子どもの「工場見学・ものづくり体験ツアー」リポート

 去る1月11日、北上市で小学生を対象にした「工場見学・ものづくり体験ツアー」が開催されました。参加したのは、北上市内の小学校に通う4年生から6年生の男女20名ほど。

 北上市といえば岩手県内はもちろん東北でも有数の産業集積都市として知られ、工場の数も多く、工場で働いているヒトの数でみると岩手県で第1位※。さらに工場でつくられた製品の出荷額でも岩手県で第2位※となるなど、その数字だけをみても北上市の「工業」が元気な様子がわかります。   ※2023年8月時点の統計資料(工業統計など)

 同ツアーはそんな北上市にある工場の見学や体験を通して地域を支える「ものづくり」に子どもたちが興味を持ち、製造業の仕事に対する理解と関心を深めてもらおうと北上市が主催。例年、夏休みと冬休みの2回開催しており、参加者も募集開始とともにすぐ定員に達するほどの人気ですが、近年は新型コロナウイルスの影響で一時中止となっていました。しかし今年度から再開され、夏休みに行ったツアーには多くの子どもたちが参加しました。

 というわけで、今回は子どもたちに人気を集めるそのツアーに同行してみました! 北上市にはクルマ、スマホ、家電製品、医療・福祉、食品など毎日の暮らしに欠かせない製品に関わるモノをつくる工場がたくさんあります。さて、今回はその中からどんな工場へ? いざ、出発!

▲北上市二子町に工場と本社を構える「WING」はすぐれたプラスチック(樹脂)加工技術で業界をリード。 

 今回のツアーは2つのグループに分かれて2つの工場を見学しました。

 最初に訪れたのは、1999年に北上市で創業した「WING」です。同社はすぐれたプラスチック(樹脂)加工技術で多種多様な分野のお客さまの幅広いニーズに応え、高い信頼を獲得。そのお客さまは北海道から九州まで日本国内150社におよび、岩手に誘致が期待される国際リニアコライダー計画(ILC計画)への参加や岩手大学との共同研究など、新しい分野への挑戦にも積極的です。

 そんな同社で子どもたちが体験したのが、プラスチック加工の可能性。同社では「切削」「曲げ・接着」「樹脂溶接」などさまざまな加工技術で、半導体・液晶製造装置分野をはじめ、医療機器分野、クルマ、光学、農業・漁業関連など、多種多様な分野のお客さまの幅広いニーズに応えています。

 工場見学では、お客さまの多様なニーズに応え、高い信頼を得ているその作業の様子を目の前で見せてもらいながら、曲げたら割れると思っていたプラスチックに熱を加えることで、まっすぐキレイに曲がる様子や、「最初からくっついていたのでは?」と思えるほどキレイに仕上げる接着のやり方を見学。子どもたちも前のめりになってその様子を見ていました。

 また、素材を切断するために使われる大人の背丈よりも大きな機械や、一枚の素材から一度に効率よくさまざまな部品を削りだせる機械、さらに図面通りに仕上がっているかをチェックするため100分の1mmまで測定可能な顕微鏡などなど、さまざまな分野で高い信頼を得ている「WING」のものづくりを間近で見学しました。

 工場見学は30分ほどでしたが、最後に女の子のひとりが友だちに「もう戻るの? メモするの忘れてた」とつぶやく声が……。メモするのも忘れるほど、夢中になったひとときでした。

自分で曲げてみよう! プラスチック加工を体感!

 工場見学に続いて行われたのが、ものづくり体験。「WING」では実際に作業の様子を見学したプラスチックを「曲げる」工程を、ネームスタンドづくりの体験を通して子どもたちが体感しました。

 作業はスタッフの手ほどきを受けながら、一枚のプラスチック板に熱をあて紙のように三つ折りにしてネームスタンドに仕上げていきます。専用の機械を使うため、作業も1人10分ほどでしたが、硬いプラスチックが簡単に折り曲がり、お店で販売されているようなネームスタンドに生まれ変わる様子に、子どもたちも改めてびっくりしながら、自分用のネームスタンドを完成させていました。

 また、ティラノサウルスのクイズも交えながら、プラスチックの部品を組み立ててティラノサウルスの骨格模型を完成させる体験では、恐竜好きの男の子が大活躍してクイズを盛り上げるなど、プラスチックと子どもたちの興味を結びつけながら、楽しいものづくり体験となりました。

 「WING」での工場見学とものづくり体験は、最後に希望する子どもたちがプラスチックでできた恐竜の骨格模型と記念撮影をして終了。あっという間の2時間でした。

▲「薄衣電解工業 北上工場」は北上工業団地の一角にあり、来年操業40周年を迎えます。 

 お昼の休憩をはさんで、午後に訪れたのが1985年に操業した「薄衣電解工業 北上工場」です。同社は1958年に神奈川県川崎市で創業した「めっき加工」専門のものづくり企業で、そのものづくりを一手に支えているのが北上工場です。

 そんな同社が手掛ける「めっき」とは、金属などでできた部品などの素材の表面に銅、ニッケル、クロム、金といった金属を薄くコーティングさせ、防錆性や耐久性はもちろん、素材を美しく輝かせる装飾性なども高めるなど、高信頼のものづくりに欠かせない技術です。

 その分野で60年以上の歴史を誇る同社は高度経済成長時の電子部品産業の発展とともに成長し、半導体や自動車向け電子部品などにも進出。現在対応できるめっきの種類は35(色調も加えると40)におよび、ほぼ主要な工業用のめっきに対応できることから、業界から「めっきのデパート」という称号も。

 また1個から量産品まで、お客さまの要望に合わせて対応できる柔軟性も同社の強みで、この道60年以上の豊富な実績とノウハウを礎にお客さまは全国に約800社におよぶそう。

 最初に行われた企業紹介では、そんな同社が手掛ける「めっき」についてわかりやすく紹介。有名な奈良の大仏や金メダルと銀メダルの意外な事実にも「めっき」がかかわっているなど、身近なところから「めっき」の魅力をひも解き、子どもたちもその話題に興味津々の様子でした。

まるで金のブローチ。葉っぱで「めっき」体験。

 工場見学の前に行われたものづくり体験では、ひいらぎの葉っぱに「金めっき」を施す作業を体験。そんなことができるの? という驚きとともにスタートした作業は、スタッフの手ほどきを受けながら、葉肉を取り除き筋だけにした葉っぱにニッケルめっきを施し……。銀色の葉っぱを液体に入れ、電気を流すとすぐに輝く金色に変化する様子に、子どもたちもワクワクしていました。

▲筋だけの葉っぱ(写真左)にニッケルめっきを施し(写真中央)、時間をおくと銀色に輝き、触るとカチカチに(写真右)。作業の過程を知らなければ金属でできた葉っぱだと思いそう。これを液体に入れ電気を流すと……。

 子どもたちは続いて工場見学へ。葉っぱ1枚のめっき加工を体験した子どもたちですが、実際の現場は1個はもちろん一度に大量に加工できるように、さまざまな工夫がいっぱい。製品をラックに架けてめっき加工する「吊るし」、テープのようにロール状に巻いて連続して加工できる「フープ」などなど、お客さまの多様なニーズに応えるさまざまな加工の様子を見学しました。

 また、35(色調も加えると40)におよぶ種類のめっき加工に対応する同社では、使用中の液体の数も多く、その品質管理も重要だそう。今回はそうしためっき加工を支える部署も見学でき、ものづくりの奥深い世界に触れることができました。さらに、見学通路には高級スポーツカーとして世界的に有名な名車のボルトも展示されており、めっき加工の重要性を改めて実感することができました。

 工場見学を終えて、最後に子どもたちを待っていたのが、スプーンやフォークの金めっき加工体験。葉っぱのめっき加工を経験した子どもたちだけに、最初は慣れた様子で作業を行っていましたが、銀色のカトラリーが輝く金色に変わるとやっぱりテンションもマックスに。

みんなで支え合う「ものづくり」を実感。

 北上市内の小学生を対象に、地元にある2つの工場をめぐった「工場見学・ものづくり体験ツアー」はこうして無事終了となりました。

 ふだんは絶対に入ることができない場所や、体験できないことに挑戦できた今回のツアー、自分でつくったものも持ち帰ることができ、子どもたちもたっぷり楽しんだ様子。毎回、参加者を募集してすぐ定員に達するほど人気というのも納得のツアーでした。

 最後に印象的だったのが「薄衣電解工業」の工場見学で案内してくださったスタッフの言葉。

「北上市だけでなく岩手県内にあるほとんどの工場が部品をつくっていて完成品をつくっているわけではありません。なので、一見するとそれがどんな完成品になるかわからず、見学してもピンとこないことも多いかもしれません。でも、そういう私たちが支え合ってモノをつくっているからこそ、みなさんが使っている身近なモノができているということをわかってもらえるとうれしいですね」

 私たちの暮らしのアチコチに、北上が“ある”世界。それは、みんなで支え合ってできている世界なのだと実感した1日でした。

 参加されたみなさま、お疲れさまでした。

(了)

2024-01-24|
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