草ぼうぼうの畑で実感する“命の根源”とは?
11月23日(土)、北上市の中心部から車で北へ20分ほど走ったところにある更木(さらき)地区は、生憎の曇り空で肌寒く……。
しかし、そんな天気などものともせず、にぎわっていたのは……。
固定種・多品目の野菜を無農薬・無化学肥料で育てる野菜農家「ヤサイノイトウ」さんの畑です。
この日に開催されたのは、仕事人図鑑でもおなじみ、北上市内で自然派ワインとオーガニック野菜にこだわった料理を提供するお店「Bon Bar」さんと「ヤサイノイトウ」さん、さらには同じ更木地区で400年の歴史を刻む「永昌寺」さんのコラボイベント「寺バル」。
同イベントは畑での収穫体験と、その畑で採れる野菜を使った出来立ての料理を「永昌寺」さんの本堂でおいしくいただきながら、海野(うんの)住職より「食べること・命をいただくこと」の意味を楽しく学ぼうと、昨年に引き続き開催されました。
イベントのスタートは、草ぼうぼうの畑から。日本一おいしいと言われる固定種「大浦太ごぼう」の収穫方法を、「ヤサイノイトウ」代表・伊藤修司さんがスコップを使ってレクチャー。
大地に深く根を下ろすごぼうを掘るためには、その周りの土をスコップで丁寧に取り除くことからはじまります。
ごぼう専門の農家さんでは機械化も進んでいるそうですが、伊藤さんはごぼうだけでなく少量多品目の野菜を栽培しているため、収穫はすべて手作業。
「大浦太ごぼう」の長い葉っぱを鎌で刈り、その周りの土にスコップを入れた瞬間、早くも「ふかふかだね」「やわらか~い」といった声があちこちから聞こえてきます。
伊藤さんの畑で堆肥として使用しているのは発酵鶏ふんで、農薬・化学肥料は一切使わず野菜を育てています。そのため、野菜と一緒に雑草も元気に育ちますが、その雑草も野菜が負けない程度に刈り取り、土に還すことで微生物が分解し、土の肥やしに。
雑草もお友達として豊かな生態系を保つことを土づくりの基本に、安心・安全でおいしい野菜を育てることが伊藤さんのこだわり。
そうして育まれたふかふかの土に参加者さんはまず驚いた様子ですが、ごぼうを掘る伊藤さんの手は止まりません。
掘り方の注意点なども交えながら、スコップやシャベルを使ってごぼうを掘ること5分ほどでしょうか。大地に深く根をおろす「大浦太ごぼう」の姿が……。
1本のごぼうを掘るだけでも、これほどの苦労と手間がかかるのかと驚く参加者さんと一緒に作業を見守るのが、海野住職。
ごぼう掘りは、海野住職も昨年体験されたそう。
「ごぼう掘りは体全体を使う作業。本当に大変で、農家さんの苦労がよくわかりました。この作業そのものが“命の根源”、“命をいただく”ということの尊さを現わしていると思います」(海野住職)
実際、参加者さんがごぼう掘りを行うと、ごぼうは大地に深く根を下ろしているため折れないように気を遣って土を掘らなければならず、2人がかりでも20分以上かかるほど作業は大変。つくづく農家さんの仕事の大変さを実感する体験となりました。
そうしたなかで、苦労してごぼうを掘る参加者さんをサポートしながら、「ほら、ごぼうのいい香りがしてくるでしょ!」とうれしそうに笑顔を浮かべる伊藤さんの姿が印象的でした。
水菜、ルッコラ、人参に大根……。さまざまな野菜を収穫する喜び。
伊藤さんの畑には「大浦太ごぼう」以外にも、水菜やルッコラなどサラダに大活躍の葉物、黒キャベツ、人参、大根だけでも5種類と豊富な野菜が育っており、いろいろな場所で収穫体験がスタート。
大根の畑では、伊藤さんの奥様が5種類の大根の特徴を、料理への活用例も交えてレクチャー。
葉物が育つ畑では、その場で試食も。これができるのも、無農薬・無化学肥料で野菜を育てている伊藤さんの畑ならでは。
こんな合わせ技も「おいしい」と教えていただき、みんなでもぐもぐタイム。畑がサラダバーに変身しました。
さらに、人参畑も大にぎわい。
こちらは「Bon Bar」の店長であり、このイベントの仕掛け人・菊池亮さん。この日は娘さんも参加。童話「おおきなカブ」の要領で、親子で人参掘りにチャレンジ!
一方、こちらは家族でごぼう掘り体験。「ヤサイノイトウ」の伊藤さんはひとりで手際よく作業していましたが、やはり初心者にはハイレベル。家族みんなで協力しながら、10分、20分と時間をかけて、ようやく収穫へ。しかし、そのひとときも楽しそうでした。
収穫体験以外にも、子どもたちには楽しみが……。それは、畑のあちこちにいる小さな生き物たちとの出会い。
「あ、ミミズだ」「幼虫がいる」「ダンゴムシだ」「ネズミの穴だ」という声があちこちから聞こえていました。
作物を育てる農家さんの大変さをしみじみ実感し、みんなで悪戦苦闘しながらも楽しんだ収穫体験。そのご褒美は、安心・安全の畑から採れた豊かな恵み。
みんなで収穫した野菜は、みんなで分けてお土産に。
厳しい修業から学んだ海野住職が語る“命をいただくこと”の意味。
収穫体験の後は、伊藤さんの畑から車で数分のところにある「永昌寺」さんへ。
「永昌寺」は、更木地区に1619年に開山した曹洞宗のお寺。曹洞宗といえば、道元禅師が1244(寛元2年)にお釈迦さまの教えを正しく伝えようと開山。
その修行は厳しく、朝起きて顔を洗う順番から作法が細かく決められ、朝・昼・夜の座禅やお勤め、掃除はもちろん食事も修行の一環として細かい作法が決まっています。
例えば、食事の最後には刷(せつ)というヘラのような道具を使用。器に残るご飯粒やみそ汁の残りなどをそれでこそぎ取って食べ、そのあとに器にお茶を入れてよく回してきれいにしてから、それを飲み干すそう。
さらに、修行僧を養うための料理をつくることも修行とされ、食事一切を取り仕切る「典座」(てんぞ)という重要な役職もあるほど。
その教えは、「余すことなく使う」こと。すべて命あるものとし、例えば香汁(きょうじゅ=みそ汁)に使用する“だし”も昆布と椎茸を基本に、人参のへた、かばちゃのたね、キャベツの芯なども生かして余すことなく使うことを徹底しています。
海野住職もそうした厳しい修行を経て、「永昌寺」の住職になられた方。この日は、「ヤサイノイトウ」さんの野菜を使用し、「Bon Bar」さんのシェフが腕をふるった料理をいただく前に、曹洞宗の修行僧が食事の前に唱える「五観の偈」(ごかんのげ)を紹介。
要約すれば、①この食事ができるまでにかかわった多くの人々の働きに想いを馳せ、感謝し、②自分の行いがこの食事をいただくのに値する人間かを見つめなおし、③欲張らず、④子どもは成長のため、大人は栄養を得るためにも食事は大事であり、⑤この食事をいただくことは悟りをひらくことにつながる大切なものだと考えながら食事をいただきましょう、ということ。
それは、そのまま「寺バル」のイベントともリンクします。「ヤサイノイトウ」さんの畑で野菜を収穫し、「Bon Bar」さんのシェフが野菜をつくってくれた農家さんに感謝しながら料理をつくり、それをいただく前に“食べる”ことを通して“命の根源”に触れ、“命をいただくこと”の尊さについて想いを馳せることでした。
「寺バル」のイベントは、海野住職のお話のあと、みんなで「五観の偈」を唱和し、いよいよ食事タイムへ。
テーブルには、「ヤサイノイトウ」さんがつくる野菜のおいしさを大切にした料理が並びます。
曇り空で陽も射さず、11月の風に冷えた体には、あったかい豚汁は最高のごちそうでした。
ソムリエでもある亮さんが、更木の土地をイメージした特製のお酒も用意。
掘るのに苦労した「大浦太ごぼう」を使用した炊き込みごはんは、固いごぼうのイメージを変える柔らかくてホクホクした触感と、ほんのりとしたごぼうの香りが食欲をそそります。
「ヤサイノイトウ」さんの野菜を使ってつくったスムージーも青臭さはなく、むしろバナナのような上品な甘さでおいしくいただけました。
野菜が苦手だという女の子は、「野菜に少しでも興味を持ってくれたら」と考えたお父さんとお母さんに連れられて参加したそう。楽しそうに人参の収穫をしている姿が印象的でしたが、その人参を食べてみようとチャレンジも。
サービス精神も旺盛なかわいらしい女の子でしたが、
人参はもちろん、みそ汁のスープもおいしくいただきましたとさ。
「すごいでしょ!」と誇らしげな女の子。撮影にご協力いただき、ありがとうございましたm(__)m
食事がひと段落すると、海野住職や「ヤサイノイトウ」の伊藤さんとの談笑タイムに。
食事の最後は、箸袋の裏に書かれた曹洞宗の「普回向」(ふえこう)をみんなで唱和。要約すると「幸せを独り占めにせず、すべてのヒトに配って、みんなでともに歩み、仏道を成就したい」というような意味だそう。
一方、この記事の最後は、「寺バル」のチラシに書かれていた言葉でしめましょう。
「食べるとは生きること」
「食べるとは育むこと」
「食べるとは知ること」
「食べるとは喜ぶこと」
「食べるとは命を学ぶこと」
「食べるとは幸せになること」
このイベントが終わって、さらに付け加えるなら、
「“みんなで”幸せになること」でしょうか。
そう思ったイベントでした。
(了)
令和元年 第2回 寺バル
ヤサイノイトウ×Bon Bar×永昌寺
開催日時/11月23日(土・祝)10:30~13:00
場所/収穫体験:ヤサイノイトウさんの畑、食事:永昌寺さんの本堂
参加費/2,000円(小学生までのお子さまは無料・家族で参加の場合は一家族3,000円)
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