからオーダーも。写真は、糸を絡ませずにスムースに引き出すための道具「ヤーンボール」。
一般的なものよりひと回り小さく、さらに木製のものはヨーロッパでは珍しいそうで、現地でも好評とのこと。

笠原さんの師匠「家具工房 飛鷺(ひろ)」さんの詳細は、
下の写真をクリック!

(了)

wood works crando(ウッド・ワークス・クランド)

岩手県北上市口内町松坂34

Tel/090-1370-2197

Mail/wood.works.crando@gmail.com

2020-12-02|
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