子どもの可能性にワクワク! “自分”を育む遊びを通して、 ビジネスマナー講師が描く未来。

with Color

代表  嶋田佳子(しまだ けいこ)

ビジネスマナー講師/色彩学校講師/子どもアート療法士

最初の一歩が踏み出せない就活生たちに、私ができることは?

 岩手県内の専門学校や企業などを中心に、20年以上にわたってビジネスマナーの講師を務めている嶋田佳子さんは、10年以上前から就職活動をする学生たちの様子を見ていて、気がかりに思うことがありました。

「いわゆる“おりこうさん”と言われる子たちがいるじゃないですか。言われたことはきちんとやって、勉強もできる優秀な子たち……。

 そういう学生が自分の将来を決める大切な就職の場面で急に立ち止まってしまうというか、怖くなって最初の一歩を踏み出せなくなることがたびたびあったんです。

  とても優秀な子なのに『どうしてだろう?』と気になってしまって……」(嶋田さん)

 当時は嶋田さんも働きながら子育て真っ最中の時期で、ご本人曰く「親の言うことは聞くものだ」とばかりに小学生の2人の子どもをビシビシ育てていたそう。

 さらに、専門学校でも「検定に受かりたいなら、ここからここまで丸暗記。明日テストするからね」と有無を言わせず生徒たちを指導していたといいます。

 子育ても、生徒の教育も……。いろいろな経験を積んでいる大人の言う通りにしておけば効率よく、スムースに目的地にたどり着けるし、その方が子どもたちや生徒たちの「ためにもなる」と思っていた嶋田さん。

 しかし、自分の就職先を決める大切な時期に、急に怖くなって立ち止まってしまう生徒たちを目の当たりにして、果たして「本当に今までのやり方でいいのだろうか?」と疑問を抱くように。

「 『親の言うことを聞きなさい』『先生の言う通りにしなさい』というようなやり方ではなく、もっと自信を持って自分からやる気がわくような、自分でモチベーションをあげられるようなことをしていかないとダメだなと思うようになったんです」(嶋田さん)

 そうして嶋田さんがいろいろ調べていくなかで出会ったのが、「色彩心理学」と「アート療法」というもの。

 「色彩心理学」とは、色彩の効果を利用して心をメンテナンスし、整えていくこと。「アート療法」とは、絵を描いたりモノを創作したりするアート活動を通して自由に自分を表現し、心を解放するお手伝いをすること。

 嶋田さんは当時、宮城県仙台市にあった色彩学校に2年間通い、「色彩学校講師」と「子どもアート療法士」の資格を取得します。

「それが就職を前に最初の一歩を踏み出せずにいる生徒たちのためになることなのか、ビジネスマナーに役立つことなのか、当時は正直わかりませんでした。

 でも私自身、気になり出すと何かを始めないと落ち着かない性格で、まずはやってみようと……」

 2010(平成22)年、嶋田さんの新たなチャレンジが始まりました。

嶋田さんが担当した「ビジネスマナー教室」の様子。
この日は、SNSをビジネスに活用するうえでのマナーをレクチャー。

「ねえ、キミはどうしたい?」「ここではいいよ!」を合言葉に。

 嶋田さんは専門学校や企業のビジネスマナーの講師の仕事をしながら、2010(平成22)年からプライベートで始めたのが、「クレヨンカフェ」(2014年「つの子のアトリエ」に改称)という取り組みです。

 「色彩心理学」と「アート療法」の勉強をするなかで嶋田さんが特に魅かれたのが、子どもの主体性を大切にした “遊び”を通して“自分らしさ”を育んでいく「子どもアート療法」の考え方でした。

 それをベースにした「クレヨンカフェ」の取り組みは、クレヨンや絵の具、ペン、画用紙、折り紙、毛糸、布、ビーズなどのシンプルなアート画材を使用し、子どもたちに自由に“遊び”を楽しんでもらおうというもの。

 ただし、「遊ぶ・遊ばない」も含めて「何をするか・しないか」は子どもたちが自分で考え、自分で判断します。大切にしているのは、「キミはどうしたい?」と子どもの“気持ち”を最優先にする姿勢。

 その子がやりたいのなら、自分の体に絵の具で色を塗っても、ビーズを部屋にまき散らしてもOK! 新聞紙や折り紙を破いて散らかそうが、服が汚れようが、お構いなし!

 さらに周りの大人たちも、遊びを誘導するのはNG! 何よりも子どもの“やりたい気持ち”を尊重し、子どもの様子をあたたかく見守りながら、「ここではいいよ!」を合言葉に子どもの遊びをおもしろがるというのがルールです。  

 しかし、絵の描き方を学べるわけでも、色使いの勉強ができるわけでもなく、ただ“遊ぶ”だけのこの取り組みはなかなか理解がひろがらず、当初は参加者ゼロの日も……。

 それでも嶋田さんは休むことなくこの取り組みを続けますが、不思議と「やめたい」と思ったことは今まで一度もなかったそう。

「すぐ理解が得られるとは思っていなかったですし、私自身も『これを続けたらどうなるか』というのは未知数でした。

 ですから、最初に思ったのが『とにかく続ける』ということ。やめたらそれで終わりですから、まずは何があっても続けようと思ったんです」

 そんな嶋田さんに勇気をくれたのが、人数は少なくてもずっと通い続けてくれる子どもたちや親御さんたちの姿でした。

“遊び”の時間が育む“親子”の時間に支えられて。

「長く通っている子たちは、本当に濃い時間を過ごしてくれているんです。

 別に大人に褒められる絵を描いたりするわけじゃないですよ。例えば、丸めた新聞紙にビニールテープをぐるぐる巻いて、それを水に浸してどこまで水に耐えられるかという実験をしていた子もいました。

 新聞紙を巻いて、さらにその上にビニールテープを巻いて、水に浸して、また新聞紙を巻いて、というのを何度も繰り返していたら1回では終わらなくて、結局、何週にもわたって実験を繰り返していました。小さく丸めた新聞紙が、最終的にはマグロぐらいの大きさにまでなったんですけど(笑)

 でも、それをお子さんと一緒になってお母さんが大事に抱えてお家に持ち帰って、また次のときに、やっぱり大事そうに抱えて持ってくるんですよ。

 水に何度も浸しているので新聞紙もブヨブヨで、知らないヒトが見たらゴミにしか見えないようなものですけど、『この子にとっては宝物だから』と……。そのお母さんも素晴らしいなと思いました」(嶋田さん)

 社会の常識や大人の価値観にもしばられず、“遊び”を通して自分の“やりたいこと”に夢中になれる子どもたち。そして、その気持ちを大切に、そっと子どもたちを見守りながら子どもの“遊び”をおもしろがる大人たち。

 その姿に支えられ、嶋田さんの「クレヨンカフェ」は少しずつ参加者を増やしながら、やがて「つの子のアトリエ」と名前を変え、月2回が毎週開催となり、現在へとつながっています。

 さて、現在の「つの子のアトリエ」を見学してみると……。そこには、夢中で遊ぶ子どもたちはもちろんですが、そんな子どもたちに負けないぐらい真剣に“遊び”を楽しんでいる大人たちの微笑ましい姿がありました。

 子どもだけでなく、大人も一緒に“遊び”を楽しむという時間は、家庭でも「今度は何をつくろうか」と親子で会話するきっかけづくりにもなるなど、親子のあたたかな絆も育んでいました。

「『 つの子のアトリエ』で遊んでいる子は、自分がつくったものをとても大事に扱います。それに、自分のものだけじゃなくて、お友だちの作品やお母さんがつくったものもすごく大事にしているんです。

 例えば、『つの子のアトリエ』に来るときはお母さんがつくったバッグに自分がつくったものを入れて来る子も多くて……。そういう親子関係もここでは当たり前の風景になっています」

 そう語る嶋田さんですが、「つの子のアトリエ」で過ごす時間を実際の大人たちはどのように楽しんでいるのでしょうか。

「つの子のアトリエ」は、北上市内にある文化交流センター「さくらホール」で開催。
木曜日の定期コース(月5,000円)と、参加料(子ども1人500円)を払えばどなたでも参加できる「土日不定期コース」が月2回あり、
「土日不定期コース」は北上市内だけでなく市外からクルマで2時間かけてやってくる親子も。
「つの子」とは、3つ(3歳)~9つ(9歳)までの「つ」のつく子どものこと。
「つの付く時間は夢の中」とも言われますが、社会の“常識”や大人の“価値観”に染められていないこの時期に、
一人ひとりの異なる子どもたちの個性を伸ばし、“自分らしさ”を育む取り組みが「つの子のアトリエ」です。

自分らしい花に、実に……。未来を育む「栄養たっぷりのふかふかの土」に。

 大人たちが遊びを誘導したりするのは、「つの子のアトリエ」ではNGだという話は最初に触れました。

 例えばこれが自宅なら、仕事や家事に追われて慌しいせいもあって、さらにこれが外出先なら周りの目を気にして「きちんとしつけなければ」という使命感もあって、「ああしなさい」「こうしなさい」「あれやっちゃだめ」「これやっちゃだめ」と大人は子どもにアレコレ指図しがちです。

 ときには、「汚さないで!」「きちんとやって!」「早く片付けて!」とついつい言い過ぎてしまったり ……。

 いつも“後片付け”の心配をしたり、周りの“迷惑”を気にしたりして、なかなか子どもの“やりたい気持ち”最優先とはいかない現実に、実はお母さんたちも心を痛めているのでした。

 しかし、ここでは“後片付け”の心配もいらず、周りの“迷惑”を気にする必要もありません。となると、大人が子どもに指図する必要はなく、もちろん怒ることもしなくていいのです。

 子どもの“やりたい気持ち”を最優先に、子どもも大人も一緒に90分間集中して “遊び”を楽しむことができます。それが、大人たちにもいい気分転換になっているとのこと。でも……。

「こういう時間が四六時中あったらいいかというと、それも違うと思うんです。90分という区切りがあるから意義がある。

 だからこそ子どもたちだけでなく、大人たちも気兼ねなく過ごせるし、「ママも楽しいよ」という空気感が、子どもたちにいい影響を与えていると思うんです。

 以前も、新聞紙や雑誌を束ねるビニール紐を全部ほどいてみようとがんばっている子がいて、ただひたすらそれだけをやっていました。

 私も初めて見たんですけど、1個のビニール紐を全部ほどくのは、摩擦で手が熱くなるし、すごい時間がかかるんですよ。ほどいた紐も体が埋もれるほど山のようになって(笑) 

 でも、その子は最終的に1個のビニール紐を全部ほどいて、やり切ったから大満足。最後に固い芯が出てくるんですけど、それがその子の宝物。ごほうびです。

 『気分はどう?』って聞いたら、『職人になったみたい!』って(笑)

 見ている周りの大人たちも『もったいないからやめなさい』とか『片付けるのが大変だからやめなさい』とは言わない。『おもしろいね』『すごいね』と肯定しながら、大人たちも一生懸命何かをつくって“遊び”を楽しんでいる。

 そういうふうに自分の“やりたいこと”に本気で取り組んで、あきらめずに最後までやり切って、それを認められた経験はその子にとって貴重な財産になると思うんです。

 アトリエに来れば、絵が上手になるとか、 成績が良くなるとか、 そういう目に見える効果になって表れることはないかもしれません。

 でも、確実に経験値は高まると思うんです」

 そう語る嶋田さんは、その積み重ねた経験を「栄養たっぷりのふかふかの土」に例えます。キレイな花が咲くのも、大きな実がなるのも、「栄養たっぷりのふかふかの土」があってこそ。

 大人や社会の価値観に左右されることなく、子ども自身が思い思いに自分らしい花を咲かせ、他の誰でもない自分らしい実をつけられるように……。

 そう願って10年以上にわたって休まず取り組んできた嶋田さんは、毎週やって来る子どもたちを見ていて、今その未来に大きな可能性を感じています。

◇「つの子のアトリエ」作品集

この日は、新聞紙を丸めて好きな動物やキャラクターづくりに挑戦。

自分の“気持ち”がみんなに大切にされているという経験を、財産に。

「子どもたちを見ていると、どの子も自分で考えて自分で決めた遊びは集中してがんばるし、最後まであきらめないんですよ。

 私は子どもたちに“上手にやること”を求めていませんし、そのことは親御さんたちにも伝えています。そもそも『やってもいいし、やらなくてもいい』というスタンスで、『やる・やらない』を決めるのも子どもたち自身。

 ですから、自分で決めてやったことが上手にできなかったからといって、子どもたちも誰かのせいにすることはありません。

 それに、周りの大人も『上手にできたから』『キレイにできたから』褒めるんじゃなくて、自分で決めてやったことに対して『よかったね』『がんばったね』と共感するようにしています。

 それはきっと子どもたちにも伝わっていて、自分の“やりたい”という気持ちを大切にしてもらえているという安心感とそれをやったことの達成感が自信につながって、そういう経験が積み重なると周りに対してもやさしくできるようになるんです。

 それは『つの子のアトリエ』にやってくる子どもたちを見ていると、本当にそう思います。

 子どもたちは、キレイに絵を描く必要もないし、お花をお花らしく描く必要もない。自分が思うように自由に描けばいい。

 大切なのは、自分の“やりたい”という気持ち。それをそっと見守り、応援する場所に『つの子のアトリエ』がなれればいいと思っています。

 そもそも、私も色彩学校講師とか子どもアート療法士の資格を取っていろいろ勉強してきましたが、子どもが描いたものには、ダメな色使いも、ダメな絵もないというのが大きな気づきでした。

 『空は青く』『お花はお花らしく』というのは、周りの大人たちの欲張りな気持ちでしかなくて、子どもたちはそれに合わせる必要もない。本来、もっと自由でいいんですよね……」

 と、しみじみ語る嶋田さんは、「私も偉そうなことは言えないんですけどね。自分自身も『親の言うことは聞くものだ』という感じで、ビシビシ子育てをしていましたから」と言って苦笑いを浮かべます。

 振り返ってみれば10数年前、嶋田さんも2人の小学生の子どもを育てていたという話は最初に触れました。実はこの取り組みが始まった当初、嶋田さんのお子さん2人も……。

「一緒に連れてきて遊ばせていたんですよ。いつも口うるさいお母さんが急にやさしくなって、『何が始まったの?』という感じで私の顔をうかがって、ビクビクしながら遊んでいました(笑) 

 本当に私も偉そうなことは言えない、未熟な親なんですよね」(嶋田さん)

 そう言って苦笑いを浮かべる嶋田さんの名誉のために最後にひとつ……。2人のお子さんのうち、お嬢さんは結婚され、すでにお子さんも。その子育ての様子は……。

「娘もそうですが、最近のママさんたちは、ちゃんと子どもの気持ちを聴いてあげているし、待ってあげている……。すごいなって尊敬します」(嶋田さん)

◇「つの子のアトリエ」のお散歩タイム。その名も「てくてくビンゴ!」

天気がいい日は、お散歩タイムも。この日は、自分で手づくりした“ペット”と一緒に「さくらホール」内をお散歩して、ソトへ……。ドングリなどの木の実を拾ったり、虫を見つけたりしたら「ビンゴ!」。

ビンゴ!

一人ひとりの子ども、社員、そして一社一社の企業。その特性を大切に。

 さて、嶋田さんの本職はこの道20年を超えるビジネスマナーのベテラン講師ですが、10年前から取り組んでいる「つの子のアトリエ」の活動に刺激され、仕事の向き合い方にも変化が……。

「最初は単純に名刺交換や挨拶の仕方、電話応対や接客のやり方、ビジネス文書や封筒・手紙・メールの書き方など、一般的なビジネスマナーのスキルをきちんと教えることが大事だと思っていたんです。

 でも、東京のスタンダードなやり方をそのまま東北、岩手に持ってきても、もっと言えば岩手でもサービス業か、製造業か、医療・福祉関係か……、一社ごとにその考え方や在り方が違います。挨拶ひとつをとっても、スポーツクラブと葬儀屋さんでは全然違いますよね。

 そうした企業さんにテキスト通りのやり方をそのまま当てはめるのではなく、一社一社の事業内容、考え方などを事前にくみ取って講座の内容を組み立てるようにしています。

 ビジネスマナーについては専門書がたくさん出ていますし、ネットで動画も気軽に見られる時代です。そうしたなかで東京ではなく岩手から、東北という地域性を踏まえたビジネスマナーをひろめていきたいんですよね」(嶋田さん)

 嶋田さんのビジネスマナー講座は1回20名までが基本ですが、そうするのも参加する社員さんや学生さん一人ひとりに、そのヒトに合わせたアドバイスをきちんとしてあげたいから。

 世の中に向けられた通り一遍なビジネスマナーではなく、東北という地域性を大事にしたビジネスマナーを岩手からひろげていこうと奮闘する嶋田さんですが、その根底にあるのは「つの子のアトリエ」と同じ。

 一人ひとりの子ども、一社一社の企業、そして一人ひとりの社員に寄り添って……。

 地方都市といえどもSNSで世界ともカンタン・スピーディにつながれる今。もはや地域の枠を飛び越え、その眼差しはソトへと向けられていなければならない時代に、地域の特性を上手に取り入れた世界標準のビジネスマナーが今後さらに重要になってくるような気がします。

 “自分らしさ”を大切に育みながら、子どもたちがいつかグローバルなフィールドへと大きな一歩を踏み出すために。10年にわたって息の長い取り組みを続ける嶋田さんと一緒に遊んだ最初の子どもたちは、今……。

 ストローと絵の具で見事に万年筆をつくった子は、医学の道をめざしているようです。ひたすらビニール紐をひっぱり出すのに夢中だった子、独特のデザインセンスで絵を描き上げる子は、この春そろって、ものづくりの精鋭たちが集う県南の学校へと進学したとのこと。

 アトリエを巣立っていった子たちが、これからどんな花を咲かせるのか、楽しみですね。

◇「つの子のアトリエ」の取り組みは、NEWS & EVENTでも紹介しています。詳細は、こちら! 

◇嶋田佳子さんのビジネスマナー講師の取り組みの詳細は、こちら!

(了)

with Color     

岩手県北上市中野町2-6-29
Tel/080-5570-8140

2020-04-27|
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