その想いが、まっすぐ届きますように。

　「うわっ、トトロのトンネルだ！」

　遠くから子どもたちの興奮した声が聞こえてきます。その声を聞くと、大人までワクワクしてくるから不思議です。

　ここは、新鮮なうるおいのある野菜を一年中提供するため、旬と品種と鮮度と土づくりにこだわって野菜をつくる北上市の農家「うるおい春夏秋冬（ひととせ）」さんのミニトマト畑です。

　ミニトマトというと1本の茎から収穫するイメージをお持ちの方も多いでしょう。しかし、「うるおい春夏秋冬」さんの畑では、キュウリづくりに使用されるアーチ型のパイプにネットを張り、そこにミニトマトの茎を這わせる「ソバージュ栽培」を採用。

　さらに、収穫期まで放っておく放任栽培のため、茎がネットを覆うようにすくすくと伸び、子どもたちから歓声があがった「トトロの森につながるトンネル」のようになっています。一見すると手を抜いているようにも見えますが……。

ミニトマト畑には3つのトトロのトンネル（？）があり、その長さはなんと50m！

「トマトはもともと乾燥地帯の野菜で、原種は地面を這うように伸びていたそうです。この栽培法は、そういったトマトの特性にも合った栽培法ですが、地面ではなくネットに這わせているのは収穫作業がラクになるように工夫したものですね」

　そう語るのは、「うるおい春夏秋冬」の高橋賢さん。その説明に、思わず納得！

　いざ、トトロのトンネル（？）に足を踏み入れると、一見真っ暗なトンネルのなかはアチコチから木洩れ日が射し、小さな赤い実が、こっちにも！あっちにも！！と顔をのぞかせ、子どもも大人もいつしか赤い実を摘むことに夢中になっていました。少し早い収穫の秋を満喫、といった感じでしょうか。これで参加者のハートはがっちり掴まれたような気がします。

このミニトマトは「ロッソナポリタン」と呼ばれるイタリアントマト。生でもおいしかったですが、この日は前菜に、素麺のつゆに、デザートにと大活躍。

　9月2日（日）午前11時からスタートしたこのイベントは、「畑の春夏秋冬（ひととせ）×タヴェルナ収穫祭」というもの。北上市では、『「食のつながり」認証制度』という取り組みを実施していますが、今回のイベントはその取り組みの一環です。

　同制度は、農産物や畜産物などをつくる生産者のこだわりや想いを、販売店・飲食店・加工業者につなぎ、それをさらに消費者にまで届けようとするもので、生産者と販売店・飲食店・加工業者が“一体”となって積極的に情報発信していくことで、北上産の信頼性と価値を高めていこうとする狙いがあります。

　この日のイベントで感じたのは、その“一体感”でしょうか。

　第1部はトマト畑での収穫体験と、焼き野菜や手打ちパスタ「トロフィエ」をつくるワークショップ。さらに第2部は、「うるおい春夏秋冬」さんの野菜を中心に、お仲間の生産者さんのお肉や野菜をたっぷり使用。北上市の人気レストランの4人のシェフまで顔を揃え、共同調理を交えながら、イベントに参加した50名の参加者をもてなしてくれるといいます。が、

食事会場は畑のど真ん中。シェフが共同調理を交えながらおもてなしするにはアウェイな環境です。しかし、そこで前菜、スープ、焼き野菜、パスタ、肉料理、素麺に加えて、デザートまで提供。さらに料理と料理の間の待ち時間を「うるおい春夏秋冬」の高橋賢さんがトークで一生けん命つなぐ様子は手づくり感満載ですが、みんなが一体となってもてなそうとする微笑ましい様子に参加者もしぜんと笑みがこぼれます。

　もっとも、そう感じるのも、大空の下でおいしい料理に舌鼓を打ちながら飲むビールやワインに心地よく酔っていたせいも、少しはあるかもしれませんが（笑）。　　