農業を面白い仕事に! 若いヒトが就職したくなる会社へ! 33歳の若手経営者が挑む農業の未来。

農業生産法人 クレアクロップス株式会社

代表取締役   馬場一輝

レタス主任   千葉悠太

にんじん主任  赤平 淳

「農業」を志す意味とは? 父の背中が教えてくれたこと。

「農業を面白い仕事にしてやろう!」

 馬場一輝さんがそう決意したのは、今から13年も前。地元・北上市で開かれた成人式に参加したときのことでした。

「久しぶりに同級生たちと会って話をしていたら、みんな『仕事が面白くない』と言うんですよ。『辞められるんだったら、明日にでも辞めたい。食べるためだけに働いている』って……。

 それを聞いていて、なんかすごく寂しいなと思った。

 その点、私の父は農家ですが、農業に働かされている空気はないんですよ。むしろ楽しそうだし、それできちんと生計を立てていて、菊の栽培では結構有名で、岩手県の生産者の会に行っても『馬場さんのところは菊をつくっていますよね』と言われるぐらい知られている存在です。

 そういう父が持っている人脈のお陰で『農業者大学校』というものを知ることができたし、高校卒業後にはそこに進学してよりひろい視野で農業を学んでいる自分がいる……。

 成人式のときに同級生と話をしていて、『父のやっていることは、実はすごいことなんだなあ』と改めて気づいたんです。

 それが、私にとって“農業”というものを見直すきっかけになりました。で、そのとき思ったんです。『だったら俺は、農業を面白い仕事にしてやろう!』って。

 仕事を辞めたいと思っている同級生たちも働きたくなるような、若いヒトたちがバンバン就職して、やりがいを持って働ける仕事にしてやろうって」(馬場さん)

 それは、次世代の農業経営者を養成する「農業者大学校」に進学したにもかかわらず、何のために農業を学んでいるのか、「正直よくわかっていなかった」と語る馬場さんのスイッチが切り替わった瞬間でした。

 こうして馬場さんは、わずか20歳のときに「実家の馬場農園を法人化しよう」と決意。その後、東京都多摩市にあった「農業者大学校」を卒業と同時に北上に戻り、実家の馬場農園に就農。

 「農業を面白い仕事にしてやろう!」という夢に向かって、最初の一歩を踏み出したのでした。

馬場農園では、北上市内および隣の金ヶ崎町にあるおよそ6ヘクタールの畑でレタスを栽培。
収穫は春と秋の2回行われ、春は5月初旬から6月末まで。
北上市にある大手食品加工工場を中心に、地元のスーパー・飲食店・給食センターなどに出荷しています。
レタスを収穫する馬場さん。 取材に訪れたのは6月中旬。収穫は午前5時から午前7時まで行われました。
収穫量は1日2,000玉、多いときには3,000玉になるときも。

大手企業の高い品質要求に応えるため。馬場農園の新たな挑戦。

 馬場農園の5代目として、馬場さんがお父さんからその経営を引き継いだのが2013(平成25)年4月。まだ27歳という若さでしたが、翌年の8月には農業生産法人「クレアクロップス」として法人化。20歳のときに誓った夢をさっそくカタチにし、それを確かなものにすべく、新しいスタートを切りました。

 そんな馬場さんの農業を支えているのが、レタスと小菊の栽培。特に2012(平成24)年から栽培を開始したレタスは、大手コンビニエンスストアの店頭に並ぶ、シャキシャキとしたレタスのおいしさが人気の「レタスサンド」に使用。長年にわたって、安全で質の高い野菜の安定供給を求める大手企業のニーズにも応える農業を実践しています。

 しかし、その道のりは決して平たんではありませんでした。

「レタスをつくるきっかけは、北上に食品加工の工場が誘致されたことです。その工場で、安全で質の高い野菜をつくってくれる地元の農家を探していると知って、お手伝いすることになりました。

 『野菜をつくってもらえるなら、なんでもうれしい』と言っていただいたんですが、私たちもせっかくお手伝いするなら『欲しいと言われたものをつくります』とお話しました。

 『それなら、できれば天候に左右されやすくて価格も安定しないレタスをお願いしたい』と言われて、『じゃあ、レタスをつくりましょう』となったんですが……」(馬場さん)

 レタスが一番つくりやすい時季は、旬を迎える6月。馬場さんもレタスをつくりはじめた2012(平成24)年当時は6月だけの出荷でしたが、翌年からは「5月初旬からあるとうれしい」と言われ、さっそくチャレンジ。

 しかし、5月初旬から収穫するとなると、2月に種を蒔いて、3月中旬には畑に苗を植えなければならず……。

「そこで『ん?』となった。北上は3月まで雪が降りますからね(笑)」

 そう言って朗らかに笑う馬場さんですが、そのピンチが「クレアクロップス」の強みに生まれ変わるのは、もう少し先の話……。

この日は馬場さんと社員2人、4人のパートさんで収穫作業を行いました。 緑鮮やかなレタス畑の向こうには、キレイな青空がひろがっていました。

雪を乗り越えて。他の農家さんがやれないことにチャンスがある。

 馬場農園は北上市でも雪の多い地域にあり、5月初旬にレタスを収穫するためには、2月に種を蒔き、雪が降る3月中旬に畑に苗を植えなければならないという事実に直面した馬場さん。

「そこで気づいたんですよ。『だから他の農家さんはレタスをやらないのか』と(笑) でも、逆にそこがチャンスだと思った。

 それからですよ。今年もそうでしたけど、雪が降るなかで播種(はしゅ=種蒔き)して、3月中旬に『雪融けだ、今だ!』とみんなで畑に入って苗を植える(笑)

 たぶん、周りから見れば『あれじゃ、寒くてレタスがだめになるだろ』と思われるかもしれないですけど、私たちには他の産地に行って勉強させてもらったことや、毎年いろんな実験をして失敗したことも含めて、ノウハウや経験がある。だから、『これぐらいなら大丈夫』という確信があってやっています。

 みんなができない時季に野菜をつくること。そのチャレンジが、今のクレアクロップスの大きな強みになっていると思いますし、他ができないことこそ私たちにとってチャンスだと思っています」(馬場さん)

 「クレアクロップス」という社名は、イタリア語の「クレア」(創り出すの意)と英語の「クロップ」(作物・収穫物の意)を合わせた造語。

 そこには、他では作物をつくれない時季でも、安全で質の高い野菜を創り出し、お客さまのニーズに応えようとする「クレアクロップス」の農業人としての矜持が込められていました。

レタスの苗植えの様子。
今年は4月初旬に大雪が降ったり、4月下旬が寒かったりしたため、レタスの生育が1週間ほど遅れたそうですが……。
その分、葉にはハリがあり、みずみずしいレタスに育ちました。コンビニのレタスサンドのシャキシャキ感も格別でしょう。

農業をやりたい……。「クレアクロップス」で夢に挑む若者たち。

「農業を面白い仕事にしてやろう!」

「若いヒトたちがバンバン就職して、やりがいを持って働けるような仕事にしてやろう!」

 20歳のときに誓った馬場さんの夢は、それから13年、法人化してからはおよそ5年の月日を経て、今どのようにカタチになっているのでしょうか。

 現在、「クレアクロップス」で働く社員は、2名。平泉町出身の千葉悠太さん(24歳)は、「クレアクロップス」に入社して3年目。以前は一関市にある工場に勤めていましたが、せっかくなら好きな仕事をしたいと、この道へ。

「レタス主任」に任命されている千葉さんは、「クレアクロップス」に入社して3年目。

「小学校の頃の将来の夢に、『農業をやっている』と書いていたんですよ。それぐらい、農業をやりたいとずっと思っていたんですけど、どうやって農家になったらいいのかがわからなくて……。

 畑もないし、農機具もないし、となったときに、社員として農場で働ける会社があったらいいなとは思っていたんですけど、なかなかそういう会社を見つけられなくて、どうしようかと悩んでいるときにクレアクロップスと出会いました」

 千葉さんは、馬場さんと初めて面接したときのことをよく覚えています。

「農業って、もっとざっくりしていて面接も簡単に終わるだろうと、勝手なイメージで思っていたんですが、社長はしっかり細かく私の話を聞いてくれて、きちんとした会社なんだなあと思ったのが最初の印象です」

 そんな千葉さんは、現在「レタス主任」という責任ある立場で日々の仕事に汗を流しています。

「レタス主任といっても、農業をはじめてまだ3年目。わからないことの方が多いので、社長と相談しながらやっています。

 それでも私に任されている部分も多いので、責任感というか、『きちんとやらなきゃ』という意識が強くて、難しいと思うことも多いですけど、それを乗り越えたときに楽しさになりますし……。本当に農業は面白いなって思います」

千葉さんはこの日も率先して収穫作業に取り組んでいました。

千葉さんに、農業の面白さをさらに具体的に伺うと……。

「農業は全部が面白いです。私は社長のように農業を勉強してきたわけでもないので、わからないことだらけですが、社長に聞けば何でも教えてくれますし、研修や勉強会にも行かせてもらえるし、若手農家さんの集いに誘っていただいて、刺激を受けることもあります。

 そうしたなかで、わからないことが少しずつわかってきて、自分でもできるようになっていくのが実感できる……。それが面白いというか、今はすごく楽しいですね」

 「やったことがきちんとおいしい野菜となって、目に見えてカタチになる」ところが農業の魅力だという千葉さんは、自身の成長にも確かな手ごたえを感じているようでした。

午前5時から午前7時まで行われたレタスの収穫が終わると1時間休憩。その後は、葉先が赤いサニーレタスの収穫がスタート。
緑色のレタスは、葉型がラグビーボールのような楕円形のカタチをしたロメインレタス。
その日の収穫量や仕事の流れの管理は「レタス主任」に任せ、パートさんたちと一緒に収穫に汗を流す馬場さん。

入社2年目の社員とともに。「クレアクロップス」は次のチャレンジへ!

 地元・北上市出身の赤平淳さん(26歳)は、「クレアクロップス」に入社して2年目。もともと倉庫の仕事をしていましたが、「自分が畑で農業をしている姿」を寝ているときに夢に見て覚醒。それがきっかけで農業の道を志したロマンチストです。

「実家は農家ではありませんし、自分自身もそれまで農業なんて経験したこともないし、興味もなかった。でも、夢で自分が畑で農業をしている姿を見たら、もう気になっちゃって(笑)」

赤平さんは、レタスの収穫では箱入れや積み込みを担当。
4月に待望の女の子が生まれ、仕事にもさらに気合いが入っている様子ですが、かわいい子どもの話になると……。

 特に不満もなかった倉庫の仕事を辞めて、農業の世界に飛び込んだ赤平さんも、やはり社員として働ける農業法人はないかと探し、近隣にあった農業法人に就職。

 しかし、経営悪化で、わずか1年で退社。しかし、それでも農業への想いは消えず、次もぜひ農業をやりたいと探した結果、出会ったのが「クレアクロップス」でした。

「以前は1日2回、朝と夕方にキュウリの収穫をしていました。朝収穫に行って、まだ小さいなと思って収穫しなかったキュウリが、夕方に行くと収穫できるほど大きく育っている……。

 毎日葉っぱを取ったり、いろいろ手入れをするんですけど、手をかけた分だけ成長していると実感できて、それにすごく感動したんですよね」

 それ以来、農業をやめられなくなった赤平さんは、「クレアクロップス」での日々の仕事のなかで、さらに農業に魅せられています。

「レタスを収穫しているときに、たまにレタスの葉を食べてみるんですけど、やっぱりシャキシャキしていておいしい(笑) 

 雪下にんじんを収穫しているときも、たまに食べてみるんですけど、やっぱり甘くておいしい(笑) そのたびに、作物を育てるってすごいなって思うんですよね」

収穫したレタスを近隣の工場に出荷するため、伝票に記入する赤平さん。
この後、トラックに乗って、新鮮なレタスをお客さまのもとへ届けます。 この時点でまだ朝8時すぎ。

 入社してまだ2年目のそんな赤平さんも、昨年秋からさっそく「にんじん主任」に抜擢。昨年から「クレアクロップス」では、レタスや小菊だけでなく、雪の下から掘り起こす「雪下にんじん」にもチカラを入れており、北上市内の給食センターやスーパーに出荷する他、「ふるさと納税」の返礼品としても好評を博しています。

 「にんじん」については今後、夏や秋にも収穫できるようにしたいと考えている馬場さん。そうすることで、夏から翌年の雪が残る3月まで「にんじん」を地元の給食センターやスーパーに出荷できるため、レタスや小菊とともに会社の新しい柱になるように育てたいと思っての取り組みですが、その重要な仕事を馬場さんは赤平さんと一緒に進めたいと考えています。

「1年目の後半ぐらいに社長にそう言われて、『わかりました!』と(笑) まだ2年目で何もわからないんですけど、この間も千葉県にある、にんじん農家さんのところに行って研修してきたんですが、そうやっていろいろ学びながら、がんばっていきたいと思います。

 まあ、プライベートでも4月に子どもが生まれまして(笑) 一人目で女の子なんですけど、これがすごくかわいくて(笑) 余計にもっとがんばらなきゃと……」(赤平さん)

 職場でも、プライベートでも、責任ある立場となった赤平さんですが、好きな農業でがんばる決意に揺らぎはありませんでした。

「雪下にんじん」は、秋に掘り起こした「にんじん」を畑に置いておき、雪の下で寝かせておきます。
そうすると「にんじん」自身が凍結を防ごうと糖度を高めるため、うま味や甘味が増すそう。
「雪下にんじん」の収穫を喜ぶ馬場さん。
地元の給食センターやスーパーなどに出荷される「クレアクロップス」の「雪下にんじん」は、味も甘いと大好評。
8月の収穫に向けて、今年からチャレンジしている「にんじん畑」。
こちらが成功すれば、夏から翌年の雪が残る3月まで「にんじん」が出荷できるように。
レタス、小菊に次ぐ、「クレアクロップス」の頼もしい柱になる予感。

おじいちゃん、お父さん、そして馬場さんへ。親子三世代が紡ぐ農業とは?

 農業を愛する頼もしい20代の若手社員やパートさんたちとともに、充実した日々を過ごしている馬場さん。

「農業を面白い仕事にしてやろう!」

「若いヒトたちがバンバン就職して、やりがいを持って働けるような仕事にしてやろう!」

 そんな当初の夢もしっかりカタチになっているようですが、しかし馬場さんは「まだまだ」と首を振ります。

「やっぱり農業は面白いし、『やってみたい』ということで入社してくれる方はいるんですが、農業は肉体労働なので大変な部分も多い。

 それが辛くて『やっぱり続けられない』と辞めていく方もいて、そのたびに会社としてのレベルの低さというか、自分の未熟さを痛感します。

 農業に興味を持って来てくれたヒトたちが、辞めることなくやりがいを持って仕事を続けられる会社にするには、どうすればいいのか……。それは今もいろいろ勉強して、改善して、その繰り返しですね」

 そう語る馬場さんは今、何にやりがいを見出しているのでしょうか。

「作物を育てることはもちろん面白いし、楽しいんですけど、それよりも去年よりも成長している自分を実感できることですね。

 そうやって自分が成長して、自分しかできなかったことが、今度は周りのみんなもできるようになっていく……。自分も周りのみんなも成長できる。それが今はすごくうれしいんです」

 馬場さんが、お父さんから馬場農園の経営を引き継いだのは27歳のときですが、実はそのときお父さんは57歳。農業従事者の平均年齢がおよそ66歳と言われている現代に、その年齢はまだまだ若手の部類です。

 にもかかわらず、27歳の馬場さんにお父さんが農園の経営を任せたのは、もちろん本人曰く馬場さんからの突き上げもありましたが、それ以上にお父さん自身も30歳という若さでお父さん(馬場さんのおじいちゃん)から農園の経営を引き継ぎ、“小菊といえば馬場さん”と知られるまでに成長できた経験があったから。

「『自分が元気なときじゃないと、お前が失敗したとき下支えできないだろ』と言われて、おじいちゃんは俺に30歳のときに経営を任せてくれた。

 だから、俺もお前にそうする。失敗してもケツは拭いてやるから、やりたいようにやれ」

 27歳という若さで農園の経営を引き継いだとき、馬場さんはお父さんからそんなあたたかい言葉をかけてもらっていました。

 「自分も周りのみんなも成長できることがうれしい」と語る馬場さんですが、その陰には、お父さんがいて、おじいちゃんがいました。馬場さんの成長、ひいては「クレアクロップス」の成長を、誰よりも楽しみにしているのは、きっとそんなお父さんやおじいちゃんなのかもしれません。

「農業を面白い仕事にしてやろう!」

「若いヒトたちがバンバン就職して、やりがいを持って働けるような仕事にしてやろう!」

 そんな馬場さんの夢は、どうやら、まだまだ夢の途中。しかし、その場所で、夢を持ってがんばっている若者たちが育っているのも事実……。10年後、「クレアクロップス」はどんな会社に育っているでしょうか。今後が楽しみです。

朝5時前。レタスを収穫する前に、小ねぎを収穫する馬場さん。
小ねぎは、春から秋にかけて栽培。収穫した小ねぎを近所に暮らすお年寄りにもっていくと……。
2時間後には、袋に詰めて届けてくれます。仕事が早い! こちらを地元の スーパー や飲食店に出荷。
小菊の畑。こちらは、馬場さんのお父さんとお母さんが担当。収穫は、7月下旬から10月末まで。成長すると大人の腰ぐらいの高さになるそう。
馬場農園の小菊は、北上一の生産量を誇ります。品質も、もちろん折り紙付き!

◇「クレアクロップス」の求人

「クレアクロップス」では、一緒に働く仲間を随時募集中! 2020年度新卒者用のエントリーシートも。興味のある方はこちら!

(了)

農業生産法人 クレアクロップス株式会社

岩手県北上市相去町日香下58-1

Tel/0197-72-7879

2019-06-28|
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