社員の幸福。

「いわて3Sサミット」がめざす未来が、そこに。

「目的はひとつ。従業員さんの幸福度をあげること。従業員さんに幸せになってもらうため。それが、3S活動のすべてだと思います」

 そう語るのは、北上市内で自動車・半導体製造装置・医療機器・産業機械などの精密機械部品を製造するウスイ製作所の代表・碓井浩太郎さん。

 この日は、北上市内にある文化交流センター「さくらホール」で「いわて3Sサミット」が開催されており、碓井さんの言葉は自身も出席した有識者による3Sトークセッションで発したものでした。

 そもそも「3S」とは聞き慣れない言葉ですが、「整理Seiri、整頓Seiton、清掃Seisou」の頭文字を取ったもの。製造業を中心にさまざまな分野の企業では、「3S活動」と称して職場環境の「整理・整頓・清掃」を強化。職場をスッキリ・キレイに整えることで、作業のムダ・ムラ・ムリをなくし、従業員が安全で快適かつ効率的に働ける環境をつくることが狙いです。

 さらに、こうした働きやすい環境をつくることで生産性を高めるとともに、この取り組みを通して従業員一人ひとりが職場環境に目を配るようになり、「もっと働きやすい環境に」という意識が「気づく力」を養い、自ら考えて行動するようになるなど、人材育成にもつながるといいます。

 大手の製造業などでは、さらに「清潔Seiketsu、躾Shitsuke」を加えて「5S」として活動。全社一丸となって日々改善を重ねながら、積極的に実践しているところもあるとか。

 「いわて3Sサミット」が対象とする「3S」とは、上記の「5S」を中小企業向けに「3S」として特化させたものですが、その効果を得るためには活動を継続して行うことが不可欠です。

3S活動を元気づける「しかけ」と「工夫」をテーマに!

 しかし、こうした活動は普段の業務とは関係がない取り組みとなるため、日々の業務に忙しい従業員にとっては「面倒」なこと。従って「3S活動」をはじめてみたはいいものの、従業員のモチベーションがあがらず、活動が尻すぼみになって終わることも多いそう。

 そのため、「3S活動」を効果的に継続するためには、従業員一人ひとりが3S活動の目的(何のためにやるのか)をきちんと理解することが重要であり、全員が一体となって日々実践していくためにはモチベーションを維持するさまざまな「しかけ」や「工夫」が求められます。

 そうした背景を踏まえて、今年(2019年2月27日)で5回目を数える「いわて3Sサミット」では、マンネリ化を防ぎ、『活動を元気づける「しかけ」と「工夫」』をテーマに開催されました。

 来場者およそ140名のなかには、県内の企業だけでなく福島県や宮城県、青森県などから参加した企業や高校生の姿もあり、今回のイベントの注目度の高さがうかがえます。

会場には岩手県内外からおよそ140名の企業担当者が訪れ、事例発表に熱心に耳を傾けていました。
会場には高校生の姿も。

“女性”の視点が「3S活動」を進化させる新たな原動力に。

 「いわて3Sサミット」の第1部では、岩手県内外から5つの企業の担当者がステージに登壇し、自社で実践する「3S活動」の取り組みをプレゼン発表しました。

 「モノを探す」というムダな時間を削減したいというパートさんの「気づき」から、歩数を数えて倉庫のレイアウトを変更するなど「ほんの数秒」の削減から地道に取り組む株式会社 北日本金型工業 (福島県)さん。

 書類管理の業務改善を図った塩野義製薬株式会社 金ケ崎工場(金ケ崎町)さん。さらにインフラ設備の3Sに挑んだ株式会社 薄衣電解工業 北上工場(北上市)さんは、“女性”の視点を加えることで業務改善をさらに進化させていました。

 また、ICT(情報通信技術)を活用し、現場情報を全社で共有することで紙書類の削減に挑んだ株式会社 小原建設(北上市)さんは、ICTによって現場で働く女性従業員をサポートする体制も構築するなど、女性が活躍する“今”を映す取り組みも数多くみられる発表となりました。

 そうしたなかで、参加者全員の投票で「3S大賞」に選ばれたのは、和同産業株式会社(花巻市)さん。3S活動を職制に組み入れ、一人ひとりに“やる気”を促し、組織の活性化につなげたことが高い評価を受ける要因となりました。

「3S大賞」を受賞した和同産業株式会社さんの発表の様子。
事例発表に登場したみなさんです。おつかれさまでした。
今回の事例発表の総評を担当した川端政子さんは、「3S」の魅力を発信するための組織「3S活動推進協会」を2012年に設立。以来、中小企業向けのコンサルティングなどを通して「3S」の普及に努めている方であり、「いわて3Sサミット」も第1回目から参加。

何のためにやるのか?  従業員の“実感”が次の成長に。

 続いて行われたのが、有識者を招いてのトークセッション。『活動を元気づける「しかけ」と「工夫」』がテーマであることもあって、話題は従業員の“やる気”をいかに引き出すかという流れに。そこで飛び出したのが、最初に登場した碓井さんの言葉。

「目的はひとつ。従業員さんの幸福度をあげること。従業員さんに幸せになってもらうため。それが、3S活動のすべてだと思います」

 「3S活動」は、ともすれば「整理・整頓・清掃」の取り組みを通して業務の効率化を図り、生産性を高めることで会社の利益につなげる、という文脈で語られることが多い印象があります。しかし、今回のトークセッションで語られたのは、さらにその先のこと。会社の利益があがれば、それが従業員にも還元され、従業員一人ひとりの“幸福度”をあげることにつながっていくということでした。

 その目的を明確にし、きちんと実感できることで、それが従業員のモチベーションを高める効果につながり、従業員も前向きに「3S活動」に取り組むようになるといいます。

 碓井さんは、自社の取り組みのなかでそれを実感していました。

「 弊社では毎週火曜日にみんなでランチミーティングをやっています。みんなでご飯を食べながら生産状況や現状の問題点、3S活動について話し合い、 そのあと始業して1時間3S活動を行う仕組みができている。

  そうした活動の成果報告会も年2回行っていて、パワーポイントを活用することで未来につながる活動記録として残しています。

 さらに、この5年間クリスマスには自社制作した 幸福度アンケート調査を行なっていて、社員一人ひとりが自分で感じている状況を採点する仕組みになっている。幸福度を数値化することでモチベーションアップにつながるし、何よりウィークポイントが明確になるので次の改善テーマが決まるというメリットがある。

 また、クリスマスの前にネイリストさんを会社に招いて、女性スタッフにネイルをしてもらっています。いつも手を汚して作業してもらっているので、クリスマスと年末年始ぐらいはせめてキレイな手で過ごしてもらいたいと思っての取り組みですが、そういうカタチで感謝の気持ちを伝えたりもしています。

 そうした取り組みを続けることで、日々の作業のなかで『うちの部品はどこで使われているんだろう』と興味を持って調べるようになったりして、少しずつ変わっていってくれているのがわかる。

 『3S』は何のためにやるのか? そうすることで会社がどう変わるのか? それが結局、感謝の気持ちのネイルだったり、『じゃあ、みんなでがんばって休もめるようにしよう!』ということだったり、いろんなカタチで自分たちに還ってくる。

 そういう実感を積み重ねることで、従業員のみなさんも前向きに変わっていくと思うんです」

 「3S活動」とは、生産性の向上や人材育成という効果ももちろんありますが、その先にある「社員の幸福」をいかにカタチにしていくか……。「いわて3Sサミット」がめざすゴールは、そこにありました。 

今回、初開催となったトークセッションの様子。

参加企業が情報交換。みんなで取り組み、みんなでめざす「社員の幸福」。

 さらに第2部では、第1部で事例発表した企業が、発表の内容をポスターにまとめて掲示。イベントに参加したその他の企業の担当者さんと直接触れ合い、情報交換する場となりました。

 一方、「3S活動のマンネリ化と活性化 」についてや、「社員の活動を活気づけるための管理者の役割」など、テーマごとにワークショップも開催。自社の取り組みの現状や悩みをざっくばらんに語りながら、率直に意見交換しあう場となりました。

 そこには、さまざまなや悩みを抱えながらもお互いに励ましあったり、新たな知見に出会って刺激を受けたりしながら、明日からの「3S活動」の取り組みに活かそうとするヒトたちの前向きな姿がありました。

 今回の「いわて3Sサミット」は『活動を元気づける「しかけ」と「工夫」』がテーマでしたが、「社員の幸福」というゴールに向かって、一緒にがんばる地方の中小企業の仲間たちを、『みんなで元気づける』イベントでもあったように思います。

 「3S活動」の先に、社員の幸福がある……。その実現に向かって、今日も地方の中小企業の仲間たちが一生懸命「3S活動」に取り組んでいることでしょう。

事例発表に登場した企業さんが、発表内容をポスターにして展示。同じ活動に取り組む同志として、あちこちで情報交換が行われていました。
ワークショップの様子。「3S活動」の悩みなどもざっくばらんに語り、率直な意見交換が行われていましたが、根底にあるのは「一緒にがんばっていきましょう」という支えあい。それが参加者さんの次への原動力になっているようでした。

◇ 碓井浩太郎 さんについては、仕事人図鑑の第7弾でご紹介しています。興味のある方は こちら!

◇「いわて3Sサミット」の実行委員長を務める葛西君彦(株式会社 鬼柳)さんは、自身でも「3S活動」に取り組んでいます。その奮闘の様子はこちら→「機械工具屋さんの3S活動奮闘記」

「第5回いわて3Sサミット」概要

開催日時/2019年2月27日(水)12:45~17:00
第1部(12:45~15:30):
◇事例発表
株式会社 小原建設(北上市)…建設業
塩野義製薬株式会社 金ケ崎工場(金ケ崎町)…医薬品製造
株式会社 薄衣電解工業 北上工場(北上市)…金属表面処理
株式会社 北日本金型工業 (福島県)…プラスチック金型
和同産業株式会社(花巻市)…製造業(除雪機・農業機械)

◇3Sトークセッション
パネラー:川端政子(株式会社IMDワークス 代表取締役)
     吉田 強(アイシン東北株式会社 代表取締役社長)
     上野克幸(県南広域振興局 ものづくり産業人材育成アドバイザー/
                元トヨタ自動車東日本 岩手工場副工場長)
     碓井浩太郎(有限会社 ウスイ製作所 代表取締役)
ファシリテーター:葛西君彦(いわて3Sサミット実行委員長/株式会社 鬼柳

◇表彰式
3S大賞受賞:和同産業株式会社(花巻市)

第2部(15:40~16:40):
①ポスター発表による事例紹介
②ワークショップ
・3S活動のマンネリ化と活性化
・社員の活動を活気づけるための管理者の役割
・川端政子の3S塾!

【交流会】(17:30~19:00)
会場:リストランテ トレモロ

●企画運営:いわて3Sサミット実行委員会
●主催:北上川流域ものづくりネットワーク

(了)

2019-03-07|
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