障がいのある方と地域をつなぐ。ひろげる。 フリースペースを活用した多機能型事業所ito始動!

糸のようにみんなを結び、ステキな“何か”が生まれる空間へ。

 その建物は、北上駅から九年橋方面に向かって7分ほど歩いた住宅街の中に静かに佇んでいました。

 道路に面した2階建ての建物は、一見なんの変哲もないビルですが、軒先をほのかに照らすライトのあたたかな灯りにしぜんと目がいきます。

 その灯りが「好きだ」と語るのは、このみさん。「なんかかわいくて、いつも目がいく」んだそう。このみさんは全日制から通信制の高校に転入したばかり。社会とのつながりをひろげようと、11月12日に開所した「多機能型事業所 ito-いと-」でアルバイトとして働いています。

 筆者が訪れたのは開所前の頃で、まだリフォームも途中でしたが、中をのぞくと清潔感のある白い壁とあたたかなライトの灯りが印象的な空間がひろがり、カフェにも、雑貨屋さんやお花屋さんにもなりそうな……。

 さて、このみさんも働いているというこの「多機能型事業所」とは、どんな施設なのでしょうか。

「多機能型事業所」とは複数の障がい福祉サービスを行う事業所のことで、itoでは「自立訓練(生活訓練)」と「就労継続支援B型」のサービスを提供し、障がいのある方の自立と就労をサポートします。

 そんなitoの最大の特徴は岩手県でも珍しい「フリースペース」を活用して、障がいのある方と地域の方との日常的なつながりを大切にしている点。

▲1階は誰でも利用できるフリースペースや店舗として、「就労継続支援B型」の利用者さんたちが運営。

 しかも、フリースペースと店舗のある1階は、「就労継続支援B型」の利用者さんたちが運営を担当。ちなみに「就労継続支援B型」とは、一般の事業者に雇用されることが困難な障がいのある方に働く場を提供するとともに、将来の就労に向けて知識や能力の向上のために必要な訓練を利用者さんの体調やペースに合わせて行います。

 つまり、誰もが利用できるフリースペースと店舗の運営を通して、地域の方と日常的に交流を図りながら、利用者さん一人ひとりがやりがいや生きがい、役割などを見つけ、自分らしい働き方を実現できるようにサポートしていく点がitoの魅力です。

 しかも、障がいのある方と地域の方、itoに遊びに来たヒトと誰か、ヒトとモノ……。フリースペースという自由な空間でさまざまな出会いが生まれ、ひろがり、ステキな“何か”が生まれる可能性も……。

リフォームも自分たちで。みんなでいっしょにつくる未来。

 さて、2階はどうなっているのでしょう。

 外にある階段をあがると、清潔感のある白い壁とライトのやわらかな灯りが印象的なエントランスがお出迎え。

 itoの2階は、「自立訓練(生活訓練)」の作業スペースの他、事務室や相談室があります。

 「自立訓練(生活訓練)」とは、障がいのある方が地域生活を営むうえで必要となる生活能力の維持・向上はもちろん、自分らしく安心して暮らせるように2年間かけて訓練するところです。

 itoでは、実生活で必要とされる社会マナーや家事活動、対人コミュニケーション、学習、身の回りのことなど多様なプログラムを用意。さらに、1階のフリースペースでは地域の方との交流もでき、そこでの体験を通して社会参加や対人コミュニケーションなどをしぜんと学ぶことができる点も魅力です。  

 そのため、itoではそこで訓練する利用者さんや地域の方も心安らげる居心地の良い空間をつくろうと、壁のペンキ塗りや床張りなど、トイレ以外のほとんどすべてのリフォームをスタッフの手で行いました。(ちなみに1階は水回りなど充実させるため、業者さんにお願いしたそうです)

 およそ1ヵ月かけてセルフリフォームした空間に置かれた家具や棚に並ぶ本、楽器などは寄付していただいたものを活用。itoはいろんな方に支えられて11月12日の開所を迎えることができたのでした。

▲2階の作業所は、「自立訓練(生活訓練)」のスペース。

誰もがホッとできる、「とりあえずあそこに行けばいいよ」という場所へ。

 そのすべてが「お気に入り」だと語るのは、itoでサービス管理責任者を務める奈織子さんです。奈織子さんは障がいのある方の就労支援を中心に20年以上にわたって社会福祉の仕事に携わってきたベテランです。

奈織子さん:自分が手をかけた天井、壁、床……、全部がお気に入りです。プロの方みたいにキレイにはできていないかもしれないけど、一生懸命ペンキを塗ったり床を張ったりしました。すべてが思い出です。

 そんな奈織子さんは、まだ動き出したばかりのitoをどんな空間にしたいと思っているのでしょうか。

 

奈織子さん:訪れたヒトがほっこりできる空間をつくりたいというのはありますね。障がいがあるとかないとか関係なしに集まれる場所、誰もがそこに居て居心地がいい場所、ほっこりホッとできる場所になればいいなと思っています。

 知的障がい者さんが生活しながら働く施設や、「ひきこもり」や「ニート」など働きたくても“何か”の理由で働けない若者の就労を支援する取り組みに長く携わってきた渡邊さんは、「とりあえず、あそこに行けばいいよ」と思ってもらえる場所にしていきたいそう。その想いの原点は、若者の就労支援に携わっていたときの経験からでした。

渡邊さん:俺が担当していた最初の頃は「15歳から39歳の働きたい若者」という大きな枠組みで動いていたんですよ。そうしたなかでいろいろな方と接していると、本人は気づいていないけど障がいが原因だったり、もしかしたら病院に相談に行った方がいいかも、というような方たちも相談に来るわけです。そんなときに、もちろん適切な機関に繋いでいくんですけど、その前に「元気づけ」だったりただ世間話をするだけでもよくて、そういうことも含めて「居場所」というものをつくりながらやっていこうという雰囲気があって、そういう空気感が俺は好きだったんですよ。とりあえず利用者さんも「どうしたらいいか……」と不安や悩みを抱えて来ているわけですから、そこをきちんと「受け止める」というプロセスも大切だと思うんです。それをitoでやりたいですね。「とりあえず、あそこに行けばいいよ」と思ってもらえる場所にすること。もちろん、「自立訓練(生活訓練)」と「就労継続支援B型」の多機能型事業所として活動していくわけですが、そこだけにとどまらずフリースペースを活用してもっと大きな枠組みで、利用者さんと地域のみなさんといっしょに誰でも受け入れる、そういう「居場所」をつくっていきたいですね。

職場に行けないヒト。学校に行けないヒト……。誰でも来られる場所。

 大好きな保育士の仕事に20年以上携わってきた美穂さんは、しかし人間関係の悩みから働くことができなくなり、およそ1年半保育士の仕事を休んでいました。「ヒトと接する仕事はしばらく無理かな」と思っていたときにitoと出会い、もう一度ヒトと接する仕事にチャレンジしてみようと思ったのだそう。その理由は……。

美穂さん:「自立訓練(生活訓練)」と「就労継続支援B型」の多機能型事業所なんですけど、そのベースに「フリースペース」というのがあって、障がいのあるなしにかかわらず「みんな誰でも来ていいよ」という部分ですね。枠に縛られない空間というのにすごく憧れていて、itoの考え方も支援する側・支援される側という枠に縛られてなくて、私たちと利用者さんとがいっしょに考えて空間をつくっていくという考え方だったり、地域のヒトも気軽に来られるという部分だったり、とにかく「みんないっしょに」という考え方にすごく共感しました。

 そう語る美穂さんは、itoをどんな空間にしたいと思っているのでしょうか。

美穂さん:みなさんと同じように、誰もが居心地がいいと感じる場所がつくれればいいなと思います。私も経験したからこそわかるんですが、どうしても仕事に行けないヒトが、では家に居ればそれで救われるかというとそんなことはないんですよ。そういうヒトたちって家に居ても何もしてないから「私ここに居ていいの?」と悩んだり、「私何もしないで何やっているんだろう?」と自分を責めたり……。そういうときに息抜きじゃないですけど、「あそこにちょっと行ってみようかな」という自分にとって居心地のいい場所があったら、それだけで気持ちがラクになると思うんです。それで何をしてもいいのであれば、好きな本を持っていってそこで読んでもいいし、音楽が好きなら歌ってもいいし(笑) そういうヒトたちもいつでも入りやすい空間を、みんなでつくっていけたらいいなと思います。

 1階の軒先をほんのり照らすライトの灯りが好きだと語っていたこのみさんがitoでアルバイトすることになったのも……。

このみさん:私も人間関係のことがきっかけで高校に行けなくなって、通信制の高校に変えようとしているときに千紗さんから声をかけてもらいました。そのときは1ヵ月ぐらい家にいて、でも何もしていないときだったんですよ。私自身、何もしていないと別に焦る必要もないのに焦っちゃうタイプで、お母さんにも「外に出た方がいいんじゃない」と言われたこともあって、思い切って働いてみようと思いました。

 千紗さんとはitoの代表を務める方。しかし、それ以外の方は、このみさんも初めて出会うヒトばかり。そういうヒトたちといっしょに働く不安はなかったのでしょうか。

このみさん:もともとヒトとかかわるのは好きなんですけど、学校という空間になるといろいろ気を遣ったり、ひとつの言葉に対してもいろいろ深読みしたりしてしまう自分がいて、そうするとどんどんヒトとかかわるのが辛くなってきて、学校にも行けなくなったんです。でも、じゃあヒトとかかわらなければいいのかというとそれもちょっと違って、やっぱり社会に出てヒトとかかわりたいと思ったとき、千紗さんからは「困ったことがあったら経験豊富なスタッフがいるから、いつでも頼っていいし、ひとりではなくチームでやっていくんだよ」と言われていたので、もちろん不安もありましたけど、そういう安心感がありました。それに今回はリフォームも自分たちでやったので、他のみなさんといっしょに作業するなかで人柄も知ることができて、どんどん不安がなくなってきたというか、楽しみになってきました。

 そう語ってくれたこのみさんは、今ではitoで働くことにやりがいを感じるまでに。高校を辞めて通信制に変えるなど16歳でいろいろ経験されてきたこのみさんは、そういう世代の方も集まれる場所にできたら……と考えているそう。

このみさん:そうなるといいなと思います。ふつうにバイトするという選択もありましたが、やっぱりヒトとかかわることにまだ不安が大きくて、でもitoではしぜんに受け入れてもらえて、それでちょっと心に余裕ができたというか……。それに「居場所」をつくるということを考えると、仕事としても私なりにお手伝いできることがあるのかなと思うんです。そういう意味でもやりがいがありますし、救われた感じがあります。

 さて、itoの代表を務める千紗さんはitoをどんな場所にしたいと考えているのでしょうか。

千紗さん:もう、みんなが全部言ってくれました(笑) それがすべてです。「とりあえず、あそこに行ってみよう」「あそこに行けばなんとかなる」「ここに居ていいんだ」と思える場所にしていけたらと思います。

 フリースペースを活用し、障がいのある方と地域を、あなたと誰かを、ヒトとモノを糸のようにつなぎ、結ぶito。福祉の可能性をひろげる新たなチャレンジが北上市ではじまっています。障がいのある方も、地域の方も、まずはお気軽に遊びに行ってみてはいかがでしょうか。居心地のいい空間と、気のいいスタッフたちが笑顔で迎えてくれることでしょう。

12月23日(木)、1階の店舗&フリースペースがついにオープン!

詳細はitoホームページをチェック!! ▶▶▶▶ itoホームページ 

(了)

多機能型事業所 ito

岩手県北上市若宮町2-7-1
Tel/0197-72-8191
営業日時/月~金曜日 9:00~18:00
サービス提供時間/9:30~16:30
定休日/土・日・祝祭日、年末年始、お盆

2021-12-09|
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