美人の湯 瀬美温泉
代表取締役 兼 女将 菊池悦子
料理長 武田年幸
フロント・接客 千田桃佳
フロント・営業 佐藤 宗
フロント・接客 鈴木美香
豪雪地帯に、あったかな温泉を。先人が何世代も挑んだ夢。
JR北上駅から西へ30分ほど車を走らせると、緑豊かな夏油高原の山懐に抱かれた一軒の温泉旅館が姿を現します。
「美人の湯」として親しまれるその温泉旅館は、「化粧水のよう」とも称されるトロリとした肌触りの温泉が自慢。
天然の保湿成分といわれ、美肌効果にすぐれた「メタケイ酸」が豊富に含まれており、通常は50mg以上だと保湿に有効とされていますが、同温泉は100mg以上。
温泉に入るだけで、しっとりツルツルの肌にしてくれるというそのお湯を求めて、地元の方はもちろん、ひろく県外からも湯治客が訪れる人気の温泉旅館です。
「瀬美温泉」という名のその温泉旅館が誕生したのは、1960(昭和35)年のこと。
夏は蛍舞う夏油渓谷の清らかな水の音に癒やされるこの土地には、古くから温泉が湧き出ていました。しかし、その温度は33度と低く……。
冬は豪雪地帯となり、厳しい寒さに見舞われるこの土地に、かつての先人たちは何代にもわたって高い温度の源泉を掘り当て、あったかい温泉場をつくろうと挑んできました。
その夢を引き継ぎ、叶えたのが、「瀬美温泉」の創業者。
「本館前の庭に、『夢』という字を掘った石碑があるんです。先代(創業者)が残してくれたものですが、『人間は夢を持たなければ』とよく言っていました。
そういうヒトでしたから、平成14年に亡くなるまで『トロトロしたお湯の源泉をもう1本掘りたい』と言っていました」
そう語るのは、先代から「夢」を引き継いだ二代目であり、「美人の湯」として親しまれる「瀬美温泉」の温泉の魅力を世界のヒトに知ってもらいたいという夢を持つ女将・菊池悦子さんです。
悦子さんが「瀬美温泉」の代表 兼 女将となったのが、今から20年以上も前のこと。しかし、当初は内心「いやだなあ」と思っていたそう。なぜかといえば……。
大船渡から通う毎日。みんなに支えられ、無我夢中だった20年。
「瀬美温泉」の先代(創業者)は悦子さんのご主人の父であり、もともと北上市江釣子の出身でしたが、大船渡市に移って建設業を営んでいました。
「大船渡にある会社は主人が先代から引き継いでやっていましたから、温泉は『お前がやれ』と……。
先代にそう言われて、嫁としては『はい』と言うしかなかったんですよ。まあ、20年以上も前のことですから、昔はどこもそんな感じでした」
そう言って朗らかに笑う悦子さん。専業主婦から温泉旅館の代表 兼 女将へ……。そう言うと聞こえはいいですが、しかし当時は大船渡に住んでおり、しかも高校に通う子どももいました。さらに、温泉旅館の経営はもちろん接客の仕事もしたことがありません。
「子どもの面倒も見ないといけませんから、ほぼ毎日大船渡と北上を行ったり来たり。車で片道2時間。それだけでも大変なのに、温泉旅館の仕事も全部が初めてのことでしたから、みんなと同じ仕事を一生懸命やるだけでした」(悦子さん)
当時を振り返って、「無我夢中だった」と語る悦子さんは、「本当にみんなに助けられたからこそ今があります」と言葉を続けます。そんな悦子さんに転機が訪れたのは2002(平成14)年のこと。
「先代が亡くなったんです。もちろん、それまでも私が代表という立場ではあったんですけど、やっぱり心のどこかでは先代を頼りにしているところがありました。
その先代が亡くなって、初めて『自分が』という気持ちが強くなりました。とはいえ、ひとりではできない仕事ですから、スタッフみんなに助けてもらいながら、がんばっていこうと思いました」(悦子さん)
そんな悦子さんをずっと支えてきたのは、スタッフ以外にもうひとつ。先代が自ら掘り、残してくれた温泉です。
「日本各地の温泉をめぐりましたが、“温泉”の質に関してはどこにも負けないと思っています。訪れてくださるお客さまも『ここのお湯でなくちゃ』と言ってくださる方が多くいらっしゃいます」(悦子さん)
悦子さんの“温泉”に対する絶対の信頼は、東日本大震災を経験してさらに強くなりました。
当時、「瀬美温泉」でも被災した方を受け入れるなど活動する一方で、新幹線は運休が続き、キャンセルが相次ぎました。しかし、そんなときでも地元の方がたくさん利用してくれたそう。
「本当に地元のみなさんには多く利用していただきました。みなさん、このお湯をすごく気にいってくださっているんだなあと思うと、感謝の気持でいっぱいになりましたし、“温泉”という自然の恵みをこれからも大切にしていかなければ、と思いました」(悦子さん)
「お前がやれ」という先代の鶴のひと声で、専業主婦から温泉旅館の代表 兼 女将となった悦子さん。それから周りのスタッフに支えられ、20年以上の時を経て、先代が残してくれた温泉が今、悦子さんの誇りとなり、心の大きな支えにもなっていました。
笑顔で迎えるやすらぎの我が家へ、ようこそ。
我が家に帰ってきたような、やすらぎのある空間……。
それが、「瀬美温泉」の女将・悦子さんが理想とする温泉旅館です。さて、現在の「瀬美温泉」はどうでしょうか? 実際に訪れてみると……。
出迎えてくれたのは、笑顔が印象的な千田桃佳さん。「いろんなヒトとかかわる仕事がしたい」と高校を卒業後、昨年4月から「瀬美温泉」で働くことに。現在は主にフロントに立ち、訪れるお客さまを笑顔でお迎えしています。
お客さまとお話することが大好きだと語る桃佳さん。
「瀬美温泉」では常連のお客さまが多いため、桃佳さんともしぜんと顔なじみに。「お仕事はもう慣れた?」など気さくに声をかけてくれる方も多く、部屋に案内して、そのまま話し込むことも多いそう。
桃佳さんは高校時代の3年間、「ボランティア部」に所属。保育園に行って絵本の「読み聞かせ」をしたり、老人ホームや障がい者の方が通う学校に行ってスタッフのお手伝いをしたりと、さまざまな活動をしてきました。そうした、いろんな世代の方とかかわってきた経験が、今の仕事にも生きています。
「瀬美温泉にいらっしゃるお客さまは、私のお父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんの世代の方が多いんですが、小さなお子さんや私と同じ世代ぐらいの方もいらっしゃいます。
それに地元の方はもちろん、他県からいらっしゃる方も多いので、いろんな世代の方と出会えて、いろんなお話も聞けるので、すごくやりがいがあります」
そう語る桃佳さんが大切にしているのが、“笑顔”。自分の笑顔で、「お客さまも笑顔にしたい」のだと語ります。
もちろん、がんばっているのは“笑顔”だけではありません。休日は趣味も兼ねていろんな温泉旅館をめぐり、他では「どういう接客をしているのか」研究しているそう。
「この間は山形の温泉に行ってきました。そこではお部屋に案内してくれた方がお茶を入れてくれたり、お菓子の説明をしてくれたりして、それは参考にしたいと思いました」
そう言って人懐っこい笑顔を浮かべる桃佳さん。桃佳さんにとってこの仕事は、天職なのかもしれませんね。
お客さまの喜ぶ顔に背中を押されてめぐり会えた、新しい自分。
佐藤 宗(しゅう)さんは、この4月に運送会社の営業から転職。現在は桃佳さんたちと一緒にフロントの仕事をしていますが、いずれは営業の仕事も任せられるようになるといいます。
佐藤さんは現在46歳。長年、営業の最前線でバリバリ仕事をこなし、夜中でもケータイを離さない日々を過ごしてきました。しかし、子どもも大きくなり、改めて自分の生活を見つめ直したとき、「もっと違った働き方があるのでは」と転職を決意。
さらに、せっかく新しいチャレンジをするなら、これまでとは「まったく畑違いの分野で挑戦するのが面白いのでは」と接客業の道を志し、「瀬美温泉」へ。
「実は瀬美温泉には若い頃に来たことがあって、温泉がすごく良かったことと、館内もすごくキレイで、アットホームな感じもいいなと思ったのを覚えています。
前の会社が全国規模の会社だったので、そういう意味でも小規模ながらアットホームさを大切にした瀬美温泉で働いてみたいと思ったんです」(佐藤さん)
現在、「瀬美温泉」で働くスタッフは27名。従業員100名を超えるような大規模な施設とは比べようもありませんが、「小さければ小さいなりの強みがある」と佐藤さんは言葉を続けます。
「自分が気づいたこと、やりたいことがすぐできる。それは大きな施設ではできないこと。『お客さまが喜んでくださることなら、どんどんやって』と代表も言ってくれるので、お客さまに満足していただくことを最優先に、いいと思うことはどんどんやっていきたいと思っています」
そう語る佐藤さんですが、入社して間もなくの頃、お客さまに対して「自分がいいと思うこと」をさっそく実践していました。
「60代ぐらいのご夫婦が、記念日のお祝いに瀬美温泉を利用してくださいました。そのご夫婦が、お二人でピンク色の服を着ていらっしゃって、それがすごく印象に残っていたので、記念日を祝う夜のご会食のときに、思わず自腹でお酒をプレゼントしてしまいました(笑)
実はそのお酒は、この時季にぜひお客さまに飲んでいただきたいと思って自分が仕入れた季節限定品で、たまたまラベルも桜をイメージしたピンク色。
それが、お二人が着ていらっしゃったピンク色の服とも重なって、ぜひお二人の記念日をお祝いしたいと思ったんですが、僕もまだ入りたてで何をしてあげたらいいかわからない。でも、何かしてあげたいと思って(笑)」(佐藤さん)
そのご夫婦はとても喜んで、帰る際には「また来るよ」と言ってくれたとのこと。それが、「何よりうれしかった」と佐藤さん。
「本当に、来ていただくお客さま、みなさんやさしい方が多くて……。そういうお客さまに、僕も何をすれば喜んでもらえるか、常に考えて行動するようになりました。ですから多分、僕は人生のなかで今一番やさしいんじゃないかと思っています(笑)」(佐藤さん)
佐藤さんは今まで「第一印象が悪くて怖いと言われていた」そうですが、「瀬美温泉」に入社してからは、笑うことをいつも心掛けているそう。
今回お話をうかがっている間も佐藤さんは終始笑顔で、その表情もしぜんな印象でした。怖い顔から、笑顔が似合うヒトに。お客さまの喜ぶ顔に背中を押されて、佐藤さんは新しい自分にめぐり会えました。
元気な農家さん。豊かな山の恵み……。北上の食材にワクワク!
今年の3月から「瀬美温泉」の料理長に就任した武田年幸さんは、和食の料理人として東京で10年修行。その後、盛岡を中心にホテルや温泉旅館などで料理の腕を磨き、そのキャリアは35年を超えるベテラン料理人です。
今年の4月からフロントで働く佐藤さんが「人生のなかで一番やさしい自分」と出会えて喜んでいるのに対し、今年の3月から「瀬美温泉」の料理長となった武田さんは、初めて暮らす北上の地で育まれた食材との新しい出会いにワクワクしています。
「この間もお客さまからご要望があって山菜を買いに地元の産直に行ってきましたが、北上は個人の農家さんががんばっていらっしゃる印象です。店頭には旬の野菜はもちろん、珍しい野菜も豊富に並んでいました。
やっぱりそういう土地に来たからには、地場のものを生かしていかないともったいないと思っています」(武田さん)
「瀬美温泉」では、北上の豊かな自然の中で育てられた「白ゆりポーク」や、岩手が誇るブランド牛「前沢牛」をメインに据えたコース料理の他、ふかし野菜・煮付け・おでんなどでおもてなしする「おばんざい」が好評の朝食にも、地元産の野菜をふんだんに使用。
さらに、この季節にしか味わえない美味も……。
「春には山菜、夏になったら隣に川が流れていますから、そこで釣ったイワナやヤマメ、秋には里芋にキノコ、冬は山菜を塩漬けしたものも味わいがありますし……。
まあ、これからの話ですが、お客さまの好みもお伺いしながら、地元で摂れた新鮮な素材を上手に使って、料理に旬の彩りを私なりに加えていきたいと思っています。
例えば調理場の若手が釣り好きで、この前も天然の尺ヤマメを釣ってきたんですよ。それをご滞在中のお客さまにご提供したところ、とてもおいしいと喜んでいただきました。
せっかく『瀬美温泉』に来ていただいたのですから、ここでしか味わえない旬のおいしさを堪能していただきたいと思っています」
そう言って微笑む武田さんは、北上の旬の食材との出会いにワクワクしながら、今日も包丁を握っていることでしょう。
英会話スクールの元講師も仲間に。外国人にも、やすらぎの温泉旅館へ。
奥州市出身の鈴木美香さんは、アメリカの大学で社会学を学び、帰国後に盛岡市にある英会話スクールの講師に。さらに、その実力が認められ、東京でも講師として働いていましたが、今後の人生を考え、岩手や東北で働き続けたいという気持ちも強く、岩手にUターンすることに。
「英会話スクールでは、同僚に外国人の講師がいたので、英語は日常的に使ってはいました。でも、それ以外の外国人とかかわる機会ってほとんどないんですよ。
ですから、岩手に戻ってきて英会話スクールで働くという選択肢もあったんですが、いろんな外国人ともっとかかわりたかったし、違う業界の仕事もしてみたいという気持ちもあって……」(美香さん)
美香さんが通っていたアメリカの大学には、いろんな国籍のヒトたちが通っており、そうしたヒトたちと英語を通じてコミュニケーションする時間が楽しかったそう。
その経験が生きる仕事を探しているとき、美香さんは「瀬美温泉」と出会い、この4月から働くことになりました。
「まだ働いて1カ月ほどですが、中国人の方、スイスの方、ドイツの方、おとといはアメリカ人のカップルの方などもいらっしゃいました。
アメリカ人は別として、それ以外の方は母国語ではないのでたどたどしい英語なんですけど、英語を通じていろんな国の方とコミュニケーションできる。それがすごく楽しいです」
そう語る美香さんですが、1カ月間働いてみて、新たな意欲もわいてきました。
「単に英語でコミュニケーションするだけじゃなくて、きちんとした『おもてなし英語』も使えるようになりたいので、今ネットを活用しながらいろいろ勉強しています」(美香さん)
近年、5月初旬まで滑れる日本屈指の豪雪エリアとして海外からもスキー客が訪れる「夏油高原スキー場」の人気もあって、その近くにある「瀬美温泉」を利用する外国人観光客も増えています。
そうした外国人観光客のサービス向上はもちろんですが、美香さんの視線はもっと遠くを見つめていました。
「外国人が来るのを待つだけでなく、積極的に呼びたいんですよね。
つい最近なんですが、桃佳ちゃんと一緒に『瀬美温泉』のInstagramもはじめました。日本語だけじゃなく、英語のコメントもきちんと入れています。
そうしたら外国人の方がフォローしてくださったり、英語のコメントをいただいたりして(笑) 日本人だけじゃなく、海外の方も見てくれていると思うと、やっぱりうれしくなりますよね」
と語る美香さんは、さらに言葉を続けます。
「代表は、外国人のお客さまもすごく大事にされていて、海外生活の経験もある私にもいろいろ相談してくれます。ですから、代表と一緒に外国人にも喜ばれる温泉旅館にしていきたいと思っています」
自分の家に帰ってきたような、やすらぎのある空間……。
それが、悦子さんが理想とする温泉旅館だという話は、最初に触れました。
地元の方、他県から訪れる方、さらには外国人の方……。そうした「瀬美温泉」に訪れるすべての方に、自分の家に帰ってきたような、やすらぎのある空間をつくること。
新しい仲間たちも加わって、悦子さんがめざす理想の温泉旅館づくりの挑戦はこれからも続きます。『人間は夢を持たなければ』とよく言っていたという先代も、その姿を頼もしく見守っていることでしょう。
◇「美人の湯 瀬美温泉」の求人
「瀬美温泉」では、一緒に働く仲間を募集中! 興味のある方はお電話でお問い合わせを。
Tel/0197-73-7294
◇ 岩手大学の大学生がイメージ動画を制作!
岩手大学と北上市産業支援センターの共同研究により、大学生(留学生を含む)目線で地元企業の魅力を掘り起こし、多言語で情報発信する取り組みが行われました。これに「瀬美温泉」も参加。その動画は、こちら!
(了)
岩手県北上市和賀町岩崎新田1-128-2
Tel/0197-73-7294
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