その花に北上人の本質を見たような気がした、ある春の日。
「沈黙の愛」「ひっそりと待つ」
そんなロマンチックな花言葉を持つ花が、北上市内で「ひっそり」咲いていると知り、訪れてみることに。
向かった先は市街地からクルマで西へ20分ほどのところにある和賀町藤根地区。


のどかな田園風景がひろがるその一角に、ひと目を避けるようにして並んで座る1組のカップルの姿が……。

この日の北上市の最高気温は10℃。晴れているとはいえ、まだまだ風は冷たく、紫色のお揃いのストールをまとった姿は仲の良さをうかがわせます。何を話しているのかな?
一方、こちらはケンカしたカップルでしょうか。背中を向けているのは、彼女?

さらには、振られちゃったのかな? ひとり佇む姿も……。

こちらにも。

こちらにも……。ひょっとして、待ち合わせ中?

待ち人、後方より来る?

一方、こちらはケンカしたカップル。

さらに、その様子を遠くから心配そうに見つめるのは……。これって、まさか三角関係?

そうした悲喜こもごもが、里のあちこちに……。




雪をとかすほどの激しさを秘めた「ざぜん草」とは?
そう思って眺めてみれば、長い冬を乗り越えて迎える北上市の春の里の様子は、ちょっとソワソワで、何やらにぎやかな感じ……。
「沈黙の愛」「ひっそりと待つ」といった花言葉とは裏腹に、なかなか恋にアグレッシブな印象に見えなくもありません。

それもそのはず。
1月下旬から3月にかけて主に山岳地の湿地帯に咲くというこの花は開花する際に自ら熱を発する珍しい植物で、その温度は開花の際に30℃近くまで、開花後も25℃前後に保たれているそう。
その熱で周りの雪をとかし、他の植物よりもいち早く顔を出すことから、「春を告げる花」としても知られています。
「ひっそりと待つ」という花言葉も、決して派手ではない紫色の衣をまといながら雪原から顔を出し、ひっそりと春を待つ姿を表してのことでしょう。

しかし、その内面には雪をもとかす情熱がみなぎっており、他の植物に先駆けて寒い時季から花を咲かせるのも「受粉」のため。ほとんどの植物が雪の下にいる時季に、「ざぜん草」特有の腐敗臭で昆虫を独占的に呼び寄せ、受粉の確率を高める狙いがあるのだとか。
「沈黙の愛」という花言葉は、紫色の衣をまとい、寒さをこらえながらひっそりと佇んでいるその姿の内側で、メラメラと燃えあがる愛の炎を表したものかも……。

ちなみに、「ざぜん草」は山岳地の湿地帯で咲くのが一般的ですが、藤根地区にあるこちらは珍しい平地の群生地として知られています。
すぐ近くには「いわての名水20選」にも名を連ねる「長清水」(ながしみず)もあるなど、清らかな水に恵まれたこの地は「ざぜん草」が暮らすのにも最適な愛の巣なのかも……。





筆者が訪れたのは3月23日。先にも触れましたが、この日の最高気温は10℃。一方、その翌日(今日)は全国的に気温が高く、北上市の最高気温の予想も17℃!
もうすっかり春の陽気ですが、これから咲きそうな「ざぜん草」の蕾(?)がアチコチに。


「ざぜん草」の見頃も、もう少し続きそう。

それらに交じって、バッケ(「ふきのとう」の方言)の姿も……。

こっぱずかしくて(恥ずかしくて)……と遠慮がちな北上人ですが、その内側には……。
春の訪れをいち早く告げる「ざぜん草」の姿に、エモい北上人の本質を見つけたような、そんな3月23日の春の点描でした<(_ _)>
さあ、次は桜!
(了)
北上ざぜん草の里

岩手県北上市和賀町藤根14
見頃/3月中旬~下旬
※2021年の今年はコロナで中止となりましたが、例年3月中旬には「ざぜん草まつり」を開催。郷土芸能の披露や地元産品の直売、餅まきなどが行われ、春の訪れをみんなで楽しむとのこと。来年をお楽しみに!
稲葉神社
「北上ざぜん草の里」と道路を挟んだ向かいにある「稲葉神社」は、宝徳二年(1045)建立。境内に屹立する推定樹齢500年のスギは見事。

岩手県北上市和賀町藤根13-239
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