ヒトを想う仕事。

最先端の3次元デジタル技術の、その先へ。

 AI(人工知能)、Robotics(ロボット工学)、AR/VR(拡張現実/仮想現実)、3D(3次元)、ICT(情報通信技術)、IoT(モノをネットでつなぐ)……。

 昨今、テレビやネット、新聞のニュース欄には、新しい未来を予感させる心躍るワードが飛び交い、私たちをワクワクさせてくれます。

 しかし、それらが語られるとき、「AIが人間の代わりに仕事をする」「IoTで暮らしがさらに便利になる」というように、そこに携わるヒトの姿や想いはなかなか見えてきません。

 これからの未来を切り拓くデジタル技術に携わるヒトとして、それとどう向き合い、ユーザーとつながっていくべきか……。

 12月19日(水)午後1時、最先端のデジタル技術の分野で働こうと夢見るおよそ50名の学生さんたちを前にして、ひとりの男性がデジタル技術と向き合ううえで大切にしなければいけないことは、“ヒトへの想い”だと力強く語っていました。

 会場は、北上市にある「北上コンピュータ・アカデミー」。北上市が主催し、「デジタルものづくり公開講座~デジタル化、地方だからできること~」と題したこの講演に登場したその男性は、「いわてデジタルエンジニア育成センター(Iwate-DE)」の副センター長を務める小原照記さんです。

 小原さんはIwate-DEの仲間とともに日頃から3D CADのセミナーなどを開催。地元・北上をはじめ、岩手県内の中小企業や大学などにも出向き、3Dを活用したものづくりの普及に努めています。

 しかもプライベートでは、通常なら100万から500万円もするような3D CADソフトの機能を年間7万円ほどで利用できるソフト「Fusion360(フュージョンサンロクマル)」の入門書を執筆し、この夏に出版。早くも初版4000部が完売し、11月にはさっそく3000部を増刷する人気ぶり。

 昨年、Fusion360ユーザーの “困った”に対する解決策をわかりやすく紹介した動画が閲覧数世界一となり表彰された実績通り、同書もわかりやすく丁寧な説明が読者から高い支持を集めています。

 さらに、その腕を見込まれ、Fusion360の開発元であるオートデスク社が11月に東京で開催した「3次元CADアレルギー解消法」と題したオンラインセミナーの講師にも抜擢。

 こちらも好評で12月にさっそく2回目が実施され、来年2月には島根県の専門学校にも招かれセミナーの講師を務めるなど、小原さんが活躍するフィールドは北上市、ひいては岩手県の枠を超え、ひろがっています。

 そんな小原さんの講演は、「本を出版するまでの経緯」「デジタルものづくり技術について」「地方だからできること」の3つを柱に、自らの経験を踏まえ、デジタル化で大きく変わるものづくりの未来と、地方だからできることの豊かな可能性を、これから社会に飛び立っていく学生さんたちに伝えるものでした。

 小原さんといえば、仕事人図鑑の第3弾にもご登場いただきました。そのため、3D CADと出会った経緯から本を出版するまでの流れは、仕事人図鑑の記事をご覧いただければわかるので簡単に触れますが、今回の講演にはその記事では触れられなかった小原さんのものづくりに対するあたたかな眼差しが感じられるものでした。

 10年前、当時は無職だった小原さんは、仕事が欲しくて北上市が開催した3D CAD人材育成講座を受講。しかし、これがきっかけで3D CADに目覚め、神奈川県にある自動車内装部品の設計会社に就職。

 そこで最先端の3D CADを使って行うものづくりの楽しさに触れ、世の中の話題になる製品をつくる喜びを知り、その感動を若い世代に伝えることで地元に恩返ししたいと北上に帰郷。

 その後、「地元の中小企業を何とかしたい」「地域の活性化につなげたい」「優秀な人財の育成に貢献したい」という想いから、3D技術を普及させる現職に。

 さらに、地方の中小企業も安価に導入できる3D CADソフトを探し回り、ついにFusion360と出会い、その可能性に魅了され、普及に尽力。プライベートでも「困っているヒトを助けたい」とFusion360のユーザー向け解決動画を作成し、公式コミュニティサイトにアップしていたという小原さん。

 そうした過程のなかで、積極的に表に出る方ではなかった性格が少しずつ変化し、“誰かのために”という気持ちが芽生え、困っているヒトに自分の技術やノウハウが役立つならと精力的に活動。「give & take」ではなく、「5give 1take」(5ついいことをして、1つでも何かのカタチで返ってくればいい)の精神で現在も取り組んでいると語っていました。

 神奈川の設計会社で3Dオペレーターとして活躍していた小原さんが帰郷したのは、恩返しのため。

 安価に導入できる3D CADソフトを見つけ出したのは、地方の中小企業の方たちに3D CADを使ってもらうため。

 Fusion360のユーザー向け解決動画を作成したのも、困っているヒトを助けたかったから。

 “自分のため”ではなく、“誰かのため”にやり続けたことで、小原さんはさまざまなヒトと出会い、初心者の方がどこでつまずくのか、どういうところをきちんと説明すればいいか、ということに気づくことで自分も学び、成長することができたといいます。

 そして、いつしか望んでもいなかった解決動画の閲覧数が世界一となり、本の出版や、東京や島根のセミナー講師の仕事へとつながっていきました。

 小原さんはその経験を、パソコンの画面の向こうで困っているヒトを想像しながら取り組んだことで今の自分があるという確かな実感を、学生さんたちに一生懸命伝えていました。

 インターネットが当たり前になり、クラウドを活用することで地域の枠を飛び越えてワークスタイルが激変している昨今。東京の編集者と2回顔合わせをしただけで、400ページもあるFusion360の入門書をこの北上で上梓した小原さん。

 その経験があるからこそ「地方でもできる」と断言しますが、しかし小原さんはすでにその先を見据え、改めて学生さんたちにデジタル技術と向き合ううえで大切にしなければいけないことは、“ヒトへの想い”だと力強く語ります。

 近年、人工知能の進化によって、「なくなる仕事・なくならない仕事」という話題がたびたび登場しますが、小原さんは「よりヒトと向き合う仕事」がなくならない仕事だと言い切ります。

 たとえ、最先端のデジタル技術に関わる仕事をしていても、見ているのがパソコンの画面でも、スマホの画面でも、その先にどんなヒトを想い、そのために自分ができることは何だろうかと考えることができる想像力と、それを実践しチャレンジし続ける行動力が必要だと。

北上市内にある「みちのく民俗村」で行ったFusion 360のイベントの様子。小原さんは「地方だからできること」とは何かと考え、地域の歴史や文化とデジタル技術が触れ合えるイベントも企画・開催しています。

 デジタル技術の発展によって地方間格差が少なくなり、地方産業の在り方も変わると語る小原さんは、地方でも生き残るために必要なことを3つあげました。

①ニーズやオーダーに素早く対応するスピード感と、失敗を恐れないチャレンジ精神

②情報発信の重要性と、ネットワーク(出会い)の大切さ

③オンリーワンの存在になること(自分だからできること、自分しかできないことを見つける)

 しかし、それも“ヒトへの想い”という大切なものが土台にしっかりあってこそだということを、忘れてはいけないと小原さんは語っていました。

 これから、さらにデジタル技術は進化し発展していくでしょう。ともすれば、新しい技術の方にばかり目が行きがちになります。しかし、どんなときも、“ヒトへの想い”は忘れてはいけない……。デジタル技術の最先端を走る小原さんが、わかりやすく丁寧な説明を心掛け、今も実践しているその姿は、それが何よりも大切なことだと雄弁に語っています。

 これからデジタル技術の世界へと飛び立っていく学生さんたちにとって、この講演は貴重だったのではないでしょうか。

 小原さん、いや小原先生、お疲れさまでした<(_ _)>

◇小原照記さんの取り組みは、「きたかみ仕事人図鑑」でもご紹介しています。興味のある方はこちら!

◇小原照記さんは「きたかみ仕事人図鑑」がお届けするラジオ番組「夢を語る大人たち」にも登場。興味のある方はこちら!

 (了)

2018-12-24|
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