地域おこし協力隊としての集大成。自分スタイルで農業の魅力をカタチに!
そのヒトは、「kuchinai BASE」と名づけられた古民家の裏にある作業場で、楽しそうに「九条ねぎ」の種蒔きをしていました。
物置と化していた元豚舎の一部を片付けたという作業場には、即席の作業台があり、知人のご実家から譲り受けた「スチーム発芽器」がひと際、存在感を放っています。
いかにも手作り感満載の作業場で、冷たい風も遠慮なく吹き込んでくる環境のなか、当のご本人は「外で作業するのに比べたら天国ですよ」と涼しい顔。
それどころか、
「このスチーム発芽器、いいでしょ。前から欲しかったんですよ。稲を発芽させる機械なんですけど、下に水を張ってヒーターで加熱することで、温度と湿度を安定させて種が発芽するのに最適な環境をつくってくれるんです。
去年は種を蒔いてハウスの中で発芽を待ってやってたんですけど、これなら今年は芽もきれいに揃った状態でハウスに移せると思うんです」
と、うれしそうに語ります。
このヒトこそ、今回の取材相手。2017年5月から北上市の地域おこし協力隊として、過疎化が進む口内(くちない)地区の遊休農地を活用した「新規就農プロジェクト」に取り組んでいる長岡 務(つとむ)さんです。
同プロジェクトがユニークなのは、単に地域の生産者さんのサポートを受けながら就農するのではなく、「自身のスタイルに合わせた就農」をめざす点。
それまで農業の経験などなかった長岡さんは、地域活性化のお手伝いもしながら、大好きな九条ねぎを地元・北上に根づかせ農家として自立したいと、わからないながらも周りのサポートを受け、手探りで試行錯誤を重ねながらチャレンジしてきました。
今年は、その3年目。地域おこし協力隊としての任期のラストイヤーに、その活動の集大成として取り組んでいるのが、クラウドファンディングを活用した「畑直結型! 農家プロデュース居酒屋プロジェクト」。長岡さんがめざす、農業の新しいビジネスモデルをカタチにする挑戦です。
3つの“ありがとう”が、楽しくつながる場所へ。
「農家になって『一番やりたいことって何だろう?』と考えたとき、種を蒔くところからヒトの口に入るところまで、責任をもってやって、自分が自信をもっておすすめする料理やお酒を提供する居酒屋をやりたいと思ったんです」
そう語る長岡さんですが、農業をやろうと思った理由もユニーク。
「『食』って、ヒトが生きるうえで欠かすことのできないものでしょ。だからこそ、農業って一番身近なエンターテインメントだと思う。
エンターテインメントって、“演者”がいて、“裏方”がいて、“観客”がいて、その3つが“ありがとう”でつながって初めて成立するものだと思うんです。
だとするなら、農家が居酒屋をプロデュースするって、すごいエンターテインメントなことだし、それができたらすごく楽しいじゃないですか」(長岡さん)
その3つの“ありがとう”とは? それをコンサートに例えるなら、「私の歌を聴きに来てくれて、ありがとう」「素敵な音楽を聴かせてくれて、ありがとう」「最高のステージを裏で支えてくれて、ありがとう』となります。
それを「農家がプロデュースする居酒屋」に変換すると、「おいしい農作物をつくってくれて、ありがとう」「おいしい料理をつくってくれて、ありがとう」「いつも食べてくれて、ありがとう」に。
農家となった長岡さんがめざす居酒屋は、そんな3つの“ありがとう”を自分の手で責任をもって、より確かなものにしていこうという挑戦。
種蒔きからヒトが口に入れるところまでをプロデュースすることで、長岡さんは3つの“ありがとう”がより強く、さらに楽しくつながれる場所を、生まれ育った北上につくりたいのだと夢を語ります。
地元のイベントではたくさんの参加者をもてなす料理を手掛け、大好評!
しかし、なぜ“居酒屋”なのでしょう? その理由はいたってシンプル。
「ボクが、お酒を飲むのが好きだから(笑)」
長岡さんは、高校卒業後に北上を出てから、仙台市を拠点に長く音楽業界で活躍。レコーディングエンジニアとして独立後は自らレーベルも立ち上げ、さまざまなアーティストたちを応援してきました。
実際の仕事では日本各地を訪れる機会も多く、行く先々でおいしいお店を食べ歩き、旨いお酒と料理に舌鼓を打ちながら、気の合う仲間や現地のヒトとたわいない話をする時間が好きだったとか。
それが高じて、自ら料理をつくるのはもちろん、調味料にもこだわり、好きな銘柄を各地から取り寄せるほか、カボスやスダチのポン酢も手作りし、「最初は味に角があったけど、2年も寝かせるとまろやかになる」などと語るほど。
昨年12月には口内地域を盛り上げるため、若い世代がおいしい料理とお酒を味わいながら自由に意見交換ができる「口内ワクワク超会議」の実行委員にも名を連ね、参加者に提供する料理も監修。もちろん長岡さんは、仲間と一緒に前日の仕込みから当日の料理づくりまでを担当。
会場に訪れた10代から40代までの、総勢39人の参加者たちを、多彩な料理とお酒でもてなしました。ちなみに、その日に提供された料理は「おいしい!」と好評だったとのこと。
長岡さんが居酒屋をやりたいという理由も、これならうなづけます。
小さいながら店舗も決定! クラウドファンディングの資金は内装工事に。
長岡さんは、居酒屋オープンに向けてすでに動き出しており、小さいながらも物件を確保。店名も、訪れたヒトの日常に少しの驚きを提供したいという想いから「GYOTEN」と決め、暖簾も発注済み。今回挑戦するクラウドファンディングの資金は、トイレ・床・キッチンなどの改装工事に充てるとのこと。
また、提供する料理も、お酒の好きな長岡さんならでは。地元食材にこだわり、大好きな餃子をメニューの核に据え、選りすぐりのお酒に合うおつまみを取り揃える予定とのこと。
「このおつまみに合うお酒は? とか、逆にこのお酒に合うおつまみは? というお客さんからの質問にも、食材のおいしさ、料理のこだわり、お酒の特徴なども含めて全部答えられる店にしたいと思っています。まあ、お酒も食べるのも大好きなんで(笑)、そこはこだわっていきたい」(長岡さん)
日本各地を訪れ、さまざまなおいしいものや旨い酒とめぐりあってきた経験を生かし、そういう「自分らしさ」を大切にしていきたいと意欲を見せる長岡さん。お客さんとにぎやかに会話しながら、自分も楽しんで料理をつくり、好きなお酒でもてなす姿が目に浮かんできます。
種を蒔くところからヒトの口に入るところまで、責任をもってやり、自分が自信をもっておすすめする料理やお酒を提供できる居酒屋をやりたい……。
長岡さんは、そんな夢に向かって大きな一歩を踏み出しました。しかし、今の自分ではまだまだ、と感じていることも事実。
「すべての食材を自分で生産することは、今はまだ全然できていません。ですから、お世話になっている口内町の先輩農家さんや、北上の農家さんのおいしい野菜を中心に、自分で足を運んで選んだ岩手の食材も取り入れながらやっていきたい」(長岡さん)
周りのみなさんに支えられながら、「自分ならでは」の視点で農業の新しいビジネスモデルをカタチにしようとする長岡さんの挑戦。
それは、作物をつくるヒト、料理をつくってもてなすヒト、それを食べにきてくれるヒト……3つの“ありがとう”をより強く、楽しくつなげる場所をつくること。その夢がどのようにカタチになっていくのか、今後が楽しみです。
そんな長岡さんが挑むクラウドファンディング「畑直結型! 農家プロデュース居酒屋プロジェクト」。応援したい方、ぜひ長岡さんの居酒屋に行ってみたいと思う方は、下記まで。
◇長岡 務さんが挑むクラウドファンディング「いしわり」はこちら! 2019年4月28日(日)23:59:00まで協力者を受付中!
(了)
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