トン、チン、カン。
トン、チン、カン。
真っ赤に熱した鉄を3人の男女が小槌で打ちつける音が小気味よく響いています。ここは、JR北上駅から車で10分ほど走ったところにある「みちのく民俗村」。紅葉に染まる山間に、かやぶき民家の集落を再現した景観に心癒される野外博物館です。
トン、チン、カン。
トン、チン、カン。
私が訪れた10月28日(日)は年に一度の「みちのく民俗村まつり」が開催されており、「トン、チン、カン」という音は刀鍛冶の製作体験の会場から聞こえてきます。同施設のお隣にある北上市立博物館では、「―北海道・東北の刀匠― 北の現代刀展」なる企画展を開催しており、どうやらそちらとからめた体験企画のよう。
巷では「刀剣女子」なる女性たちも登場するなど「刀剣ブーム」に沸いているようですが、刀鍛冶の製作体験の会場にも若い女性の姿があり、みんなで順番に真っ赤に熱した鉄を小槌で打ちつけて盛り上がっていました。
トン、チン、カン。
トン、チン、カン。
が、しかし、スマホで撮った「花嫁道中」の写真を眺めている私には、その音が「頓、珍、漢!」と聞こえてきて、心をざわつかせます。
頓、
珍、
漢!
頓、珍、漢!
頓、珍、漢!
今回、私が「みちのく民俗村まつり」にやってきたのは、3年ぶりに「花嫁道中」が行われると知ったから。
(花嫁道中? これはインスタ映えする写真が撮れるな! (o^^o)ふふっ)
とヨコシマな考えに支配された私は、この日のこのこと「みちのく民俗村」にやってきたのです。
いざ、実際に見てみると「花嫁道中」は確かに情緒があって、美しい光景でした。前日はときより激しい雨が降ったにもかかわらず、当日はからりと晴れあがり、抜けるような空の青さも鮮やか。紅葉に染まる山々、そこに佇むかやぶき民家の前には稲刈りされた田んぼがひろがり、そうした風景のなかを提灯持ちや長持ちなどに続いて艶やかな赤い日傘を差した花嫁と花婿が優雅に練り歩く姿は風情があって、まさに一幅の絵のよう。
(インスタ映え? 楽勝っす。なんたって題材がいいんだから。 (o^^o)ふふっ)
余裕の笑みすら浮かべて、いざ写真を撮ってみれば、一眼レフ技術を搭載したスマホの性能に私の技術が追いつかず、はたまた写真愛好家のみなさんの熱意と情熱にも到底及ばず、私はただ遠くから、いささか頼りないスマホのズームを駆使して写真を撮るのみ……。となると、もはや結果は見えています。“インスタ映え”するような写真など撮れるはずもありません。私はすっかり徒労感に包まれながらベンチに座ると、スマホで撮った写真を眺めては、ため息をついていました。
(全然、だめじゃん( ノД`)シクシク)
(ぼやけてるし( ノД`)シクシク)
すると、あの音が聞こえてきます。
頓、珍、漢。
頓、珍、漢。
また一枚、写真を眺めては、ため息をひとつ。
(う~ん、頼もしい背中! じゃなくて……。手前のカメラマンが目立ってるし( ノД`)シクシク)
頓、珍、漢。
頓、珍、漢。
また一枚、ため息をひとつ。
(これもじゃん!手前のヒトが目立ってるし( ノД`)シクシク)
頓、珍、漢。
頓、珍、漢。
(花嫁さん、目をつぶっちゃってるし……。でも、幸せそう…… (o^^o)ふふっ)
頓、珍、漢。
頓、珍、漢。
スマホの写真を見るたび、「トン、チン、カン」という小気味いいリズムが、まるで私の撮った写真が「頓珍漢だ」と言っているようで、いちいち私を責め苛(さいな)むのです。
今回は、近隣の地域で昔行われていた「花嫁道中」を再現したもので、秋のほがらかな日射しに包まれながら、めでたい「花嫁道中」を見物するだけでも心が弾むはずなのに、肝心の私は “インスタ映え”のことばかり考えて、風景をゆったり堪能する心の余裕すらなく、「花嫁道中」の前に後ろにと走り回っていたのです。
そのうえ、「花嫁道中」が終わると写真のことが気になり、そのあとに行われていたらしい三々九度の儀式や、祝いに訪れた客を餅振る舞いでもてなす様子なども見逃す始末……。なんたる不覚。
また一枚、写真を眺めてはため息をひとつ。
(オフショットを撮ってどうすんだよ……。でも、これはこれで良いような……。「花嫁:ちょっと待って~」「花婿(振り返って):大丈夫か? もう少し、ゆっくり歩こうか?」なんて。 (o^^o)ふふっ)
頓、珍、漢。
頓、珍、漢。
聞けば、この日登場した花嫁さんと花婿さんは今年の夏に結婚したお二人とか。本物です! 本物の「花嫁道中」です! なぜ、立ち止まって「お幸せに!」とひと言声をかけてあげられなかったのか?
(どうせ、たいした写真も撮れなかったくせに!はなむけの拍手のひとつでもしてあげればよかったのに。そういう気遣いもできないのか?)
頓、珍、漢。
頓、珍、漢。
(だから、お前は40歳を過ぎても、結婚ができないんだよ!)
頓、珍、漢。
頓、珍、漢。
(そもそも今のお前に他人の結婚を祝っている余裕があるのか?)
頓、珍、漢。
頓、珍、漢。
(そんな暇があったら、他にやることがあるだろ!)
頓、珍、漢。
頓、珍、漢。
(今、やるべきことはなんだ? 考えろ!)
頓、珍、漢。
(考えろ!)
と、あまりの不甲斐なさに自分で自分を責めていると、気がつけば「トン、チン、カン」というリアルな音が消えていました。思わず振り返ると、刀鍛冶の製作体験の会場にヒトの姿はありません。さっきまでいた「刀剣女子」の姿もどこへやら……。
しかし、そこで私は気づいてしまったのです! 北上市立博物館で「―北海道・東北の刀匠― 北の現代刀展」なる企画展が開催されていることを……。
そのとき、私のなかで消えかけていた熾火に再び火がつきました。刀鍛冶の製作体験で行われていた、真っ赤に熱した鉄を小槌で打つ作業は「鍛錬」と呼ばれ、鉄のなかの不純物を除去し、純度が高く強靭な刀に仕上げるための大事な工程だとか。
それを体験した「刀剣女子」なら、職人が手掛けた不純物など微塵もない、曇りなく研ぎ澄まされた美しいひと振りの刀を見たいはず!٩( ‘ω’ )و ガンバルぞい!
私はすっくと立ちあがると……。向かった先は、北上市立博物館(/*´∀`)o レッツゴー♪ 出会いはきっとそこにある!
(今度は私が花嫁道中の主役だ! いや、主役は花嫁か!? まあ、いいや。ワクo(´∇`*o) (o*´∇`)oワク)
幸い、この日は入館料も無料とのこと!
(ラッキー! (o^^o)ふふっ)
喜び勇んで会場に駆け込むと\(^o^)/
そこにいたのは、子ども連れのご家族と、外国人の旦那さんにやさしく説明する日本人の奥様の姿のみ。そこに、「刀剣女子」の姿はありませんでした_| ̄|○
(そりゃ刀剣女子なら、いの一番に観てますよね! そんなことにも気づかない私( ノД`)シクシク)
頓、珍、漢。
頓、珍、漢。
私の頭のなかで、またあの音がリフレインされます。真っ赤に熱した鉄を小槌で打つ作業を繰り返すと、不純物が取り除かれ、純度の高い強靭な刀が出来上がるそうですが、私の場合、打てば打つほど邪念ばかりが増えていく今日この頃f^_^;
頓、珍、漢。
頓、珍、漢。
要するに、題材がよくても私のような素人に“インスタ映え”の写真は難しい、というお話でした。力不足で恐縮ですm(_ _ )m
(刀の撮り方がよくわからない……_| ̄|○ でも実物は本当に美しかったです!)
(了)
岩手県北上市立花14-59
Tel/0197-72-5067
岩手県北上市立花14-59
Tel/0197-64-1756
※「―北海道・東北の刀匠― 北の現代刀展」は2018年11月26日(月)までの開催です。
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