株式会社 佐々木印刷
代表取締役 佐々木信雄
社員20数名の会社で、10年前から企業内ゼロエミッションを実現。
「今度は、電気を起こそうと思っているんですよ」
楽しそうにそう語るのは、来年(2020年)北上市で創業40周年を迎える「株式会社 佐々木印刷」の代表取締役・佐々木信雄さんです。
同社は、日本全国の食品会社、スーパーマーケット、物流業界、製造工場などで商品などに貼るラベル・シールの印刷を中心に事業を展開。
台紙をなくした“環境”にやさしいラベル・シールや、食品・おもちゃなどにも直接貼れる安全・安心に配慮した“ヒト”にやさしいラベル・シールの開発など、時代のニーズを先取りした独創性あふれる製品づくりで発展を遂げてきました。
さらに10年ほど前から、社内から出る排紙などの廃棄物を燃料とする暖房用ボイラーを導入し、企業内ゼロエミッション(廃棄物を有効活用することで廃棄物の排出をゼロにする取り組み)を実現。
近年では40kWの太陽光パネルの設置、社内蛍光灯すべてのLED化などなど、社員は20数名の会社ですが、“環境”と“ヒト”の未来を見つめ、大手企業が取り組むような先進的な取り組みにも積極的に挑み、確かな成果をあげています。
そんな同社をリードする佐々木社長が、次に挑もうとしているのが“自家発電”。
「10年前に導入したボイラーが交換の時期を迎えたので、この機会に暖房だけでなく電気も起こせるような設備にしたいんですよ。
ですから、それをやるために中小企業庁が行っている『事業継続力強化計画』の認定を受けようと、いま取り組んでいるところです」(佐々木社長)
近年、全国各地で大規模な自然災害が起きていますが、そうした災害が起こると被災された事業者さんは事業を継続できない場合も。しかも、そうなってしまうと地域経済はもちろん、日本全国の取引先などにも被害が拡大することも……。
「事業継続力強化計画」とはそうした事態を避けるために、防災・減災に積極的な中小企業を支援する取り組み。佐々木社長はその認定を受けて「自社で発電できるようにしたい」と語り、さらに言葉を続けます。
「何よりも、自社で発電できれば地域のみなさんの役に立てる……。やはり、私は東日本大震災の経験がありますからね。
あのときも何万人という方が亡くなっていますが、もしまた何かあったときに、それを全部カバーすることは私たちには到底できないけれども、そのときにこの会社が自家発電できていれば、地域のみなさんが寄り添い合えるような場所にはなれるんじゃないか……。
弊社には太陽光パネルもありますし、そういう部分まで見据えて、自家発電はぜひ実現したいと思っています」(佐々木社長)
きっかけは中国製シールとの出会い。“環境”にやさしい製品づくりが、コスト削減の鍵に。
「佐々木印刷」が “環境”と“ヒト”にこだわる理由……。そのきっかけは、佐々木社長が大好きな風景が汚れていく様子を目の当たりにして心が動かされたから。
「私は釣りが好きで、30年以上も前から渓流釣りをしていますが、昔は川の水も澄んでいてキレイでした。その様子が激変したのが、家電リサイクル法が施行(1998年)される1~2年ほど前から。
冷蔵庫だとかテレビだとか、そういった家電品が山や川に捨てられるようになって、釣りにいくたび、川がどんどん汚れていくのを目の当たりにして、『私に何かできないか』と考えたのがきっかけです。
渓流釣りをしていると、つくづく実感します。地球というのは森、川、海……、そのどれが欠けても循環しない。森の栄養分が川を経由して海に流れて、そこで生物を育てて、やがて雨となって森に還ってくる。
その循環を守るために、『私にできることからはじめよう』と思って、『“環境”にやさしい製品づくり』を経営理念にしました」(佐々木社長)
そうして2000年に誕生したのが、台紙のいらない(=台紙のゴミが出ない)環境にやさしいラベル・シールとして注目を集めた「ハグレス」。同社を代表するヒット商品ですが、実はこの開発には9年もの歳月が流れていました。
佐々木社長が「ハグレス」の開発に着手したのは、1991年に中国製のシールを目にしたのがきっかけです。
「『日本なら1円ぐらいだな』と思って、担当者に尋ねてみたら『1枚10銭だ』と言うんです。日本の1/10ですよ。
それを聞いたら、『いずれシールも価格競争になる。そうなると日本は中国に勝てない』と強い危機感を持ちました。『今までとは違うラベル・シールをつくらなければ』と思ったのがきっかけですね」(佐々木社長)
こうして誕生した、台紙のいらない「ハグレス」……。その開発の出発点は、“環境のため”というよりも、“いかにコストを削減するか”だったそう。
しかし、開発が行き詰まったとき、ブレイクスルーのきっかけとなる気づきを与えてくれたのが、“環境”への眼差し。
「当時は自治体向けにゴミ処理用のラベル・シールをつくっていましたが、ゴミを処理するために1枚ラベル・シールを貼るわけです。
改めてそれを見て、シールを貼るたびに台紙がゴミになっていると気づいたとき、『ゴミ処理のために、新しいゴミを増やすのはおかしい』と思ったんですよ」(佐々木社長)
こうして1枚の台紙の上にシールを50枚、100枚と積層させることで、シール1枚ごとに必要だった台紙を不要にし、大幅な「コスト削減」と「省資源化」に加え、製品の「コンパクト化」を実現するラベル・シール「ハグレス」が誕生。
さらに、そのシールは1枚ごとに台紙を剥がして捨てるといった作業のムダも排除し、「作業の効率化」が図れる画期的なもので、特に宅配便など物流の世界で大活躍することに。
ちなみに、これ以降「佐々木印刷」が開発する製品は、「コスト削減」「省資源化」「コンパクト化」「作業の効率化」が代名詞となります。
開発に9年。ラベル・シールひと筋の人生が育んだネットワークが支えに。
台紙のいらないラベル・シール「ハグレス」の開発には、9年もの歳月がかかったという話は前述しました。
その歳月を乗り越え、アイデアをカタチにできたのは、佐々木社長の情熱と想いの深さもさることながら、長年にわたってラベル・シールの印刷と開発に携わってきた佐々木社長が築きあげたネットワークがあったから。
そのネットワークを生かし、さまざまな企業からアドバイスを受けられたからこそ、「ハグレス」は誕生したと言います。
ここで、ラベル・シールの印刷と開発に半世紀以上も携わり、さまざまな企業から多くの信頼を得てきた佐々木社長の歩みをひも解いてみましょう。
佐々木社長は北上市で生まれ育ち、地元の高校を卒業すると海上自衛隊に3年勤務。その後、北上市に戻り、当時、北上工業団地に進出してきた大手ハンドラベラー・メーカー「サトー」(現サトー・ホールディングス)に入社したのが、今から50年以上も前の1968年のこと。
ハンドラベラーとは、商品に値段や賞味期限などのラベル・シールを貼る機械ですが、今から50年前といえばスーパーマーケットが登場し、やがて日本全国に急激にひろまっていく時代。その発展と呼応して、ハンドラベラーはもちろんラベル・シールの需要も急激に拡大します。
当時、「サトー」は東京に本社があり、埼玉県にも工場があったため、佐々木社長は地元・北上市だけでなく埼玉の工場にも勤務し、ラベル・シールの印刷ノウハウに加え、ハンドラベラーの改良なども学びます。
さらに、その豊かな経験を請われて「サトー」の印刷業務を担う新会社の立ち上げにも参加。当時、スーパーマーケットの台頭でラベル・シールの需要は一気に拡大。佐々木社長自身も印刷業務はもちろん、日本全国を駆け回る営業の仕事も経験し、3人でスタートした会社の従業員は80人に。
佐々木社長はその会社で専務取締役まで務めますが、1980年に帰郷。地元・北上市で「佐々木印刷」を創業します。まだ33歳という若さでした。
「実家の田んぼに小屋を建てたんですよ。そこに、国民金融公庫から借りた600万円を元手に印刷機を1台購入して、親父、おふくろ、私、家内、弟、妹、それともうひとり雇って、7人でのスタートでした」
そう言って懐かしそうに創業当時を振り返る佐々木社長ですが、前の会社からラベル・シールの印刷業務を請け負うカタチで経営も順調に推移。
10年後には事業拡大にともない現在の場所(北上市口内地区)に移転し、それまでに築いてきたネットワークと信頼を礎に「ハグレス」は誕生したのでした。
◇工場内の様子
他にないもの、“環境”にも“ヒト”にもやさしい製品づくりが、新たな道を切り拓く。
佐々木社長は「ハグレス」の誕生から3年後には、「ハグレス」を改良して当時は難しいとされた円形や変形のラベル・シール「連ラベル」を開発し、特許も取得。
さらにその2年後には食の安全・安心の観点から、それまで使用されていた石油由来の粘着剤よりも、さらに安全性の高い天然ゴム由来の粘着剤を独自開発。野菜や果物などの食品にも直接貼れるラベル・シール「菜果ラベル」として発売すると、その特性から食品はもちろん、幼児向けのおもちゃや食器などへの利用もひろがるなど高い評価を得ました。
そうした独創的な取り組みにより、2006年には「東北ニュービジネス大賞」を受賞。ちなみに同賞は東北地域の企業を対象に、新技術の開発やサービスの提供などにより新たな市場の創出や開拓を図るだけでなく、今後の産業の活性化に大きく貢献するであろう優れた企業に対して贈られる、たいへん栄誉ある賞です。
“環境”と“ヒト”にやさしい「佐々木印刷」の取り組みは、その後、製品づくりだけでなく企業全体の取り組みへと発展。最初に触れた、企業内ゼロエミッションの取り組み(社内から出る排紙などの廃棄物をボイラーで燃やし、暖房に活用)がスタートします。
ちなみに、その成果を数字で見ると、現在では廃棄物処理費と燃料費を年間700万円削減。また、40kWの太陽光パネルの設置により、売電による収益は年間150万円。
加えて、社内蛍光灯などをすべてLEDとし、それらすべてを省エネ効果として合算すると年間850万円になるなど、20数名規模の会社とは思えないほど素晴らしい成果をあげています。
そんな佐々木社長の次のチャレンジが、自家発電。もしものときに地域のみなさんが寄り添い合える“明かり”が灯り続ける会社へ……。
その眼差しは、地球環境の未来だけでなく、地域全体にも向けられているのでした。
廃プラスチックの削減に貢献。佐々木社長の次のチャレンジとは?
そんな佐々木社長が、いま開発に挑んでいるのが、ラップやビニール、プラスチックトレイなどに貼ってもキレイに剥がせるラベル・シール。
「いま廃プラスチックが問題になっています。ペットボトルはキレイですからリサイクルが可能ですが、例えばラベル・シールがついたラップやビニール、プラスチックのトレイなどはリサイクルできないから廃プラスチックとして燃やすしかない。
以前は中国で廃プラスチックを受け入れて燃料として使っていたんですが、環境のことを考慮して現在では受け入れなくなっていて、廃プラスチックをどう処理していくのかが大きな問題となっています。
それに、プラスチックでできたストローも問題になっていますよね。紙でつくるストローのように、土に還る素材でつくろうだとか、いろいろ考えられてはいますが、それもコスト面をクリアしないとなかなか実現は難しいと思います。
その点、いま私が考えている方法が実現できれば、コストの問題もなく、ラップやビニール、プラスチックのトレイなどに貼られたラベル・シールも簡単に剥がせるようになる。
そうなればラベル・シールを剥がしたものはリサイクルで再利用できますから、廃プラスチックの削減にもつながる。
そんなラベル・シールを開発できたら、たぶん世界がちょっとは変わってくるのかなと思っています。10月と11月にも実験をするんですが、それでどうなるか……」
そう語る佐々木社長は、にっこり微笑んで「“ノリ”って面白いですよ」とさらに言葉を続けます。
「もう30年以上も前の話ですが、アメリカの工場に視察に行ったとき、現地の社員の方に『アメリカには何種類ぐらいノリの種類があるんですか?』と尋ねたんですよ。そしたら、『ノリの種類? ノリの種類は1種類だよ』と言うんです。
日本には絶対剥がれないノリとか、キレイに剥がれるノリとか、300ぐらい種類がありますから、私もそれを聞いてビックリして『剥がしたいとき、どうするんですか?』と思わず尋ねました。
そしたら『剥がしたいときは薄く塗ればいいし、剥がしたくなかったら厚く塗ればいいんだよ』と当然のように言うわけです。
そのときのことは今でも鮮明に覚えています。ものすごいショックでした。『そこなんだ』と思った。『シンプルでいいんだ』って……。いやあ、本当に“ノリ”って面白いですよ」
ラベル・シールに半世紀以上もかかわってきた佐々木社長は、そう言って楽しそうに笑います。その姿は、誰よりも次のラベル・シールの誕生にワクワクしているようでした。
ラベル・シールというと一見狭い分野のようにも見えますが、そこに紐づく世界は深く、地球規模のひろがりをみせます。
そこに独自の視点で道を切り拓き、“環境”と“ヒト”に、そして“地域”に、希望の“明かり”を灯そうとチャレンジし続ける佐々木社長。
ひとつずつ、一歩ずつ、着実に実績と信頼を積み重ねていく姿は「ハグレス」や「連ラベル」など、佐々木社長が開発に携わった製品そのもののような気がしてきました。
近年、「SDGs」(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)という言葉がメディアに多く登場するようになりました。
これは国連サミットで採択された国際目標で、持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成されており、17のゴールのなかには「佐々木印刷」が既に実践している環境への取り組みとも数多くリンクします。
北上市で創業40年、社員20数名の会社が実践し、積み重ねてきた実績と信頼。さらにそれを礎に描く未来は地球規模でひろがり、深く地域に根を張るものでした。
「佐々木印刷」がこれから切り拓いていく未来が、今後どのように枝葉をひろげ大空にのびていくのか……。今後に注目です。
◇「株式会社 佐々木印刷」の求人
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