障がい福祉とともに30年。 デザインで叶える、 みんなの幸せ。

北上アビリティセンター

副所長  赤坂良幸さんと利用者のみなさん

デザインから印刷・加工まで。独自のスタイルで障がい福祉の可能性をひろげる。

「私がまだ20代前半の頃ですから20年以上も前。当時は、障がい福祉って地域のいちばん端っこに付いている、小さな歯車だった。少なくとも私はそう感じていて、なんで端っこじゃなきゃいけないんだろう? とずっと思っていたんです。

 地域の端っこじゃなくて、むしろど真ん中で、動力を持った歯車として、自分たちが動くと周りも動き出すような……。そういう障がい福祉でありたいとずっと思っていました」

 そう語るのは、北上市初の就労継続支援B型事業所として1989(平成元)年に誕生した「北上アビリティセンター」の副所長を務める赤坂良幸さんです。

 赤坂さんは、19歳のときに「北上アビリティセンター」の立ち上げに参加。以来、ずっと同施設のスタッフとして、北上市の障がい福祉の第一線に立ち続けてきた方です。

 ここで、「就労継続支援」についてご説明しましょう。「就労継続支援」とは、障がいなどにより一般企業への就職が困難な方に就労機会を提供するとともに、作業を通じて就労に必要な知識や能力を向上させるための訓練などの支援も行います。

 さらに「就労継続支援」にはA型とB型の2種類があり、A型は雇用契約を結ぶのに対して、B型は雇用契約を結ばないため、利用者さんは自分の障がいに合わせて自分のペースで働くことができ、報酬は作業した分を「工賃」としてもらうカタチになります。

 就労継続支援B型事業所として30年の歴史をもつ「北上アビリティセンター」には現在、身体障がい者の方が20名、知的障がい者の方が15名、精神障がい者の方が5名、合計40名の方が在籍し、日々の仕事に励んでいます。

 同事業所の最大の特徴は、その仕事の7割が印刷業務であり、デザインから印刷・加工までを行なえる点。

 しかも、小ロット(少なり数量)にも対応するだけでなく、印刷物に1枚紙を差し込むといった手間のかかる作業にも柔軟・スピーディに対応できるため、一般の事業者さんはもちろん、同業の印刷会社さんからも仕事を依頼されるなど、高い信頼を得ています。

 さらには、そうした手間のかかる作業にどのように対応しているのか、同業者さんが視察に訪れるほど。

 地域のいちばん端っこにある歯車から、30年という時間をかけて、デザイン・印刷・加工という分野で地域に欠かせない歯車へと成長している「北上アビリティセンター」。その最前線に立つ赤坂さんの仕事場は、利用者さんが働く現場の中にありました。

現場の一角でデザイン作業をする赤坂さん。
目の前では、利用者さんたちもさまざまな仕事に励んでいます。

「彼らの役に立ちたい」 大学を辞め、19歳で飛び込んだ福祉の世界。

 赤坂さんと障がい福祉との出会いは、盛岡市にある大学に通っているとき。当時、アルバイト先に障がい者の方がいて、一緒の現場で働いていたそう。

「それまでは福祉に興味もなかったですし、アルバイト先で何か特別なことがあったとか、そういうことでもないんですよ。ただ、彼らと一緒に働くうちに、“彼らの役に立ちたい”という想いが強くなった。

 大学もやりたいことがあって通っているわけではなかったですし、何かやりたいことが見つかればいいな、くらいの軽い気持ちだったので、大学を辞めることにも未練はなかったですね」(赤坂さん)

 そこで赤坂さんはアルバイト先の理事長さんに「大学を辞めるから、ここで働かせてほしい」と直談判したところ、「来年、北上市に新しい施設ができるから、そこで」と話はとんとん拍子で進み、「北上アビリティセンター」の立ち上げからかかわることに。赤坂さんが19歳のときでした。

 今から30年前といえば、北上市に就労継続支援事業所などまだ少なく、障がいを持った方が「働く」という概念などが生まれはじめた時代。その当時、赤坂さんは利用者さんの送迎なども担当していました。

「利用者さんは50代ぐらいの方が多くて、みなさん『頼まれたから、働きに来てやった』という感じで、実際そういう風に私も言われていました。

 しかも、私は私で『職業指導員』という肩書だったんですが、当時はまだ19歳ですよ。そんな若造が、50代ぐらいの人生の大先輩に『何かを教える資格なんて自分にあるんだろうか?』と疑問に思いながら働いていました。

 それぐらい『就労継続支援』という取り組みに対して、社会も馴染みがない時代でしたね」

 当時を懐かしそうに振り返る赤坂さんですが、利用者さんとスタッフさんそれぞれに若干の戸惑いはありながらも、しかし「北上アビリティセンター」自体は順調にスタート。「障がい者も働ける場所がある」という認知も少しずつひろがり、立ち上げ時は12名ほどだった利用者さんも定員20名を満たすほどに。

「バブルの時代でしたから、仕事はいくらでもありました。当時は近くに精密機械工場があって、そこからたくさんお仕事をいただいていて、その分、利用者さんにも工賃をたくさん支給することができたんですが……」(赤坂さん)

 それからおよそ3年後にバブルが崩壊。その波は「北上アビリティセンター」にも容赦なく襲い掛かります。

当初は定員20名でしたが、利用者さんの数は2倍に。従来の作業場では足りず、ランチルームも作業場に。

工賃も半分に。その悔しさを忘れず「地域の端っこ」から「ど真ん中」へ。

「バブル崩壊で仕事が少なくなって、みんなの工賃を半分に減らさざるを得なくなったんですよ。そのときはみんなの前で謝りました。本当に申し訳なくて……。

 『ごめんなさい。もっとがんばるから』という話をさせてもらって、利用者さんも『そっか、しょうがねえなあ』という感じで納得してはくれました」(赤坂さん)

 そのときに赤坂さんが強く思ったことが、最初に登場した言葉。「地域の端っこの歯車ではなく、ど真ん中で、動力を持った歯車として、自分たちが動くと周りも動き出すような……、そういう障がい福祉でなきゃいけない」ということでした。

 その後、ご縁があって廃業を決意していた北上市内の印刷会社さんの事業を、従業員さんも含め「北上アビリティセンター」で引き継ぐことに。

 これにより従来までは部品の組み立て中心だった仕事が、部品の組み立てと印刷の2本柱に。

 さらに「北上アビリティセンターで印刷もやる」という認知がひろまるにつれ、印刷の受注が増え、印刷事業が順調に伸びていきます。が、パソコンが普及するとともに、時代は「ペーパレス」が叫ばれる時代に。

「紙がなくなるんじゃないかと世の中が騒ぎ出したときは、内部で議論しました。ペーパレスの時代が来るなか、我々はこのまま印刷事業を続けていっていいんだろうかって(笑)」

 今でこそ笑い話ですが、かつて利用者さんの工賃を半分まで下げざるを得なかった経験をしている「北上アビリティセンター」にとって、同じ苦労を利用者さんにさせるわけにはいきません。

「だって、自分に置き換えたら給料が半分になるってことですからね。それを考えたら……」(赤坂さん)

 そんなとき、知人が何気なくつぶやいたひと言が、赤坂さんの人生の新たな扉を開きます。

「『デザインやったら?』って言われたんですよ。で、私も『じゃあ、やってみるか』って(笑)」(赤坂さん)

 こうして「北上アビリティセンター」は、デザインから印刷・加工までを行う就労継続支援B型事業所へと変身。クライアントは地元の方はもちろん、南は沖縄県多良間島から、北は北海道まで日本全国に。

 加えて、同業の印刷会社さんからも依頼がくるほど頼りにされる事業所へと成長していきます。

印刷作業を担当している利用者さん。印刷物にミスはないか、常に細かくチェックしている様子が印象的でした。
手間のかかる作業も利用者さんが丁寧な仕事ぶりでこなしていきます。
従来の作業場では手狭になり、敷地内に新しい作業場を増築。
「北上アビリティセンター」は地域に欠かせない事業所として、その可能性をさらにひろげています。

多くの賞を受賞。赤坂さんが手掛けるデザインとは?

 ここで赤坂さんのデザインの仕事を見てみましょう。

 まずは赤坂さんのデザインが注目されるきっかけとなったアイテム。2013年ごろ、岩手県のイメージキャラクター「わんこきょうだい」をさまざまなグッズに展開し、お土産用にしたところ、たちまち話題に。

北上市内にある江釣子ショッピングセンター パルの1階にある「ハートフルショップ まごころ」の店頭にて。
同店には、北上市・西和賀地域の福祉施設が手掛ける商品が販売されており、
「北上アビリティセンター」でつくられた「わんこきょうだい」のグッズも豊富にラインナップ。

 続いて、世界4大デザイン賞のひとつに数えられ、私たちの暮らしや社会をより良くしてくれるデザインに対して贈られる「グッドデザイン賞」を2017年度に受賞した災害備蓄品「もしもの備え」。

同商品のパンフレットより。2017年11月7日の岩手日日新聞に掲載された記事が紹介されています。

 さらに、県産農林水産物を活用した加工食品の優良事例を紹介・表彰する「岩手ぅんめぇ~もん!! グランプリ2018」で、優秀賞・さんてつ特別賞をダブル受賞した「トマさんソース」のデザインも赤坂さんが担当。

 ちなみに、「もしもの備え」と「トマさんソース」は大船渡市の障がい者就労支援事業所「@かたつむり」さんと「北上アビリティセンター」の赤坂さんがコラボした企画です。

大船渡市の特産物であるサンマと、「@かたつむり」さんの農園から利用者さんが収穫したトマトをふんだんに使用した「トマさんソース」は、
パスタやパンと相性抜群! 定番のミートソース風に加え、カレー味、ほうれん草カレー味などバリエーションも豊富。
同商品のネーミングも赤坂さんが担当!

 こちらの「どんこ揚げ蒲鉾(かまぼこ)」のパッケージデザインも赤坂さん。同じく「@かたつむり」さんとコラボした企画で、「いわて特産品コンクール」にエントリーする予定とのこと。新しい名物の誕生なるか?! 結果が楽しみですね。

 さらに、近年ではカタチを自由に切り抜くことができる「カッティングプロッタ」の導入により、従来まで外部に依頼していたシール印刷の内製化も実現。

 小ロットにも対応できることから、赤坂さんも「私はデザイナーというよりも『シール屋です』と言いたいぐらい、忙しい(笑)」と語るほど頼りにされています。

「北上アビリティセンター」では、「カッティングプロッタ」の導入により、
さまざまな形状のシールにもスピーディに対応できるようになったため、シール需要が大幅に増加しているそう。

 しかも、さまざまな形状のシールはもちろん、さまざまな形状の紙箱にシールを貼るなど、手間のかかる作業にも柔軟に対応。そのフットワークの軽さが、「北上アビリティセンター」の大きな強みとなっています。

 そして「もちろん、シール以外の名刺・封筒・チラシといった一般の印刷物の仕事も順調に伸びています」と赤坂さんは言葉を添え、胸を張ります。

「北上アビリティセンター」の制作物。

「これ、私がつくったんだよ!」が自信に。労わり合える関係が成長に。

 赤坂さんがデザインにも携わるようになって、利用者さんにも大きな変化が起きました。

「ゼロからモノをつくって完成して出荷されるまで、すべてに利用者さんがかかわるので、『自分たちがつくったモノ』だというのがわかりやすいし、実感として持ちやすいですよね。

 しかも、それが店頭で売られているのを目にすると、やっぱりうれしいじゃないですか。『これ、私がつくったんだよ!』って周りに自慢できるという(笑)

 それが、利用者さんたちの自信につながっているし、働くうえでもモチベーションになっているな、というのは見ていて感じます」(赤坂さん)

 「北上アビリティセンター」には利用者さんが働く現場の他に編集室があり、一般のスタッフさんが印刷物のデザインをしたり、データを作成したりしています。

 かつては赤坂さんもそこで仕事をしていました。しかし、「やっぱりみんなと一緒に仕事がしたい」と利用者さんが働く現場に赤坂さんが仕事場を移したのは5年以上も前。

 40人もの、いろんな世代の男女が働いていれば、多少のイザコザはどこでも起こることでしょう。そうしたことに気を配るため、という部分ももちろんありますが、「みんなと一緒に働いている方が楽しい」と赤坂さん。

 誇りを持って仕事に励む利用者さんたちの姿は、赤坂さんにとっても大きなやりがいになっていました。

 しかし、一方でデザインの仕事が増えれば増えるほど、赤坂さんの負荷も増え、悩んだことも。

「本当に私が忙しくて、利用者さんに声かけとか、そういう直接的な支援ができないときがあって……。でも、そのとき利用者さんに言われたんですよ。

 『ごめんね、直接的なサポートができなくて』と私が謝ったら、『いや、そんなことないですよ。ふるまいを見ているだけですごいなって思います』って。

 その言葉を聞いたら、悩みが消えました。『あっ、見せればいいんだ』と思って。利用者さんたちも私たちのことをちゃんと見てくれているんだって気づけたんですよ。

 もちろん、声掛けとか直接的な支援は大事ですが、それだけじゃない。

 私たちが直接的に『ああしなさい、こうしなさい』と言うよりも、私たちが行動で示すことで、それを利用者さんたちが見て、感じてもらって、自分たちで考えて行動してもらえることの方が、長い目でみたとき、いい支援につながるのかなと思うようになりました」(赤坂さん)  

 スタッフと利用者さんが労わり合える関係が、ひょっとしたら「北上アビリティセンター」のいちばんの成長につながっているのかもしれません。

明るい笑顔のその先に、みんなの幸せを願って。

 赤坂さんが仕事をするうえで大切にしていることが、「とにかく明るく」。どんなに大変な仕事を抱えていても「悲壮感を漂わせないこと(笑)」だそう。

「昔からそうです。常に明るい感じでいれば、自然とみんなが寄ってきてくれる……。大変な仕事があっても、結構、助けてくださる方がたくさんいらっしゃいますし」

 そう言って笑顔を浮かべる赤坂さん。

「それに、私たちスタッフが暗いと事業所全体の雰囲気も暗くなります。私もいろんな事業所さんに行きますが、やっぱりそういうことはわかっちゃう。『あれ、ここ、なんか空気よどんでいるなあ』と思うと、そこのスタッフさんもやっぱり……っていう」(赤坂さん)

 現在、「北上アビリティセンター」で働いている利用者さんは、18歳から74歳までの40名。赤坂さんの「明るさ」が利用者さんにも伝わっているのか、カメラを向けるとみなさんも赤坂さんと一緒に笑顔を向けてくれます。

 この関係が一体感を生み、スピーディで丁寧な作業につながっているのでしょう。

「この間は、500枚のシールを休み明けの月曜日になんとかほしいという注文を金曜日にいただきました(笑) 

 普通ならあり得ないスケジュールですが、私たちはできちゃうんですよ。月曜日に、総動員でみんなで一気に作業することが私たちにはできますからね」

 そういって微笑む赤坂さん。「北上アビリティセンター」の「アビリティ」とは、「能力を伸ばす」こと。30年前の設立当初から「やれない仕事はない」をモットーに、利用者さんとともに成長してきた事業所です。

「利用者さんみんなにいつも聞くのは、『できるか、できないか』ではなく、『やりたいか、やりたくないか、みんなはどっちなの?』ということ。

 私たちに、やれない仕事はない。やるか、やらないか。それを選ぶのは、利用者さん自身なんです。『やろうと思ってやれば、なんだってできる』ということは常に言っています」

 このときだけ口調が強くなった赤坂さんですが、すぐにいつものやわらかな話し方に戻ります。

「極端なことを言えば、印刷だって別にやらなくたっていいんですよ。大事なことは、みんなが幸せであること。

 みんなが幸せであれば、他にやってみたいことがあれば、どんな仕事をやってもいい。それが北上アビリティセンターなんです」(赤坂さん)

 私たちに「やれない仕事はない」。ゼロから独学でデザインを学び、道を切り拓いてきた赤坂さんは、誰よりもそのことを強く確信しているヒトでした。

 地域のど真ん中で、動力を持った歯車として自ら動き、仕事を創り出していく「北上アビリティセンター」。そこで働くヒトたちの明るい笑顔のその先には、“みんなの幸せ”という願いが常に掲げられています。

(了)

北上アビリティセンター

岩手県北上市二子町秋子沢214-7

Tel/0197-66-5400

ハートフルショップ まごころ

江釣子ショッピングセンター パルの1階にある同店では、北上市・西和賀地域の福祉施設の商品を販売。「北上アビリティセンター」でつくったアイテムも豊富に揃います。お近くにお寄りの際は、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょう。

岩手県北上市北鬼柳19-68 

江釣子ショッピングセンター パル1階

2019-09-24|
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