写真では伝えられない想いがある。ものづくりの根底を支える 「バリ取り・研磨」のスペシャリスト集団。

株式会社START (スタート)
代表取締役  髙橋 卓(たかはし たく)
研磨・バリ取り職人  相沢秀光(あいざわ しゅうこう)
バリ取り職人  佐藤誠子(さとう せいこ)

ママさんも大活躍。北上のものづくりを支える「バリ取り・研磨」の世界。

 「バリ取り」という仕事をご存じですか。

 「バリ」とは樹脂や金属などでパーツや部品をつくる際に生じる不要な出っ張りのことで、それを手作業や機械で取り除く仕事が「バリ取り」です。

 プラモデルを例にすると、よりイメージしやすいでしょうか。プラモデルをつくる際に、プラスチックの外枠からパーツを切り離すと、切断面に余分な出っ張りが残る場合があります。

 この出っ張りが残ったままだと、プラモデルはキレイにつくれないし、作業中に出っ張りが原因でひっかき傷をつくることも……。

 そこで、不要な出っ張りをヤスリで削るなどして作業すると、ひっかき傷もできず、仕上がりもキレイにプラモデルがつくれます。

 それは、工場でのものづくりの世界も同じ。余分な出っ張りのあるパーツや部品を使うと、精度の高い製品づくりが行えず品質にばらつきが出たり、余分な出っ張りが誤作動の原因になったり、さらには工場で作業するヒトのケガの原因になることも……。

 従って、「バリ取り」という作業は私たちの目には触れない部分ですが、製品の“品質”と“信頼性”、さらには働くヒトの“安全性”という、ものづくりの根底を支える重要な仕事です。

 その「バリ取り・研磨」を専門に行うスペシャリスト集団がいると知り、さっそく取材にお伺いしました。

 向かった先は、「株式会社START」(スタート)。北上市は東北有数の工業集積地として発展してきた歴史ある街。さぞや、強面の職人さんが登場するかと思いきや、そこで迎えてくれたのは一見シャイ(?)な女性たち。従業員24名のうち13名が女性で、しかもその大半が30~40代を中心とした子育て中のママさんと知り、さらにびっくり!

 一体、どんな仕事人がいるのでしょうか。

写真撮影は「恥ずかしいのでマスクをしたままで」とのこと。お忙しいのに、ご協力ありがとうございました!

1日に1,300~1,800個のバリ取りを行う女性仕事人参上!

「本当は事務の仕事をしたかったんです。前の仕事も事務だったし、私は不器用なので現場の仕事は無理かなと思っていて……。でも、事務の仕事がなかなか見つからなくて、それではじめたのがバリ取りの仕事だったんですが、今はすごく楽しいです。もう事務の仕事には戻れません」

 そう言って楽しそうに笑うのは、バリ取り職人として3年半になる佐藤誠子さんです。

 ここで、誠子さんがバリ取りしている部品などをお見せできればわかりやすいのですが、こちらで扱っている部品は大手の自動車メーカーで使用されるもの。企業秘密のため撮影もNGとのことで、ご容赦ください。

 ちなみに、こちらの現場で扱う部品は直径数センチのものから、こぶし大のサイズまでが中心。もちろん部品の大きさにもよりますが、誠子さんが1日にバリ取りする部品の数は1,300~1,800個にもなるそう。

「バリを取ることが仕事なので削り残しがあってはもちろんいけないんですけど、削りすぎてもいけないんです。部品にはそれぞれ規格がありますから。その加減に慣れるまでは少し苦労しますが、慣れてくると作業が面白いんですよ。

 この仕事はスピードも大切なので、どうすれば効率よく作業できるか考えながら、自分のリズムを崩さないように、流れに乗ってテンポよく作業ができるとすごく楽しくなってくる(笑) 

 しかも、朝出社したときにたくさんあった部品が、みんなで一生懸命作業しているとどんどん減っていく。それを見ると、大きな達成感があります」

 そう語る誠子さんは一児の母でもあり、子育て中のママさんが働きやすい環境も「START」の魅力だといいます。

「子どもが熱を出して急に休んでも会社の方で融通を利かせてくれるので、安心です。それに、子育て中のママさんが大半なので、周りの理解もあるし、みんなでカバーしあえるところもいいと思います」

 そんな誠子さんに、「START」で働くやりがいを伺うと……。

「この会社は社長自身がなんでも率先して動くし、がんばるので、自分もがんばらなきゃとしぜんと思えるんですよ。

 それに、そうやってがんばっていると、がんばった分だけ認めてもらえるし、会社の雰囲気も“誰か”がではなく、“みんな”で一生懸命にがんばろうという感じになっていて、それがすごくやりがいになっています」

“みんな”でがんばろう! 創業時から変わらない「START」の精神。

 “誰か”がではなく、“みんな”でがんばる会社……。そうした社風が育まれたきっかけを探っていくと、「START」が創業した当時までさかのぼります。

「株式会社START」の代表を務める 髙橋 卓さん。

 「START」が誕生したのは、2006年1月のこと。同社の代表を務める 髙橋 卓さんは、当時、ある会社で20人ほどのメンバーをまとめるリーダーとして、携帯電話のフレームなどのバリ取り・研磨の仕事に携わり、忙しい日々を過ごしていました。

 そんなとき、悲劇が訪れます。卓さんのお父さんが亡くなったのです。しかも、突然の出来事に動揺し泣きじゃくるお母さんに代わって、卓さんが急きょ喪主を務めることに。

 そのため、お父さんとの思い出とゆっくり向き合えたのは、慌ただしいまま葬儀を終えて、ようやくひとりでお酒を飲んでいるときでした。

「一緒に酒を飲んだときによく言っていた言葉を思い出したんですよ。『もし自分で事業をやるチャンスがあるなら、やってみろ』って。

 父親も自営でトラックの運転手をしていたので、そう言ったと思うんですけど、『若いんだから失敗したっていい。やり直せばいいんだから』と言ってたんです」

 そのとき卓さんの頭に浮かんだのは、当時、一緒に働いていた佐藤盛(さかり)さんと相沢秀光(しゅうこう)さんの2人。

 卓さんは組織に縛られずに仕事ができたら「もっとできるのに」と考えることがよくありました。そのチャンスは今だと思ったのです。

 卓さんはさっそく奥様に自分の想いを打ち明け、「バリ取り・研磨」のスペシャリスト集団として起業すべく動き出します。もちろん、その2人を誘って……。

「父親が亡くなって3カ月後にSTARTを立ち上げました。まだ喪も明けていないのに、という迷いもあったんですが、思い立ったときにすぐやらないとダメな性格なんで……。少しですが父親が残してくれた遺産もあったので、それを全部つぎ込みました」

 卓さんは、そのとき28歳。

「会社をはじめるとき、みんなに言ったんですよ。『自分が言い出したので代表はやるけど、でも、“みんな”でやっていこう。自分は代表ではあるけど、同じ“仲間”として“みんな”でがんばっていこう』って」

 こうして2006年1月、“みんな”で一緒にがんばる「START」の歴史が文字通りスタートしました。

 ちなみに、「START」という社名は、S(佐藤)、T( 髙橋 )、A(相沢)、R(亮子=卓さんの奥様)、T(卓)という立ち上げ当時のメンバーの頭文字を取ったもの。「“みんな”で一緒にがんばろう」と言った卓さんの言葉を表したような社名です。

「START」の社名は卓さんが考えたのかと思いきや、実は事務や経理を担当する卓さんの奥様が考案したものだそう。そこには、いろんな想いが詰まっていました。

年齢を超えて、尊敬できる“仲間”とともに。

 「START」の創業にあたって、卓さんが佐藤さんと相沢さんを誘ったのは、その人柄を尊敬してのことでした。

「前の会社に勤めているとき、2人が入ってきたんですよ。私は現場も任されていたので、目標の数をこなせないと注意する立場でもあったんです。

 佐藤や相沢は私よりひと回り以上も年上なんですが、そんな2人にもときには強い口調で怒ったりしました。自分だったら立場上とはいえ、『自分よりもひと回り以上も年下のヒトにこんなに怒られたら嫌だろうな』と思いながらも、怒っていました。今なら考えられないですけど、当時は私も若かったんで……。

 でも、それぐらい怒られても、2人は毎日現場に来て、仕事も責任をもってきちんとやってくれる。がんばってくれるんですよ。

 気づけば私もそういう2人を頼りにするようになっていて、自分で事業をやるなら、自分が任されたことに責任を持って最後まで取り組む、そういう信頼できるヒトとやりたいと思ったんです」(卓さん)

 2009年より「START」では北上市和賀町にある「岩手製鉄株式会社」さんからバリ取り・研磨の業務を請け負っています。

 戦後間もない昭和24年6月に創立し今年70周年を迎える同社は、数百グラムの小型部品から10トンクラスの大型鋳物に加え、近年ではさらにフライパンや鍋などの製造まで、長年培われた伝統技術で幅広く手掛ける歴史ある会社です。

 その責任ある仕事をずっと任されているのが、「START」創業当時からのメンバー、佐藤さんと相沢さんです。取材に訪れたこの日は、夜勤から戻ったばかりの相沢さんにお話を伺うことができました。

昨日よりも早く、多く、きれいに。その繰り返し。

 相沢さんは「岩手製鉄株式会社」さんの工場で、直径数センチのものから、大人の上半身ぐらいはありそうな大きなものまで、さまざまな鋳物の部品のバリ取り・研磨を行っています。最初に登場した誠子さんが働く現場と比べて、さらに重くサイズも大きい部品が対象となり、作業も大きな機械を使って行うため、危険も伴います。

「作業自体はある程度覚えちゃえば、そんなに難しいことはないですよ。削る部品を機械にセットしてボタンを押せば、あとの作業は機械がやってくれる。

 私はその間に機械が削った部品を点検して、削りの甘いところはサンダーという工具で削ったりしながら次の準備をして、機械の作業が終わったら部品を取り出して次の部品をセットする。その繰り返しですよ」

 照れ笑いを浮かべながら、そう語る相沢さんは現在55歳。バリ取り・研磨の仕事に携わって10年以上になるベテランですが、お話を伺っていると謙虚で誠実な人柄がよく伝わってきます。

 そんな相沢さんに仕事の楽しさを伺うと……

「作業は単純ですが、工夫次第で昨日は1,000個しかできなかったものが、今日は1,100個できたりする。そういう面白さがあります。

 この仕事は削り残しがあるのはもちろんダメだけど、削りすぎてもいけない。その加減を見て、きれいに、早く、数もこなしていくことが求められる。昨日よりも早く、多く、きれいに。毎日、その繰り返しですよ」

 淡々とそう語る相沢さんは、夜勤明けで会社に訪れたとき、真っ白なはずの帽子の正面が、鋳物のバリを削る際に出る粉で汚れていました。語り口こそ至って謙虚で物静かでしたが、真摯に仕事に向き合い、1日しっかり働いてきた仕事人の姿がそこにありました。

 相沢さんは、卓さんから一緒に独立しようと声をかけられたとき、どう思ったのでしょうか。

「はじめて会ったのは、社長が20代の頃。当時、20人ぐらいのスタッフをまとめるリーダーで、自分から率先して動くし、仕事もバリバリこなす。それを目の当たりにして、若いのにすごいなと思ったのを覚えています。そういうヒトに声をかけてもらったら、断る理由もないですよね」

 年齢を超えて、尊敬しあえる“仲間”が「START」をずっと支えています。

もうひとりの創業当時からのメンバー・佐藤さんも「岩手製鉄株式会社」さんで請負の仕事に従事。鋳物のバリ取り・研磨を行うため、削った際に飛び散る粉を吸ったり目に入ったりしないよう、ゴーグルとマスクの完全装備で作業しているとのこと。
背後にあるバリンダーという機械で部品のバリを削っている間に、グラインダーという工具で丁寧に仕上げをする佐藤さん。ゴーグルとマスクの着用で夏は特に大変そうですが、同じ現場で働く相沢さんに伺うと「慣れればどうってことないですよ」と涼しい顔。さすがスペシャリストです。ちなみに、こちらも部品は撮影NGのため、ご容赦ください。
左が佐藤さん、中央の佐藤真芳(まさよし)さんは佐藤さん・相沢さんの次に古く、卓さんとの付き合いでいえば一番長い方だそう。写真撮影は「恥ずかしいので、このままで」とのこと。「START」のみなさんは、女性といい、男性といい、みなさんシャイな方々でした。

「時間」ではなく、「責任」を請け負う「START」の矜持。

 最後に、卓さんに「START」の強みを伺うと……

「派遣の方は“時間”で仕事をしますが、STARTは“1個いくら”で業務を請け負います。つまり、STARTは請け負ったバリ取り・研磨の仕事は『時間が来たから終わり』ではなく、何時間かかろうが最後まで責任をもってやるということ。受けた仕事には最後まで責任を持つというところが強みだと、以前は思っていました。

 でも、突き詰めていくとやっぱり“ヒト”だと思います。本当に、STARTはみんながんばってくれる。佐藤・相沢の2人は特にそうで、与えられた仕事は責任を持って最後まできちんとやりぬきます。

 そういうヒトたちが会社の軸にしっかりいて、みんなでがんばっている。それが、STARTの強みだと思います」

 「START」で女性スタッフが増えたのは、2年ほど前から。北上市ではさまざまな業種の経営者さんたちが毎月5日に集まり、楽しくお酒を飲む「五日会」という会が昔からあります。

 卓さんも10年ほど前から参加していますが、そこで出会った先輩経営者さんの紹介からご縁ができ、3~4人の女性スタッフではじめた仕事がどんどんひろがり、今では女性スタッフの数も13人の大所帯に。

 こうして新たな仕事がひろがっていくのも、「START」の「みんなでがんばる」精神が受け継がれているからでしょう。もちろん、みんなで“ただ”がんばっているだけではありません。

 昨日より「早く、多く、きれいに」を毎日実践する誠子さんや相沢さんなど、「START」の仕事人たちの努力や工夫の賜物だということを卓さんはよくわかっています。

 だからこそ「START」の強みは“ヒト”だと語る卓さんは、最後にこう言葉を続けます。

「自分は本当に“ヒト”に恵まれていると思います。信頼できる仲間と出会えて、一緒にSTARTを立上げて、今も一緒に仕事ができている。五日会という“ヒト”の縁にも恵まれて今がある。そのことに感謝の言葉しかありません」

 社名の「START」。そこには、「創業当時の初心を忘れない」という卓さんの想いも込められているような気がしてきました。もっとも、社名を考案したのは奥様ですが……。

 ちなみに、「START」が立ち上がる前、卓さんの想いを知った奥様は密かに動き、佐藤さんや相沢さんに「うちのがなんか独立するとか言っているので、もしよかったら……」と声をかけ、卓さんが2人を誘う前にしっかり根回しをしていたそう。

 卓さんは、奥様にも恵まれたヒトでした。熱々の夫婦愛のお話……、ごちそうさまでした<(_ _)>

こちらは、研磨の作業で使う工具。
こちらは、研磨前のピンバッジ。旋盤で切削加工したもので 表面もザラザラ。
このピンバッジが卓さんの手にかかると……
ピカピカの鏡面仕上げに。ピンバッジの表面が鏡のように光を映し込み、美しく輝きます。お見事!

「株式会社START」の求人!

「株式会社START」では、一緒に働く“仲間”を募集中です。興味のある方はこちらへ!


(了)

株式会社START
岩手県北上市鬼柳町笊渕272-1  
Tel/0197-72-7101

2019-02-27|
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