ワクワクするスポーツ店をつくるため。イノシシのように突っ走る母を、スポーツ万能の娘がサポート!

和賀スポーツ・佐助酒店 
佐藤仁実(さとう ひとみ)
佐藤満里愛(さとう まりあ)

日本で唯一!? スポーツ店でお酒も売っている誇り。

「私、中学生の頃、みんなに『和賀(わが)ちゃん』て呼ばれてたんですよ。本名は『佐藤仁実』なんですけど、みんなは私を『和賀仁実』だと思っていたみたい」

 そう言って楽しそうに笑うのは、北上市内の新穀町商店街に店を構える「和賀スポーツ・佐助酒店」の営業を担当する“佐藤”仁実さんです。 

 北上市内にあるのに、苗字は佐藤なのに、なぜ店名が「和賀スポーツ」なのか? なぜスポーツ店でお酒も売っているのか? 次々に疑問が出てくるので尋ねると、答えは大正時代にまでさかのぼるとのこと。

 仁実さんのひいおじいちゃん・佐藤助四郎氏が大正14(1925)年にこの地に開いたのが、自身の苗字と名前の一字を取って命名した「佐助酒店」。

 その後、仁実さんのおじいちゃん・忠次郎氏の代となりますが、忠次郎氏は陸上の三段跳びの岩手県記録を持ち、のちに岩手県ソフトボール協会の創設に尽力した方で、スポーツへの情熱は並々ならぬものがありました。

 そうした経緯もあり、当時は北上市にスポーツ店がなかったため、「それなら自分がやろう」と酒屋をやりながら昭和21(1946)年に開業したのが「和賀運動具店」です。

 当時「北上市」は「和賀郡」と呼ばれていたため、店名に「和賀」を入れ、現在の「和賀スポーツ」という名にも受け継がれているとのこと。北上の地で創業90年を超えるお店の長~い歴史が、そこには隠されていました。

 しかし、スポーツ店がなかった昔ならともなく、今の時代はどちらかのお店にしぼった方が良いのでは? というこちらのお節介も、仁実さんはどこ吹く風。むしろ、“スポーツ店でお酒も売っている”ということを仁実さんは誇りにしています。

「私は日体大(日本体育大学)出身なんですが、日体大には日本全国からスポーツが得意なヒトたちが集まるんですよ。で、周りの友達に地元でスポーツ店と酒屋をやっているお店があるか聞いたんですけど、誰に聞いてもそんなお店はないって言うんです。

 おそらく、うちみたいなお店は日本全国探してもないんじゃないかと思って。それはそれですごい。何より、佐助酒店はうちの商売の原点でもあるので、ずっと残していきたいんですよね」

 「正直、お酒の売り上げは少ないですけど」と言って朗らかに笑う仁実さんには、お店をはじめてくれたひいおじいちゃんと、スポーツ店を開いてくれたおじいちゃんへの感謝の気持ちがありました。

一見、どこのマチにもあるスポーツ店のようですが……。
店の一角には、お酒がずらり……。そこには、創業90年を超えるお店の長~い歴史が隠されています。

ネットでなんでも買える時代だからこそ、“ヒト”を大切に。

 しかし、住民がどんどん引っ越して新穀町商店街もかつての賑わいが失われているなか、お店を経営するのは大変です。仁実さんはそれをどう乗り越えて、90年以上の歴史があるお店を守り続けているのでしょうか。

「私は商店街に育てられたので、ここで頑張ろうと残りました。ただ、商店街がどうこうの前に、まず自分のお店を輝くようにしなきゃいけないと思って、3年ほど前から日体大の先輩の紹介でマチナカでスポーツ店をやっている日本全国のお店が集まる勉強会に参加させてもらっています。

 そこでは年に3~4回ぐらい全国のお店にみんなで見学に行って、成功しているノウハウを学んだり、逆にもっとこうした方がいいんじゃないかと意見交換したりするんですが、それがとても勉強になります」(仁実さん)

 「和賀スポーツ・佐助酒店」の店内を眺めると、さまざまなスポーツアイテムが並び、一見普通のマチナカにあるスポーツ店のようにも見えます。しかし、よく見ると仁実さんが勉強会で学んだアイディアやノウハウが随所に散りばめられているのがわかります。

 店内の壁には、北上市出身のボクサー、箱根駅伝を走ったランナー、岩手のプロバスケットチームなどの写真やサインが飾られたコーナーが。

 その狙いを尋ねると、「北上でスポーツするヒトを応援する店にしたいんです」と仁実さん。取材に訪れたこの日はちょうど「全国高等学校ラグビーフットボール大会」に4年連続で出場する黒沢尻工業高校ラグビー部が花園に持っていくアイテムを準備しているときでした。

「花園にも応援に行きますよ! 高校野球も最後の夏の大会は応援に行きますし、公民館で運動会があれば、そこにも。

 ネットでなんでも買える時代に、うちみたいな小さなお店は安さや品数では太刀打ちできない。だから、“ヒト”で勝負するしかないと思うんです。“ヒト”と“ヒト”との関係を大切にしていかないと」(仁実さん)

 「お客さまにしっかり説明できること」をモットーにラインナップを揃えるサプリコーナーには、お子さんの成長期に必要な栄養をサポートする「身伸革命」なる珍しいサプリも。

「このサプリも勉強会で教えてもらいました。他に元プロ野球選手が考案した泥汚れ専用洗剤『レギュラー』というのもあって、これも岩手ではうちにしかないと思います。息子も野球をやっていたからわかるんですが、野球やっているとユニフォームの泥汚れを落とすのって大変じゃないですか。それに特化した洗剤で、おすすめですよ。

 どこにでもあるものじゃなくて、ここにしかないものを揃えることでお客さまに実際にお店に足を運んでもらって、きちんと説明して納得して商品を購入してもらえるようにしたいと思って。

 他にもうちはユニフォームやTシャツをチームで揃えたいというお客さまにも納得して購入してもらえるように、対面式でじっくりお話できるようにしているし、そういうことはネットではできないじゃないですか」(仁実さん)  

 ネットでなんでも買える時代だからこそ、仁実さんはあえて“ヒト”と“ヒト”にこだわったお店づくりで自店を輝かせようと地道に取り組んでいました。

「北上出身のヒーローたち」と題した一角には、北上出身のスポーツ選手の写真やサインが並び、「夢を持ち頑張っている人を和賀スポーツは応援します」という言葉が添えられていました。
「お客さまにしっかり説明できること」をモットーにしたサプリコーナーには、「身伸革命」なる珍しいサプリも。他にはないものも揃えることでお店に足を運んでもらう狙いです。
元プロ野球選手が考案した泥汚れ専用洗剤「レギュラー」も、岩手ではここだけかも!?
ユニフォームやTシャツをチームで揃えたい方の要望にしっかり応えるため、カウンターも対面式の広いスペースに。

「お店を手伝う」と言ってくれた愛娘と、重なる自分の後悔。

 今まで「和賀スポーツ・佐助酒店」は、仁実さんのお父さんであり社長でもある實(みのる)さん、お母さんの恵子さん、仁実さんの妹の恵美子さんなどがお店を支えてきました。そこに、2017年10月から頼もしい仲間が加わりました。仁実さんの長女であり、同店の看板娘・満里愛(まりあ)さんです。

 満里愛さんは小さい頃からスポーツ万能で、小学校時代は水泳・ミニバスケット、陸上では市の大会で新記録も出すなど活躍。中学ではソフトボール部のエースとして名を馳せ、高校はさらに上を目指して埼玉県にあるソフトボールの強豪・埼玉栄高等学校に進学。3年生のときには埼玉県予選の決勝でインターハイ出場を決める逆転3塁打を放つなど活躍しました。

 そんな満里愛さんですが、高校卒業後の進路で悩んだ時期も。

「ソフトボールを続けるなら大学に進学するんでしょうけど、私の場合は高校でやりつくした感じだったんです。それに高校も地元ではなく自分の意思で埼玉栄を選んで、親にもお金の面で苦労をかけました。だから何の目的もなく大学に進んでまたお金の面で親に迷惑をかけるのも嫌で、どういう道に進もうか悩んでいました」(満里愛さん)

 そんなとき、満里愛さんの背中を押してくれたのが、仲の良い3つ下の弟・慎巴(しんば)くんの「俺が和賀スポーツを継ぐから、満里愛も一緒にやろう」という言葉。そのひと言で、「和賀スポーツ・佐助酒店」で働く決意をします。が、それにしても仲の良い弟のひと言とはいえ、満里愛さんはスポーツ店で働くことに迷いはなかったのでしょうか。

「全然、迷いはなかったです。実家がスポーツ店で、小さい頃からいつも最新のシューズを履けたり、最新のウェアや水着を着れたりして、いい思いをいっぱいさせてもらったから。

 それに、中学とか高校の頃って、スポーツ店に入るとワクワクしませんでした? 最新のシューズやウェアがあって魅力的じゃないですか。そういう、子どもたちがワクワクするようなスポーツ店をずっと残していきたいという想いはずっとあったんです」(満里愛さん)

 本来であれば、我が子がお店を手伝ってくれるのはうれしいことですが、仁実さんは自分の過去を振り返って後悔することがありました。

埼玉県予選の決勝でインターハイ出場を決める逆転3塁打を放つ満里愛さん。3年生のときには副キャプテンとしてチームをまとめるのに苦労したそうですが、その経験が今の糧になっているとのこと。
「全国高等学校ラグビーフットボール大会」に出場する黒沢尻工業高校ラグビー部が花園に持っていくアイテムを準備する満里愛さん。
 

泣きたくなるような“丁稚奉公”の経験を糧に。

 仁実さんは二人姉妹の長女で、いずれは「自分がお店を継がなきゃ」と考えていました。ただ、高校時代はソフトボール部のエースとして県選抜にも選ばれる活躍で、日本体育大学に進学後もソフトボール部へ。そうしたなかで、将来は学校の先生になりたいという夢もふくらみました。

 大学卒業後、仁実さんは北上に帰郷。南中学校、和賀西中学校、北上中学校などで臨時ではありましたが、体育教師として働き、先生になる夢を叶えます。一方で、お店の手伝いも続け、「和賀スポーツ・佐助酒店」一本に軸足を移したのは三十代も半ばの頃。

「そのとき思ったんですよ。私は先生になるのが夢だったので、先生の勉強しかしてこなかったし、お店の仕事もうちのことしか知らない。でも、こういうお店をやるならスポーツ用品のメーカーに勤めたり、他のスポーツ店で経験を積む道もあったのかなって。ただ、そう気づいたのが三十代半ばで今さら他に行ってもねえ(笑)」(仁実さん)

 そんな後悔があったからこそ、仁実さんは「お店を手伝う」と言ってくれた愛娘に他店で経験を積む道、仁実さん曰く“丁稚奉公”をすすめます。そして、満里愛さんも母の想いを汲んでか、他店で修行する道を選びます。

 こうして満里愛さんは再び北上を離れ、仁実さんが参加している勉強会のつながりで栃木県にある「アベスポーツ」さんに修行へ。しかし、そこには泣きたくなるような“丁稚奉公”の辛い日々が待っていました。

 満里愛さんが「アベスポーツ」さんで最初に担当したのが野球フロア。接客はもちろん、スパイクのつま先部分を保護するP革の取り付け、スパイクの修理、グローブの紐やウェブ(ボールを捕球するネットの部分)の交換なども1年でひと通りできるようになりました。

 翌年は陸上・サッカーのスパイクやウェアなどのフロアを担当。さらに、3年目はテニス・ラケットのフロアとともに通信販売の仕事も兼務することになりますが、パソコンはもちろん通販特有の電話によるお客様対応も初めての経験で、マニュアルもなく最初は“泣きたくなる”ほど苦労したそう。

 しかし、それもなんとか乗り越えてようやく仕事が楽しくなってきた頃、「和賀スポーツ」が多忙となり、急きょ帰郷することに。

先生時代の仁実さんですが、何か?
「和賀スポーツ・佐助酒店」を支える女性陣。左から、仁実さんの妹でエアロビックスのインストラクターでチアリーディングの指導者でもある恵美子さん、満里愛さん、満里愛さんのおばあちゃんで市議会議員も務める恵子さん、仁実さんです。
仁実さんのおじいちゃん・忠次郎氏は岩手県ソフトボール協会の創設に尽力。仁実さんのお父さんで社長の實さんは、市内の中学校でソフトボール部のコーチを30年以上務め、仁実さんや満里愛さんも……。「和賀スポーツ・佐助酒店」はソフトボールへの愛情も、どこよりも深いスポーツ店でした。

“丁稚奉公”を経験して、改めて知った母のすごさ。

 「和賀スポーツ・佐助酒店」では、北上市内を中心に幼稚園をはじめ小・中・高・大学指定の運動着や部活動で使用するユニフォーム・運動具なども取り扱っており、そうした学校や部活動の担当者さんをまわる外商の仕事は仁実さんがひとりで担当していました。

「本当はアベスポーツさんで4年修業する予定だったんですが、結局2年半で北上に戻ってきました。外商の仕事は最後の年にやらせてもらえる予定だったので、その経験も積みたかったんですけど、母がひとりでやっている外商の仕事が忙しくなって、ひとりじゃ手がまわらないというので戻ったんです」(満里愛さん)

 こうして2017年10月23日、満里愛さんは「和賀スポーツ・佐助酒店」の看板娘として店頭に立ち、仁実さんと手分けしてお世話になっている学校をまわる日々がはじまり、現在に至ります。

 予定より短い期間となってしまったとはいえ、2年半にわたって他のお店の仕事を経験した満里愛さんに、北上に戻ってきたときの感想を伺うと……。

「こんなに小さなお店だったのかってビックリしました。子どもの頃はお店のなかでよく遊んでいたので、すごく大きく感じてたんですけどね。それと改めて母はすごいなと思いました。自営業だし、さぼってよさそうなときでも、全然仕事をさぼらないで、ホント、がんばってるなって思います。

 ただ、イノシシみたいに突っ走るタイプなので、みんなが付いていけなくて、こぼれることもいろいろあるんですけど……。でも、尊敬はしています!」(満里愛さん)

 そう言って笑う満里愛さんですが、どんどん突っ走るイノシシのような母を、スポーツ万能な娘が全力で追走し、フォローする関係が「和賀スポーツ・佐助酒店」の推進力になっているようです。

お世話になった「アベスポーツ」の社長さんと。「社長もイノシシで突っ走るタイプです。母といい社長といい、私の周りにはイノシシが多い」と満里愛さん。
働きはじめた当時の様子。同店の社長であり、頑固一徹なガット張り職人でもある實さんから指導を受ける満里愛さん。實さんはふだんは満里愛さんにやさしいおじいちゃんですが、ソフトボールと仕事には厳しいそうで、満里愛さんも緊張した様子。

北上になくてはならないスポーツ店へ。

 現在、満里愛さんの仕事は北上市周辺の学校をまわる外商の仕事と、インスタグラムで情報発信をすること。また2018年6月には、県産農畜産物を全国へアピールするJA全農いわてのイベントスタッフ「2018いわて純情むすめ」の7人にも選ばれ、2019年5月まで全国のイベント会場で県産農畜産物の魅力をPRする仕事もしています。

 さらに、エフエム岩手で毎週火曜の夜(19:00~19:55)に放送している「モコの夜はこれから!」のレポーターのお手伝い(?)も担当。頓珍漢な受け答えが好評で、「和賀スポーツ・佐助酒店」の看板娘として今後はいろんな分野にも積極的に進出し、多彩な切り口でお店のPRに努めていくそうです。

 ちなみに、お店を継ぐと言った満里愛さんの弟・慎巴くんですが、彼も小さい頃からスポーツ万能。中学時代はバスケットボールで岩手県選抜のキャプテンに選ばれ、陸上ではジュニアオリンピックで全国2位に。現在は日本体育大学の陸上部に在籍しており、「いずれはオリンピックに」と夢もふくらんでいるため、仁実さんと満里愛さんの母娘コンビに慎巴くんが加わるのは、しばらく先になりそうです。

 さて、2019年は亥(イノシシ)年。自他ともに「イノシシ」と認める猪突猛進型の仁実さんが活躍しそうな年ですが、今どんな想いを抱いているのでしょうか。

「北上になくてはならないスポーツ店にしたい。なくなっても別に関係ないってみんなが思うようなお店ではだめなんじゃないかと思っていて。やっぱりひいおじいちゃんが開いて、忠次郎おじいちゃんが『スポーツをするための道具を揃える場所がない』ってはじめたお店なので、それをなくしたくないという想いが強いです。

 ですから、時代に合わせてマチナカにあるスポーツ店の在り方を探りながら、北上になくてはならないスポーツ店だとみなさんに思ってもらえるようにしていきたいですね」(仁実さん)

 そんな想いを抱いて、勉強会で学んだいろんなアイディアで自店を輝かせようと突っ走る仁実さんを、満里愛さんがどのように乗りこなすのか? 「和賀スポーツ・佐助酒店」の今後に注目です。が、そんな2人の活躍を誰よりも楽しみにしているのは、天国から見守る助四郎氏と忠次郎氏のお二人かもしれませんね。

「2018いわて純情むすめ」のひとりとして、全国で県産農畜産物の魅力をPRする満里愛さん。
高校時代は満里愛さんと同じ埼玉栄高等学校に進学した慎巴くん。ケガに苦しみましたが、それを乗り越え、現在は日体大の陸上部でさらなる高みを目指して頑張っています。
猪突猛進型の仁実さんをどう乗りこなすか、「和賀スポーツ・佐助酒店」の未来は満里愛さんの手に!?
母娘、二人三脚の日々がこれからも続きます。

◇仁実さんはラジオでも大活躍! 詳細はこちら!

◇「和賀スポーツ・佐助酒店」の新商品情報など、最新の取り組みはこちら!

◇ 満里愛さんが手掛けるお店のインスタグラムはこちら!

◇ 満里愛さん の頓珍漢な受け答えが好評! エフエム岩手で毎週火曜(19:00~19:55)にオンエア中の「モコの夜はこれから!」の詳細はこちら!

(了)

和賀スポーツ・佐助酒店  

岩手県北上市新穀町1-3-22

Tel/0197-63-3052

営業時間/月~土曜日9:00~20:30

     日曜日・祝日9:00~19:00

定休日/不定休

2018-12-28|
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