1男5女を育てながら、 助産師としてママの不安に寄り添う。 夢は、子どもを産み育てたい街へ。

助産師・NPO法人まんまるママいわて副代表・人形準講師・クラフト作家

千田優子(ちだ ゆうこ)

産前産後の女性たちの不安に寄り添う場所へ。

赤ちゃんを連れて出かけられる場所。

悩みや不安を聞いてもらえる場所。

「がんばってるね」と認められる場所。

「大丈夫なんだ」と安心できる場所。

 お産や子育てと向き合う女性たちの悩みや不安に寄り添い、居心地よく過ごせる、ママさんの“居場所”をつくろう……。

 そんな想いを抱いて、今から10年以上も前にスタートしたサロンが「北上まんまるお月さま」。助産師さんとママさんたちが地域でつながれる場所として、北上市内にある「さくらホール」で現在も毎月1回開催されています。

 ここで気になるのが、なぜママさんと、“助産師さん”なのか?

 助産師さんというと、「分娩を介助する」のが仕事だと思っている方も多いのではないでしょうか。もちろん、それも重要な仕事ですが、助産師さんの仕事はそれだけにとどまりません。

 妊婦さんの健康管理、食事・運動などの生活指導にはじまり、分娩の介助はもちろん、出産後にはママさんの体調管理、母乳指導、乳児指導も行い、ママさんに寄り添いながら新しい命の誕生と新生児の健康管理もサポート。

 さらに、不妊治療、更年期障害などへのアドバイスなども行うため、「女性の一生を担う仕事」ともいわれています。

 また、学校などでの性教育指導、成人の方に向けた家族計画指導の役割も担うなど、仕事内容は多様。

 そんな助産師さんと、お産や子育てをがんばるママさんたちが、自分たちが暮らす地域でつながる場があれば、お産や子育てに悩みや不安を抱えるママさんたちの心の負担を取りのぞき、安心してお産や育児と向き合えるのではなかいか……。「北上まんまるお月さま」は、こうして誕生したのでした。

 この取り組みに、サロンの立ち上げから現在までずっと携わっているのが、助産師の千田優子さんです。

北上市内にある「さくらホール」の一室で、毎月第2土曜日に開催される「北上まんまるお月さま」の様子。

助産師の経験と、1男5女を産み育てる経験を糧に。

 千田さんは、東京にある「国立国際医療研究センター」の産婦人科病棟で助産師として2年間勤務。その後、北上に帰郷し結婚・出産。現在16歳を筆頭に、13歳、11歳、8歳、6歳、2歳の1男5女を育てるママさんでもあります。

 千田さんは助産師としての知識と経験、さらには1男5女を産み育てる経験を生かし、ママさんたちのさまざまな悩みや不安に寄り添ってきました。

「『北上まんまるお月さま』では、専門家を招いて“食”とか “遊び”とか“母乳”とか毎回テーマを決めた講座を開いていて、それが終わったら助産師さんにいろんな相談をしたり、ママさん同士で交流したりしてのんびり過ごせるようになっています。

 北上だけでなく、岩手県は全般的に分娩施設が少ないですし、核家族化が進んで近くに頼れる親がいない場合も多い。

 そうしたなかで迎える初めての出産や子育てとなると、『こういうやり方でいいのか』と独りで悩みや不安を抱えながら、でも誰に相談すればいいかわからず困っているママさんがたくさんいらっしゃいます。

 それに妊婦さんのときは『荷物持ちましょうか』とか『席譲りましょうか』とか気にしてもらえるんですけど、赤ちゃんが生まれると、みんな赤ちゃんに目がいくじゃないですか。

 『あら、かわいいわね』とか、靴下履いてないと『足、冷たいよ。靴下履せなきゃ』とか言われる。パパも仕事から帰ると『赤ちゃん、どうだった?』とか赤ちゃんのことばかり……。

 もちろん、それもすごくうれしいことなんですけど、ママさんにももっと目を向けてほしいと思って。赤ちゃんが生まれると、ママさんは24時間子育てに時間を捧げます。

 とくに初めての子育てとなると、わからないこともいっぱい出てくる。気分転換したいけど、赤ちゃんを連れて出かけられる場所もほとんどないから、家に閉じこもってしまって、他のヒトと話す機会もなくなる。

 そんなときに赤ちゃんを連れて外に出かけられて、誰かに悩みや不安を聞いてもらえて、『大丈夫だよ』『がんばっているね』って言ってもらえて、仲間とのつながりもできて、ママさんたちが元気になって家に帰れる。そういう場所にしたいねと仲間と話し合ってはじめたんです」

 「北上まんまるお月さま」が生まれた背景を、千田さんはそう語ってくれました。

千田さんと1男5女の子どもたち。パパさんは……、写真を撮ってます!

「まんまるママいわて」でさらにひろがるママさんの輪。

 千田さんは、大震災後に誕生した「NPO法人まんまるママいわて」(2015年に「いわて助産師による復興支援・まんまる」から改称)の副代表も務めています。

 「まんまるママいわて」は、北上市・花巻市・釜石市などで、助産師さんとママさんをつなぐ子育て支援事業を展開。「北上まんまるお月さま」もその事業の一環となり、現在北上市では同じく月1回行っている「北上ヨガ」と併せて活動しています。

「出産すると筋力が落ちちゃうんですよ。しかも、出産後は育児が中心で、抱っこに授乳、オムツ替えと前屈みの姿勢が多いから首とか肩も凝っちゃうし、育児に忙しくてママさんたちは自分の体のことを気遣う暇もない。

 そもそも赤ちゃんを連れてヨガができるところがないということもあるんですが、私たちがヨガをやるのは出産で落ちた筋力を取り戻してもらうため。子育てって筋力を使うので、筋力がないと疲れやすくなるし、そういう面でも筋力アップしてもらおうと思って毎月1回ヨガ講師を招いてやっています。

 助産師さんもいるのでヨガでリフレッシュしたあとは自分自身の健康のこととか、抱っこ紐のやり方とか、そうした不安やちょっとした疑問も解決できるようにしています。

 私もずっとこの取り組みに携わって、いろんなママさんと出会ってきましたが、みなさんいろんな悩みや不安を抱えて育児しているなかで、誰かに『大丈夫だよ』『がんばってるね』って言ってもらいたいんだろうなって思うんですよね。

 周りがみんな赤ちゃんばかりに目がいくなか、せめてここではママさんたちが主役になれる、みんなに認められる場所になればいいなと思っています」(千田さん)

毎月第4木曜日に黒沢尻北地区交流センターで開催される「北上ヨガ」の様子。中央には赤ちゃんたちの元気な姿も。

友達にも話せないプライベートな悩みにも寄り添って。

 ママさんの悩みは出産や子育てのことだけではないと、千田さんは語ります。

 家族との関係、仕事から離れている不安、それ以上に大きな仕事に復帰するときの不安、それこそ高齢出産の方になると親の介護の問題も出てきて、でも知っている友達には話しづらいことも多く、誰に相談すればいいかもわからず、独りで悩みを抱えているママさんも多いといいます。

「そういう悩みも私たちスタッフには守秘義務があって、他には漏らさないようになっています。

 ですからみなさん、いろんな悩みを打ち明けてくれます。話すことで解決はしないけど、でも自分のなかで解決の糸口を見つけてすっきりするというか、元気になってみなさん帰っていかれます。

 それでまた悩んだりつまづいたりしたら、話しに来てもらえばいい。実際、『また話しに行っていいですか?』と電話して来てくれるママさんもいます。

 それに出産して1年ずっと赤ちゃんと2人っきりで生活していると大人としゃべる機会もどんどん少なくなるので、ママさんたちはしゃべれなくなるというか、言葉が出てきづらくなるんですよ。

 夜、旦那さんが帰ってきてから話すといっても、そんなにたくさん話すわけでもないですし。ですから、こういう場所でしゃべることで、ヒトと話す感覚を取り戻して仕事復帰に備えるという部分でも役に立っているのかなとは思います」(千田さん)

 出産の不安、子育ての悩み、家族の問題、仕事復帰への不安……、ママさんや赤ちゃんの健康のことはもちろん、ママさんの揺れる心にも寄り添い、支え続ける「まんまるママいわて」の輪は、仕事の復帰までを見据え、地域のママさんたちをやさしく包み込んでいました。

「北上まんまるお月さま」の様子。千田さんは同サロンが立ち上がった10年以上前から、この取り組みを支えてきました。

もっともっとママにやさしく、子どもを産み育てたいと思う街へ。

 「まんまるママいわて」では産前産後の女性の体と心をケアするため、2016年10月に助産師さんのいる産前産後ケアハウス「まんまるぽっと」を花巻市に開設しました。

「まんまるぽっと」では、母乳ケア、骨盤ケアなどを受けながら、ママさんの心と体のことを考えたランチを食べて、1日のんびり過ごしてもらうデイサービスから、ご自宅に伺う訪問相談まで、産前産後の女性からそのご家族まで幅広くケアするさまざまなサービスが受けられるといいます。岩手県初となるこの取り組みを知って、 北上市からも利用するママさんがいらっしゃるそう。

 この取り組みにも千田さんは助産師として参加していますが、そこには夢がありました。

「こういう施設が北上にもできたらいいなって思いながら仕事しています。北上でも昨年の夏から地域の助産師さんによる訪問相談がスタートして産前産後の女性たちをサポートする取り組みが充実してきましたが、『まんまるぽっと』のような施設ができたら、ママさんたちも安心 して赤ちゃんを育てていける と思うんですよね」(千田さん)

 さらに、千田さんは地域のママさんをはじめ、女性たちが世代を超えてつながり、「手を動かしながら、おしゃべりを楽しむ場になれば」との想いから、「てしごと&お人形教室 アトリエ・たね」という取り組みをプライベートで行っています。

千田さんが開いている「てしごと&お人形教室  アトリエ・たね」の様子。同じフロアにベッドもあるため、赤ちゃん連れでも気軽に参加できます。

 千田さんは1男5女を育てるなかで、布に羊毛を詰めて手づくりする素朴であたたかみのあるスウェーデン生まれのウォルドルフ人形と出会い、自分の子どもたちにも一体一体手づくりし、プレゼントしてきました。

 そうしたなかで手仕事の楽しさを知り、人形の準講師の資格を取り、クラフト作家としても活動するように。そして、ついには「アトリエ・たね」を開いて地域のヒトたちにも教えるようになったといいます。

「1男5女を育ててきて改めて思ったんですけど、子育てって懐をひろげられるというか、何屋さんにでもなれるんだなって。

 助産師として病院に勤めたのは2年ほどで他の方に比べたら経験は少ないですが、母親になったことで得たものも多い。裁縫についても私はもともと針を持つヒトではなかったんですが、子育てするうちに裁縫と出会って手仕事の楽しさを知って教室まで開くようになった。

 出産とか子育てをすることで、いろんなことをあきらめなきゃいけないと考えるママさんもいらっしゃいますが、そんなことはないと思うんです。ママさんだからこそ、ひろげられる世界もきっとある。『お母さんだからって、あきらめなくてもいいんだよ』ということを私は 、ささやかだけどお伝えしていきたいと思っています 」(千田さん)

「ですから、いろいろやっていますが、『あなたの職業は?』と聞かれたら、私はやっぱり『母親です』と答えます」 そう言って千田さんは朗らかに笑います。

 1男5女を育てながら、助産師としてさまざまなママさんたちの悩みや不安に寄り添い続ける千田さん。そこには『母親』であることに対する大きな誇りと、『母親』という職業に対する深い愛情がありました。

 だからこそ、もっともっとママさんたちが認められる場所を……。そして、もっともっとママさんたちが認められ、子どもを産み育てたいと思える街へ……。

 最初の一歩は、千田さんから赤ちゃんのいるパパさんへのアドバイスです。

「今晩、家に帰ったら、赤ちゃんのことはもちろん、ママさんのことも気遣って『今日は少しは休めた?』とかやさしい言葉をかけてあげてください。それだけでママさんは元気になると思う。ママが笑顔だと、赤ちゃんも、パパさんも笑顔になるでしょ?(笑)」

2針で目と口を表現するシンプルな表情が特徴の「ウォルドルフ人形」。子どもたちがこの人形と遊んだり寝たりして一緒に過ごすうちに想像力が育まれ、シンプルな表情のうえにさまざまな感情を感じるようになり、共に喜び、共に悲しんでくれる「もうひとりの私」として愛情を注ぐようになるといいます。
羊毛フェルトに、ニードルという針を刺してつくる「羊毛ニードル」。
藁に糸を通してつくるフィンランドの伝統的な装飾品「ヒンメリ」。

(了)

◇「まんまるママいわて」の詳細はこちら!  

北上まんまるお月さま

開催日時/毎月第2土曜日 10:00~12:00

会場/北上市文化交流センター「さくらホール」(岩手県北上市さくら通り2-1-1)※部屋は要確認

参加費/500円(材料費が別途必要の月あり)

北上ヨガ

開催日時/毎月第4木曜日10:00~12:00

会場/黒沢尻北地区交流センター(岩手県北上市常盤台1-30-20)

参加費/1,000円

◇千田優子さんの「てしごと&人形教室 アトリエ・たね」の詳細はこちら!

◇ 千田優子さん は、「きたかみ仕事人図鑑」がお届けするラジオ番組「夢を語る大人たち」にも登場。興味のある方はこちら!

2019-01-18|
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