「3S活動」の、その先へ。 「第6回 いわて3Sサミット」の現在地。

ひん死の状態だった会社を復活させた「3S活動」とは?

「3S活動」とは、「3S」(整理・整頓・清掃)をすることが目的ではない。

「3S」は、働くヒトに貢献する……。

「3S」とは、ムダを省くこと。

 ムダとは「誰の役にもたたないこと」であり、そのムダを省けば「ゆとり」が生まれる。

 整理・整頓して場所のムダを取り除けば、空いたスペースが社員の休憩所となり、安全通路の確保にもなる。

 時間のムダをなくせば時短となり、残業ゼロに、さらには休日の増加に。

 お金のムダを省けば高収益につながり、社員の収入アップや福利厚生の充実に。

 そうした成果が社員のモチベーションを高め、質の高い仕事に、顧客満足に、とつながっていく。

 さらにその取り組みを継続させることで組織がブラッシュアップされ、会社の価値も高まっていく。

 その実践と経験がよりよい企業風土を育み、会社独自の文化として根づき、人材育成にもつながる。

 それが、地域を支える中小企業として、より良い会社づくり・より良い地域づくりへとひろがり、お金では買えないオンリーワンの中小企業へと生まれ変わらせる。

 そのストーリーに共感してもらえたら、それこそがその会社の大きな“強み”となり、中小企業でも大手に負けないチカラとなる……。

「枚岡(ひらおか)合金工業株式会社」(大阪市) の代表取締役社長を務める 古芝義福(ふるしば ぎふく)さん の講演の様子。

 2月14日(金)、岩手県北上市にある「文化交流センター さくらホール」で開催された「第6回 いわて3Sサミット」。その会場で古芝義福(ふるしば ぎふく)さんが行った講演「たかが3S活動、されど3S活動~20年継続してきた秘訣~」を要約すると、上記のような内容になるでしょうか。

 古芝さんが代表取締役社長を務める「枚岡(ひらおか)合金工業株式会社」(大阪市)さんは、ひん死の状態だった会社を「3S活動」により復活。現在ではその取り組みを学ぶため、年間1,000名、海外からも300名が工場見学に訪れるという「3S活動」の先進企業です。

 そんな同社でも今から20年前、「3S活動」を導入した当初は、昔ながらの古い価値観に縛られた社員たちの反発が大きく、何度も衝突を繰り返したそう。

 しかし、それでも地道に活動し、社員たちと何度も議論を重ね、「なんのために、誰のために3Sをやるのか」「3S活動をして、どうなりたいのか」という「3Sの意義」を問い続けてきた結果、たどり着いた答えが「3Sは働くヒトに貢献する」ということであり、本記事の最初につながっていきます。

 一般的に「3S活動」というと、「3S」(整理・整頓・清掃)をすることが目的となり、「上から言われたからやる」といった「やらされ感」満載の活動になってしまいがちに……。

 その結果、なかなか定着させることができずに苦労している企業や、「3S」の導入をあきらめてしまう企業も多いそう。

 しかし、古芝さんは社員たちと議論を重ねるなかで、「3S活動」によって場所・時間・お金の「ムダ」を排除。その継続と積み重ねがさまざまな「ゆとり」となって「働くヒトに貢献する=返ってくる」という「3Sの意義」を導き出し、そのビジョンを社員と共有。

 さらにそれを実践し、社員たちもその努力が成果となって返ってくることで達成感を得て、積極的に取り組むように。

 講演の最初では、ドローンを使って社内を撮影した映像が流されました。そこに映し出されたピカピカの社内はもちろん、そこに登場する社員たちのイキイキとした表情が、「3S活動の意義」をひとりひとり理解し、「3S活動」が文化として社内に根づいている様子がよく伝わってきました。

「うちの会社は、食堂はあってもテーブルがなかった。電気ポットも床に直接置いていた。ゴミが落ちていても誰も拾わない。窓ガラスにヒビが入っても、セロテープを貼って補強するだけ……。そういう食堂で、弁当を膝の上に置いてみんなで食事をしていたんですよ。

 そんな会社でも、できるんです。3Sで生まれ変われるんですよ。ですからこの会場のなかにも『うちの会社で3Sができるのか』と悩んでいる方もいらっしゃるかもしれません。大丈夫です。できます。ぜひ、チャレンジしてください」

 古芝さんの講演は、そんな熱いエールとともに終了しました。

岩手県内で実践されている「3S活動」とは?

 この日の「第6回 いわて3Sサミット」は、「継続を支えるモチベーションと活動の成果」をテーマに開催。古芝さんの講演の前に行われたのが、県内で継続的に「3S活動」に取り組む3社の事例発表でした。

 そこで見事「3S大賞」を受賞した「有限会社 ウスイ製作所」(北上市)さんの活動も、古芝さんの取り組みと重なる部分が多かったのが印象的でした。

 それもそのはず。「ウスイ製作所」の代表を務め、今回の事例発表でもステージに立った碓井浩太郎さんは、ものづくりの楽しさ・凄さ・驚き・感動を伝える製造業の全国ネットワーク「MONOZUKULINK.NET」の大阪例会に2012年2月に初参加。

 その際に企業視察で訪れたのが「枚岡合金工業株式会社」さんであり、ピッカピカの工場を見て感動。その2年後には古芝さんを北上市の会社に招き、社員の前で「3Sの意義」について講義してもらったそう。

 そうした碓井さんの取り組みの最大の特徴は、「3S活動」を通じて「社員ひとりひとりの幸福度を高めよう」としている点。

 2014年度からは毎年クリスマスに幸福度アンケートを実施。アンケートの項目は社員が考え、それに対して自分がどれぐらい実現できたかを数値化し、社員ひとりひとりの幸福度を高める努力を現在まで継続的に実践しています。

 「3S大賞」は来場者の投票で決まりますが、「3S活動」(整理・整頓・清掃)による働きやすい環境づくり、さまざまなムダを排除することから生まれる作業の効率化に加え、「3Sの意義」を「社員ひとりひとりの幸福」につなげ、それを実現する「会社」であろうと挑戦する「ウスイ製作所」さんの取り組みが評価されての大賞の受賞となりました。

 昨年の「第5回 いわて3Sサミット」で大賞を受賞した「和同産業株式会社」(花巻市)さんは、これまでの「3S活動」をさらにブラッシュアップ。

 探すムダ・運搬のムダをなくすためのさまざまな工夫を紹介するとともに、「3S活動」を「3楽活動」(楽して、楽しく、楽々と)へと進化させたいと今後の展望を語っていました。

 さらに、今後の外国人人材の増加を見据え、言葉がわからなくても誰もがひと目で理解できるように、写真を活用してラベルをつくるなど、時代の一歩先を見据えた取り組みも印象的でした。

 また、「株式会社 薄衣(うすぎ)電解工業 北上工場」(北上市)さんは、「バリューエンジニアリング」(VE)の考え方を取り入れている点が特徴。

 お客さまが求める仕様・品質の製品を最小コストで提供することにこだわり、作業効率の向上と職場環境の改善に向けて「3S活動」を展開していました。

 事例発表も女性たちが担当するなど、“女性”ならではの細やかな視点で作業スペースの有効活用、工具類の検索性向上など地道な活動を継続して実践している点も特徴的でした。

 3社3様の「事例発表」を終えて行われた表彰式で総評を担当したのは、中小企業向けのコンサルティングなどを通して「3S」の普及に努める川端政子さん。

 「いわて3Sサミット」も第1回から参加されている方ですが、その川端さんが話題として触れたのが、昨年11月に開催された「大阪3Sサミット」で生まれた新たな潮流。

 10周年を迎えた同サミットで、初めて非製造業の保険労務士事務所さんが大賞を受賞したそう。世界最大の3S活動カンファレンスといわれる同サミットで大賞を受賞するのは、これまでずっと製造業の事業者さんでしたが、その牙城がついに崩れたとのこと。

 しかし、同時にそれは、これまで製造業を中心にひろがり進化してきた「3S活動」が他分野でも活かせ、さらに発展できるということ。異業種の視点が加わり、裾野がひろがることで、中小企業が実践する「3S活動」の可能性はさらに……。

 そんな期待を抱かせながら、来年度に向けた決意も新たに「第6回 いわて3Sサミット」は幕をおろしました。製造業にこだわらず、幅広い分野の事業者さんにも多くの“気づき”のあるイベントだったと思います。関係者のみなさま、お疲れさまでした。

実行委員長を務める葛西君彦(株式会社 鬼柳/北上市)さんの挨拶で幕をあけた「第6回 いわて3Sサミット」。
事例発表や3S講演の他、ホール前のロビーでは「3S活動」をはじめ、さまざまな改善活動を実践する事業者さんの取り組みを紹介したポスターなどの展示が行われ、にぎわっていました。

◇ポスター発表

 ロビーで行われた「ポスター発表」には事例発表した3社に加え、「アイシン東北株式会社」(金ケ崎町)さん、「株式会社 市川製作所」(北上市)さん、「シオノギファーマ株式会社 金ケ崎工場」(金ケ崎町)さん、「いわてデジタルエンジニア育成センター」(北上市)さん、「県北ものづくり改善塾」さんに加え、黒沢尻工業高等学校 専攻科2年生が製作した装置の展示も。それぞれの展示の前で、多くの交流が生まれていました。

「第6回 いわて3Sサミット」の最後は、川端政子さんの挨拶で終了。来年度は岩手でも、非製造業の事業者さんが……。

◇昨年の「第5回 いわて3Sサミット」の取り組みは、こちら!

(了)

第6回 いわて3Sサミット

開催日時/2020年2月14日(金)13:00~16:30

会場/北上市文化交流センター さくらホール

【プログラム】

◇事例発表

和同産業株式会社(花巻市)

有限会社 ウスイ製作所(北上市)

株式会社 薄衣電解工業 北上工場(北上市)

◇3S講演

「たかが3S活動、されど3S活動~20年継続してきた秘訣~」

講師:枚岡合金工具株式会社(大阪市)  代表取締役社長 古芝義福(ふるしば ぎふく) 

◇ポスター発表

和同産業株式会社(花巻市)

有限会社 ウスイ製作所(北上市)

株式会社 薄衣電解工業 北上工場(北上市)

アイシン東北株式会社(金ケ崎町)

株式会社 市川製作所(北上市)

シオノギファーマ株式会社 金ケ崎工場(金ケ崎町)

いわてデジタルエンジニア育成センター(北上市)

県北ものづくり改善塾

黒沢尻工業高等学校 専攻科

◇表彰式

3S大賞受賞:有限会社 ウスイ製作所(北上市)

【交流会】(17:30~19:00)

会場/リストランテ トレモロ

●企画運営/いわて3Sサミット実行委員会

●主催/北上川流域ものづくりネットワーク

2020-02-20|
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