3,000種を超える 多彩なチェーンの美しい輝き。 90年の歴史が紡ぐ“技”と“誇り”を次代へ。

中川装身具工業株式会社 北上工場

工場長             菅原 清孝(すがわら きよたか)
製造部次長           前田 公志(まえだ こうじ)
製造部 製造1課 課長       伊藤 純也(いとう じゅんや)
メッキ部門事務・メッキ作業補助 板倉 尚未(いたくら なおみ)

しっかりと、丁寧に、小さな輪っかをつなぐこと。

「どんなに見た目がキレイでも、そもそもの土台となる鎖(チェーン)がしっかりつくられていないと話になりません。

 例えば、旅先でキレイなアクセサリーを見つけてお土産に買ったとして、それを実際に身につけて、すぐ切れたり、曲がったりしたらがっかりしますよね。そういう鎖では、どんなに見た目がキレイでも、どんなにデザインが良くても意味がない。

 鎖は小さな輪っかのつながりでできています。その輪っかが一カ所でも開いてしまうと鎖は切れてしまいます。

 ですから、私たちの仕事はひとつひとつの作業を丁寧に、それを積み重ねて次の工程に、とつないでいくこと。それができてこそ、しっかりとしたキレイな鎖が生まれます」

取材に訪れた日、工場でつくられていたのは、輪っかが箱のように四角いことから別名「箱鎖」とも言われる「べネシアンチェーン」。
ひとつひとつの輪っかがよじれたりすることなくキレイにつながり、美しい輝きを放っていました。

 そう語るのは、高品質な3,000種以上のアクセサリー・チェーンをつくり、国内はもちろん海外のハイブランドにも供給する「中川装身具工業株式会社 北上工場」の製造部 次長・前田公志さんです。

 前田さんが勤める「中川装身具工業」は、かんざし職人だった創業者が1930(昭和5)年に東京・浅草で創業。当初はキリスト教用のロザリー(祈りの道具)を製造し、アメリカやカナダへ輸出していました。

 その事業は終戦後にさらに発展・拡大し、ドイツ、スリランカ、香港、近年ではタイにも拠点を設置。現在では3,000種を超えるアクセサリー、30,000種を超えるジュエリーパーツなどを世界に供給する装身具のリーディングカンパニーとしてグローバルに展開しています。

 国内はもちろん海外からの評価も高い「中川装身具工業」のものづくりを、茨城県にある筑波工場とスリランカにある工場とともに支えているのが、1973(昭和48)年に操業を開始した北上工場です。

北上工業団地にある「中川装身具工業株式会社 北上工場」のオフィス。

 前田さんは、そんな北上工場の製造部門を任されている方。一見すると、ちょっと強面な感じのする前田さんが、キラキラ輝くこの世界に魅了されたのは大学生のとき。

 前田さんの実家は山梨県で2代続く町工場を営んでおり、そこで働くご両親の背中を見ながら、いつか自分も「ここで働くんだろうな」と思っていたそう。

 そのため、神奈川県の大学に進学した際は機械工学を専攻。さらに、子どもの頃から大好きだったものづくりの経験を積みたいと、就職活動ではさまざまな企業の工場に見学に訪れました。

 そこで出会ったのが、小さな輪っかをつなぎあわせ、美しいチェーンをつくる「製鎖(せいさ)機」と呼ばれる機械。前田さんにとって、それが運命の出会いとなりました。

工場はオフィスの向かい側に。ここで、およそ100人のスタッフが3,000種を超えるチェーンを製造しています。
「中川装身具工業 北上工場」でつくられているチェーン。すべて真鍮製。
手前は、鎖の中心線に沿ってその面を切断する「面取り」という加工を施したチェーン。
中央は、ダイヤモンドの刃でカットした「ダイヤカット」。カッティングした面が鏡のようにキラキラ輝くのが特徴。こちらは上下左右8面にカットを施されているため、 その輝きをより一層楽しめます。
奥は、「ボストン/ネイビーチェーン」と呼ばれるもの。四角い形状の輪っかを交互に組み合わせ、隙間なく連結させてつくる高級チェーン。
こちらは、チタン製のチェーン。上の真鍮製と比べて、驚くほど軽いのが特徴。
手前は、「面取り」という加工を施したも。上の真鍮製のチェーンと同じ加工ですが、さらに「磨き」と呼ばれる 工程を経て、表面をツルツルに。
奥は、「フィガロ/ロングアンドショートチェーン」。名前の通り、長短2種類の輪っかを交互に連結したもの。1:1や1:3、1:5など組み合わせは自由自在です。
近年では猫やウサギ、クローバーなどを可愛らしくデザインしたチェーンも登場。人気を集めています。
「中川装身具工業」では、チェーン以外にもさまざまなアクセサリーやジュエリーの製造に携わっています。
今年は大きな話題として「即位の令」がありました。その晩餐会などで注目を集めた「ティアラ」なども「中川装身具工業」では手掛けています。

製鎖機が織りなす美しいチェーンの輝きに魅せられて。

「就職活動をしているとき、中川装身具工業の筑波工場を見学したんですよ。そこで初めて鎖(チェーン)をつくる製鎖機を見て感動したんです」

 そう言って照れ笑いを浮かべる前田さんは、さらに言葉を続けます。

「鎖は小さな輪っかをつないでつくるという構造もシンプルでわかりやすい。しかも、ひとつの鎖をつくるだけでも、削ったり、つぶしたり、ねじったりとさまざまな加工をすることで4種類、5種類の鎖ができあがります。

 製鎖機で鎖をつくっているときも、キラキラ輝いていて華やかですし、本当に見ていて面白い。私も自動車の部品をつくる工場などいろいろ見学しましたが、製鎖機以上にワクワクしたものはありませんでした」(前田さん)

 大学を卒業すると迷わず「中川装身具工業」に入社した前田さんが、最初に配属されたのが就職活動で見学に訪れた筑波工場。同工場は金やプラチナなどの貴金属でチェーンを製造しており、前田さんはここで8年間みっちり製鎖機の扱い方を学びます。

 しかし、そこは一人前として製鎖機を扱えるようになるまで最低でも3年はかかる厳しい職人の世界。加えて、チェーンの種類も3,000種以上と豊富にあり、それに合わせて機械の調整やメンテナンス、さらにそれに付随して学ばなければならないことも多く……。

「仕事を覚えることに必死で、あっという間の8年でした。でも、製鎖機や鎖に関することはもちろん、それに付随するさまざまなことをしっかり学べたのは、今では本当に良かったと思っています」(前田さん)

 前田さんはその後、海を渡り海外へ。スリランカにあるハンドメイド・チェーンの工場のリーダーのひとりとして、500人を超える現地スタッフをたばねながら、生産・受注管理の仕事を5年経験。

「言葉や文化の違いなどコミュニケーションで苦労することも多かったですが、私は私で現地の言葉を勉強して、スリランカのヒトたちも日本語を勉強してくれて、そうやって少しずつお互いが理解を深めながら仕事をしていった経験は貴重でした」

 そんな前田さんが北上工場にやってきたのは2018年春のこと。「中川装身具工業」のものづくりを国内外で幅広く経験し、職人としての技を磨いてきた前田さんは、この北上工場で今改めてチェーンづくりの面白さを実感しています。

「金やプラチナなどの貴金属でチェーンを製造する筑波工場と違い、北上工場は銀・銅・チタン・ステンレスなどのチェーンを製造しています。

 ただ、扱う素材は違っても製鎖機自体は基本的に同じものを使用しているので、北上工場に来たからといって、とまどうことはありません。

 それどころか、スリランカでは管理の仕事が中心で触れる機会が減っていた製鎖機とまたじっくり向き合えるので、それがすごく楽しいです。やっぱり製鎖機は面白いですね」

 前田さんはそう言って顔をほころばせます。

北上工場でつくられたハンドメイドのチェーン。自動製鎖機ではつくれない、手造りならではの繊細な技が独特の風合いを生み出しています。

14年経験を積んでも、触れたことのない製鎖機がある奥深い世界。

 前田さんとともに北上工場の製造部門を引っ張る伊藤純也さんは、北上市出身。地元の工業高校の機械科で“機械”の面白さに目覚め、機械を扱う仕事につきたいと同社に入社して14年。

 現在は自動製鎖機の調整・メンテナンス業務を担当する製造1課 課長として、およそ30名のスタッフを率いています。

工場内の機械は撮影NGのため、お仕事風景はご容赦ください。伊藤さんは自動製鎖機の調整・メンテナンスを手掛けており、1日の生産量は1台につき細い鎖でおよそ100m、大振りの鎖で800mにも。機械を安定稼働させることはもちろん、お客さまの規格や要望に合わせて品質の高い鎖を製造するためにも伊藤さんの仕事にミスは許されません。

 そんな伊藤さんに、この仕事の大変なところを伺うと……。

「北上工場では3,000種以上のチェーンを扱っていますが、それを製造するとなると自動製鎖機とひとえに言っても種類がたくさんあって、14年間この仕事をしている私ですら触れたことのない機械がたくさんあります。

 基本的には2種類の製鎖機の調整・メンテナンスができれば、お客さまのニーズには大体応えられるのですが、ときには珍しい鎖をオーダーされるお客さまもいらっしゃって……。

 そうなると私でも初めて触れる機械を扱うことになるわけですが、そういう機械を安定稼働させるのはもちろん、鎖のカタチや細さなどお客さまの規格や要望に合わせて品質の高い鎖をつくれるように調整・メンテナンスをする必要があります。

 そういう部分が大変というか、常に挑戦する場のある奥の深い世界ですね」

 そんな伊藤さんの言葉に前田さんも深く頷きながら、言葉を添えます。

「最新の機械はもちろん、40年前、50年前の製鎖機ですら弊社では未だに現役です。当然、機械ごとにクセがあったりするので、それも把握したうえで調整・メンテナンスする必要がありますから、毎回勉強ですね」(前田さん)

 「中川装身具工業」は来年の2020年に90周年を迎える装身具メーカー。その長い歴史のなかで、国内外のお客さまの多様なニーズに応えてきた結果、チェーンだけでも3,000種以上を扱うように。

 そのため北上工場では、現在でも市場の多様なニーズに応えられるように、40年前、50年前の製鎖機も大活躍。もちろん、それらの機械については調整・メンテナンスの仕方などもデータ管理され、次の世代へと受け継がれるようになっています。

 だからこそ、珍しいチェーンのオーダーが来ても柔軟に対応できるのが北上工場の強みであり、それが仕事の面白さにもつながっていると伊藤さんは語ります。

「珍しいチェーンのオーダーが入って初めて触れる機械に出会うと、『やってやろう!』という気になるんですよ(笑) 

 確かに初めての機械を扱うのは難しい部分が多くて、クセもあったりしてそれに慣れるまでは大変ですが、それも今までの経験を生かしながら勉強していけば絶対乗り越えられるもの。

 それに新しい機械を扱えるようになれば、鎖をつくる型を入れ替えるだけで、削ったり、つぶしたりと、さらにいろいろな種類の鎖がつくれるようになるのも楽しいですね。

 そういう意味でも自分の触れたことのない機械がまだまだたくさんあるということは、挑戦できることがまだまだいっぱいあるということですし、それがこの仕事の面白さにもつながっていると思います」

 機械を扱う仕事につきたいと「中川装身具工業」に入社して14年。北上工場で課長という役職になっても、大好きな機械と向き合い、自分の可能性をひろげながら日々の成長を実感できるこの仕事は、伊藤さんの天職とも呼べるものになっていました。

北上工場のオフィスには、1932~1975年まで活躍した製鎖機「OPK-1型」も展示。
工場内を案内してくださった菅原 清孝工場長も北上市出身。スリランカ工場にも赴任されましたが、
当時は現地で内戦が起こっており、「いろいろな意味でいい経験になりました(笑)」とのこと。
北上工場では、銀・銅・チタン・ステンレスなどの素材を使用。
幅0.2mmの繊細なものから、幅4mmの大振りのものまで多種多様なチェーンを幅広く手掛けており、近年は少量多品種への対応も進んでいます。

チェーンの“美しさ”を支えるもの。確かな“品質”にこだわって。

 板倉尚未さんは北上市のお隣・花巻市出身。地元の高校を卒業後、「中川装身具工業」に入社して3年目。事務の仕事に憧れていたとき、高校の先生のすすめで北上工場を見学に訪れ、「ここに就職したい!」と思ったそう。

「この会社は土・日・祝日もきちんと休めますし、残業がないところもいいなと思いました」

 そう言って笑顔を浮かべる板倉さんは、プライベートな時間も大切にするイマドキの若者です。が、同工場に入って、ものづくりの世界に染められてきた印象。

「最初の2年間は総務の仕事でしたが、現在はメッキ部門の事務をしながら、メッキ作業をするヒトたちが作業しやすいように下準備をする仕事も担当しています。

 事務の仕事も楽しかったですが、現場に入って手作業もする現在は日々違う仕事に携わるので、毎日が新鮮で1日があっという間に過ぎていきます。

 メッキにはいろいろな種類の色があるんですが、私が下準備したものに色がついたのを見ると、それぞれの色が本当にキレイに輝いていて感動します。

 それに、仕事をしていると『あれをしたから、こんなにキレイな色になるのか』ということがわかるので、そういう部分もとても勉強になって面白いですね」

 そう語る板倉さんは、現場に入り作業を手伝うようになって、“品質”の重要性を改めて実感しています。

「メッキづけされた鎖を目視で確認するのも私の仕事ですが、一見すると色が良く見えても、光にかざしてみると白くもやっているものがあったりします。

 また、そういうものが出やすい鎖やパーツなどもあるので気をつけてチェックするようにしています。

 もちろん、メッキ作業の次は『組み立て』(部品まで取り付けること)の行程があって、その後には最終的に品質のチェックをする部門もあるんですが、もし私が不良品に早めに気づければ、その場で対応することもできます。

 逆に私が気づかなければ、不良品がそのまま次の工程に進んで、組み立ての作業をして、最後の品質チェックで不良品に気づいたとしても、その分の作業時間のムダができてしまいますし、不良品がお客さまに届く可能性も増えます。

 そういうリスクは少しでも減らしたいので、品質のチェックは特に気をつけています。ですから、ほとんどないですが、たまにそういう不良品の鎖などを見つけると、『よし!』とさらに気合いが入ります」

 そう言って笑顔を浮かべる板倉さん。当初は事務職に憧れていたそうですが、現場も経験したことで仕事に対する新たなやりがいと楽しさを見つけ出していました。

作業風景は撮影NGのため、ご容赦ください。「金メッキ」の行程では、ニッケル製のチェーン(右上)を溶剤に入れると、 あっという間に美しく輝くゴールドに。板倉さんが言っていた通り、その輝きにびっくり。
金メッキの色は10種類以上も。
メッキの工程を経て、チェーンに留め具をつけるといった「組み立て」の工程も手作業でひとつひとつ丁寧に行われます。
そして、最後に最終検査を経て、組み立てた商品が納品されます。北上工場では、引張強度試験も実施しており、
規定のチカラまで引っ張っても耐えられる強度を実現しているものだけがお客さまのもとに納品されます。
左は、ロジウムメッキのネックレス。中央は、金メッキを施したもの。右は、ロジウムメッキと金メッキのイヤリング。優雅で高級感のある輝きが人気です。

3つの強みをつなぎ、90年の歴史が紡ぐ“技術”と“誇り”を次の世代へ。

 現在、前田さんがチカラを入れているのが、若いヒトたちに自分が受け継いできた技術を伝え、育てていくこと。

「スリランカから戻って、北上工場でまた製鎖機とじっくり向き合うことができて、改めて自分はやっぱりこの仕事が好きなんだと気づきました。

 製鎖機の調整やメンテナンスをする際にも、自分が思った通りに機械が動いてくれるので、今はそういう技術やノウハウをどのように次の世代に伝えていくべきかをいつも考えていて、それを実践できる今の仕事がすごく楽しいです」

 そう語る前田さんは、若い世代にアドバイスするときは「具体的に、わかりやすく」を心掛け、上目線ではなく同じ目線で考えることを大切にしているとのこと。

 そんな前田さんに今後の夢を伺うと……。

「弊社にある工場は、筑波工場、スリランカ工場、そして北上工場の3つです。有難いことに私はそのすべてを経験することができて、それぞれの特徴や強みを他のヒトよりは実感としてわかっていると思います。

 だからこそ、そうした工場同士のつながりを強めていきたい。

 昨年はスリランカから現地のスタッフが2名北上工場にやってきて半年間にわたって機械の研修をしました。

 その2名は私がスリランカの工場にいたときに一緒に働いていた仲間なんですが、その逆で今度は北上工場のスタッフがスリランカ工場に行ってハンドメイドの技術を学んだり、あるいは筑波工場で貴金属のチェーンをつくる研修を積んだり……。

 それぞれが違う特徴や強みを持った工場ですし、3つのつながりを強め、お互いに勉強し合い、高め合うことで成長できることも多いと思うんです。

 そういうことがどんどんできる仕組みをつくっていったら面白いんじゃないかと思っています」(前田さん)

 “品質”にこだわり、しっかりと、丁寧に、小さな輪っかをつないで、一本の美しい鎖(チェーン)へと仕上げていく「中川装身具工業 北上工場」。

 3,000種を超えるその多彩なチェーンの美しい輝きを支えているのは、90年の歴史が紡ぐ確かな技術と、それを受け継ぎ高め合いながら、未来へつないでいこうとする職人たちの挑戦の日々のなかにありました。

 どこかのお店で、ふと手にした一本の美しいチェーン。それは、ひょっとしたら「中川装身具工業 北上工場」の製品かも……。

こちらは、チェーンの最終検査風景。一本一本、ひとつひとつの輪っかにも目を光らせ、丁寧にチェックされ、
「中川装身具工業 北上工場」のチェーンはお客さまのもとへ届けられます。

(了)

中川装身具工業株式会社 北上工場      

岩手県北上市北工業団地2-36
Tel/0197-66-3151

2019-12-10|
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