“劇場”と“地域”をつなぐ挑戦。1/31、いよいよ舞台の幕があがった。
1月31日(日)の昼下がり、北上市文化交流センター「さくらホール」の一角には、開演を今や遅しと待ち望む老若男女の姿が……。
この日は、北上市で40年以上続く「北上市民劇場」の44回目の公演。残念ながら昨年の公演がコロナの影響で中止となってしまったため、観客を前にお披露目する舞台はおよそ2年ぶりとなりますが、注目を集める理由はそれだけではありません。
「北上市民劇場」では今回のコロナのピンチをチャンスと捉え、“劇場”と“地域”の関係を改めて見つめ直そうと新たな取り組みにチャレンジ。
その詳細は前回の記事をご覧いただければわかりますが、簡単に言えば、地域の方へのインタビューを基に脚本をつくり舞台化。さらにそれをインタビューした地域の方にも観ていただき、想いを分かち合おうというもの。
(前回の記事はこちら! ⇒ 全集中! 愛の呼吸で挑む!? 1/31、北上市民が愛をさけぶ! 地域のヒトの想い、届け!!)
今回は「さくらホール」のある黒沢尻2区の方に「愛するもの」をテーマにインタビューし、それを基に4つの“愛”のカタチを舞台化しました。
つまり、この日の演劇を楽しみにしていたのは、一般の演劇ファンはもちろん地域の方たちも、でした。
劇場と地域、舞台と客席、共感と感動……。“演劇”を通して、つながる時間。
注目の舞台は、午後2時を少し回って開演。
地域の方たちへのインタビューを基に生まれた4つの“愛”の物語の幕があがりました。
◇Episode-1
第十一回 黒沢尻仲人サミット
方言を生かしたリズミカルな会話に笑いの華が咲く!
「愛するもの」がテーマとなれば、「結婚」の話題は避けて通れません。黒沢尻2区のお年寄りにお話をうかがうと、昔の結婚は「お見合い」が多かったそう。各地に世話焼きのプロ=仲人がいて、ああだこうだと世話を焼かれるのが面倒臭くもあり、面白くもあったと懐かしそうに語るお年寄りたちのエピソードから生まれたのが本作。
トラブルメーカー、押しの強いキャラ、なだめ役……、個性豊かな仲人たちが集い、「あの娘っこはどうだ」「この若い衆はどうだ」とざっくばらんに言い合う会話劇の最後に登場する少年の言葉に……。今でもどこかで語られていそうなリアルな会話に会場から何度も笑いが起きていました。
◇Episode-2
駄菓子屋から始まる恋
演劇部に所属する地元の女子高生が脚本・主演を担当!
東京から疎開してきたヒトと結婚したという方のエピソードを基に、疎開先の駄菓子屋で働く女性と小説家を志す地元の男性との出会いを、10代ならではのみずみずしいタッチで描いたのが本作です。
甘酸っぱいストーリーの背景には、働き盛りの男性はみな出征していたため、女性がひとりでお店を守っていたというエピソードがあり、お芝居の後のフリートークでは「昔はそのお店のお母さんの名前が店名だった」という地域の方の思い出話も聞くことができました。
◇Episode-3
結婚タクシー
水沢から北上市へ。嫁ぐ娘と母の会話、こぼれる本音にしんみり。
Episode-1同様「お見合い」がテーマの本作ですが、こちらはお見合いで1回しか会ったことのない男性と結婚することになった女性のお話。親族から盛大に見送られ、結婚式の会場までお母さんと一緒にタクシーで向かう道中で思わずこぼれる本音、「あたし、幸せになれるのかなあ……」。
「お見合い」から「自由な恋愛」へと移り変わる時代の狭間でそれぞれの「幸せとは?」を見つめる作品。タクシーの運転手という第三者が加わることで、気丈に振る舞うお母さんから思わずこぼれる本音に……。
物語の基となるエピソードを語ってくれたという地元の女性も会場に訪れており、自分の経験からひろがる物語の世界に感激している姿も、この日ならではの風景でした。
◇Episode-4
がまやち新年会
「さくらホール」に託す想い。さまざまな視点で語られる地域への愛。
最後を飾る作品は、ちょっと長編。1998(平成10)年の蒲谷地(がまやち=現在の黒沢尻2区)の区長宅で行われた新年会が舞台です。
紆余曲折を経ていよいよ「文化交流センター(現在のさくらホール)」の建設が本決まりとなり、集まった人々も安堵の様子。お酒も進み、和気あいあいとした楽しい宴会は、しかし東京からUターンしてきた若者の話題になると一転……。
故郷が変わっていくことに戸惑う者、地域の発展に未来を託す者、さまざまな想いが交錯しますが、地域を想う気持ちは……。
印象的だったのが、区長の最後の長セリフ。そこには地域の在り方はもちろん、「さくらホール」の在り方にも通じる想いが込められているようでした。
会場には登場人物のモデルとなった方たちも訪れており、お芝居の後のフリートークでは感想をうかがうことも。みなさんの言葉からは、地域の問題を正面から受け止め舞台化してくれた点と、役者さんたちの熱のこもった演技とセリフを通して地域の歴史に改めて触れることができた点に感激している様子が伝わってきました。
“劇場”と“地域”の関係を改めて見つめ直そうと取り組んだ「北上市民劇場」の新たな挑戦は、4つの“愛”の物語とともに、こうして幕をおろしました。
コロナ対策により人数制限を行ったうえでの開催とはなりましたが、40名ほどの観客と20名ほどの出演者たちが創り出す空間は、演者と観客との心の距離感も近く、“劇場”と“地域”の関係を改めて見つめ直そうという今回のチャレンジにはむしろぴったりだった印象でした。
コロナ禍の今、できること……。「北上市民劇場」の挑戦は、これをステップに次のステージへ。来年度の取り組みにどのようにつながっていくのか……。
乞うご期待!
(了)
第44回 北上市民劇場
新・演劇プログラム
話して 演じて 観て 分かち合う 北上人の知られざる人生
プログラム「黒澤尻2区の愛のさけびを
自分たちでさけぶ」
劇の発表会/2021年1月31日(日)
会場/北上市文化交流センター「さくらホール」 大アトリエ
開場/13:00
開演/14:00
入場料/無料
主催/一般財団法人 北上市文化創造、北上市民劇場を盛り上げる会やっぺし
共催/北上市、北上市教育委員会、黒沢尻二区区民協議会
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