17歳で洋菓子職人を志し、31歳で小麦アレルギーに。そんな「自分だから」こそつくれるお菓子を。

洋菓子工房 ケーキ屋Shimizu
オーナーパティシエ  清水 活(しみず いきる)

独立して2年目に小麦・卵などのアレルギーを発症。

「アレルギー対応のケーキなんて、なくなる方がいいんですよ」

 語気を強めてそう語るのは、北上市鍛冶町で「洋菓子工房 ケーキ屋Shimizu」を営むオーナーパティシエ・清水 活(いきる)さんです。

 清水さんは、小麦・卵・乳などのアレルギーを持つ方のために、それらを使わないアレルギー対応のケーキをつくる北上市でも数少ない洋菓子屋さんです。

「アレルギー対応のケーキをつくるようになって、その注文はすごく増えています。でも、全然うれしくない。

 だって、それだけアレルギーを持つヒトが多いってことですから。そこが一番の問題で、アレルギーを持つヒトがどんどん減って、アレルギー対応のケーキもなくなってくれる方が僕もうれしいんです」(清水さん)

 清水さんがそう語る理由は、自分自身も小麦・卵・アーモンド・大豆のアレルギーを持つ当事者であり、その大変さ・辛さをよく知っているからです。

 清水さんが小麦や卵などのアレルギーだとわかったのは、今から7年ほど前。花巻市にある洋菓子屋さんで10年以上修行を重ね、さらに他店で2年経験を積み、念願叶って30歳で独立。地元・北上市和賀町に「洋菓子工房 ケーキ屋Shimizu」をオープンさせた翌年のことでした。

「独立する前に勤めていた会社ではパンもつくっていて、素手で小麦粉に触れたりしていました。そのときも痒みはあったんですが、アレルギーを発症することもなく仕事をしていたんです。

 それから独立して2年目、ようやく店も軌道に乗ってきて『さあ、これから』というときに痒みがひどくなって、湿疹が出て、手足に水疱もできて、痛くてタオルも絞れない。それどころか、立ってもいられない状態になって、病院に行ったらアレルギーだとわかったんです」(清水さん)

店頭に置かれているアレルギー対応ケーキのオーダー表は清水さんが考案。「乳不使用の場合は、豆乳クリームと乳不使用のスポンジ生地を使用」というように、アレルギーに合わせて使用する素材がひと目でわかるように配慮されています。
和賀町にオープンしたお店の前で。アレルギーと上手に付き合いながら、お店をやっていこうと決意した清水さんファミリー。
かわいい苺をあしらったお店の看板には、清水さんの洋菓子職人としての想いが……。

「どこの店でも断られる」と言ったお客さまとの出会いが原点。

 清水さんのアレルギーレベルは6段階で小麦は5、他も4と高く、小麦や卵に触れただけでもアレルギーが発症する状態でした。それでも通常なら食生活に気をつけたり、それらに触れないようにすれば普通の生活は送れます。

 しかし、清水さんの仕事は洋菓子職人。小麦や卵と日常的に触れる仕事で、しかもアレルギーが発症すると痒みだけでなく手足に水疱ができ、ひどくなると立っていられないほどの痛みになることも。

「そのとき初めて仕事を辞めようかと悩んだんです。夫婦で相談もしました。うちの嫁さんも僕が一番しんどい状態を見ていて、それが辛くて体調を崩したこともあったので、『辞めた方がいいんじゃないか』と言っていて……」(清水さん)

 そんな清水さんの背中を押してくれたのは、「辞める必要はない」と言ってくれたお医者さんの言葉でした。

「極力、小麦粉や卵と触れないように、食べないように、対策を立ててやればいいというアドバイスをもらったんです」(清水さん)

 それから清水さんは手袋を二重にし、作業によっては肩までの手袋をして小麦粉や卵には触れないように対策。さらにマスクもつけて小麦の粉を吸い込まないように工夫しながら洋菓子づくりを続けます。

 しかし、それでも「小麦や卵のアレルギーを持ったまま、洋菓子職人の仕事を続けられるのか?」「次の仕事を探した方がいいのではないか?」という悩みは消えませんでした。

「やっぱり、洋菓子職人で小麦や卵のアレルギーを持っているって致命的じゃないですか。アレルギーが発症してお店を休んだら、お客さんにも迷惑がかかるし……。

 それに、ちょうど3人目の子どもが生まれた時期でしたし、新しい仕事を探した方がいいんじゃないかと思って、実際に次の仕事を探したりもしていました」(清水さん)

 そんなある日、清水さんはアレルギーが発症する1年ほど前にお店を訪れたお客さまのことを思い出します。

清水さん自慢の焼き菓子は種類も豊富。小麦の代わりに米粉を使ったものなどアレルギー対応の焼き菓子が半分以上を占めます。
フランスの焼き菓子「フィナンシェ」は、小麦の代わりに米粉を使った人気の逸品です。
「お菓子の詰め合わせを贈り物でもらっても、材料を見て小麦が入っていると、小麦アレルギーのヒトは食べられないからガッカリします。それを僕も何度も経験しているので、小麦アレルギーのヒトも安心して食べられるギフトボックスをつくりたかった」と語る清水さんの想いが詰まった小麦不使用の焼き菓子で彩るギフトボックス。サイズはS・M・Lの3種類をご用意。
ギフトボックスはパッケージがカラフル。若い女性にも好評です。

当事者になって気づいた「自分だから」つくれるお菓子。

「『小麦・卵・乳を使わないケーキをつくってほしい』というお客さんが店にいらっしゃったんです。

 『どこのお店に行ってお願いしても断られる』と言われて、でも僕もそういうのは初めてだったので『できるかどうかはわからないですけど、とりあえずやってみます』ということで、1週間ぐらいかけてつくりました。

 小麦粉の代わりに米粉とおからと白あんと砂糖でつくったタルトを土台に、ラズベリーのジャムでコーティングして苺を飾りつけたケーキなんですけど、すごく喜んでもらえました。そのときのことを思い出して、気づいたんですよ。

『自分も同じになったんだな』って。そのお客さんと同じ痛みというか、苦しみがよくわかる存在に、同じ立場に自分がなったと気づいたら、『そういうヒトが安心して食べられるお菓子をつくろう』と思って、『まず小麦なしの焼き菓子をつくってみよう』と……」(清水さん)

 そこで清水さんのスイッチが切り替わりました。そして、最初に取り組んだのが「小麦の代わりに米粉を使ってつくるマドレーヌ」の開発。

 小麦なしの焼き菓子をつくることができれば、自身が小麦アレルギーでもある清水さんのリスクが減り、洋菓子づくりの仕事も続けやすくなります。

 さらに、それによって小麦アレルギーの方でも、気軽に焼き菓子を食べられるようになります。それこそ、「アレルギーを持つ自分がやるべきことではないか」と清水さんの意識が前向きに切り替わったのでした。

 しかし、だからといって、すべてのお菓子を「小麦なし」にすることもできません。なぜなら、アレルギーが発症する以前の清水さんがつくる小麦の入ったお菓子を好きだと言って買いに来てくださるお客さまもたくさんいるからです。

 そして清水さんは、アレルギーを持つ方も食べられるお菓子をつくりながら、それまで清水さんがつくっていたお菓子を好きだと言ってくださるお客さまのためのお菓子もつくり続ける道を選びます。

 つまりそれは、それまでの迷いを振り切り、小麦・卵・アーモンド・大豆のアレルギーを持ちながら、洋菓子職人としての道をまっとうしようと清水さんが決意した瞬間でもありました。

清水さん自慢の一品は「苺ショートケーキ」。「クリームより早く溶ける」と好評のスポンジは、清水さんのこだわりの結晶。写真のように曲げても崩れることなく、しっとりと溶けるような触感が人気の秘密です。
手袋を二重にして作業する清水さん。食生活などにも気を遣うようになって、アレルギーの症状もだいぶ抑えられ、現在では少しだけなら小麦粉や卵が入ったお菓子の味見もできるように改善されたそう。
自慢の苺ショートケーキを仕上げる清水さん。
清水さんがこだわる甘すぎない「苺ショートケーキ」のおいしさも、アレルギー発症以前と変わらない味を守っています。

17歳から洋菓子職人の道へ。楽しい洋菓子づくりをこれからも。

 そもそも清水さんが洋菓子職人を志したのは、高校1年生のとき。ボクシングがやりたくて入った高校で、視力の低下によりボクシングが続けられなくなったのがきっかけでした。

「学校に行くのも嫌になって、1年生の後半から行かなくなりました。それで何をやろうかと考えたとき、洋菓子職人になりたいと思ったんです。

実は中学3年生の頃に、親父が洋菓子職人として勤める洋菓子屋さんに職場体験で行ったんですけど、そこで体験したお菓子づくりがすごく楽しかった。それで親父に相談したら、そのお店で修業させてもらえることになって……。

家族はみんな大反対でしたけど、高校は辞めずに休学するという条件で高校2年生になると同時に学校は休学して、親父が勤める洋菓子屋さんで働くことになったんです」(清水さん)

 それから清水さんは、和賀町にある実家から花巻にあるお店まで毎日自転車で通いました。仕事がはじまるのが朝6時のため、一番下っ端だった清水さんは始業の30分前にはお店に入り、準備をはじめます。

「普通だと1時間、思いっきり漕いで40分(笑)、雨の日はカッパを着て毎日自転車で通っていました。親父も同じ職場なので親父の車に乗せてもらって一緒に通うこともできたんですが、それもなんか違うと思って……。だからそれからは、親父と話すときもずっと敬語です(笑)」(清水さん)

 修行時代を振り返って「毎日、無我夢中だった」と語る清水さんですが、初めて任せてもらったゼリーの仕上げの仕事のことは今でもよく覚えています。

「夏場だったんですけど、そのお店では巨峰とオレンジの2種類のゼリーをつくっていて、仕上げにクラッシュしたゼリーを載せるんですけど、その作業がすごく楽しくて……。

 カラフルなゼリーの美しさとか、今まで知らなかった作業工程がわかって『お菓子ってこういう風につくるんだ!』っていう感動があったし、自分がつくったものが店頭に並ぶっていうこともすごくうれしかったんですよね」(清水さん)

 こうして清水さんは厳しい修行時代を乗り越え、ついにはお店の焼き物全般を任せられるまで腕をあげます。そのなかでも特に自信があり、お客さまからも好評だったのが「苺ショートケーキ」。

「苺ショートケーキは、子どもからお年寄りまで、みなさんにぜひ食べてもらいたいと思って、お店のロゴにも苺を入れたし、和賀町に店をオープンした日も11月15日。イイ(11)イチゴ(15)の日にしたんです(笑)。それぐらい苺ショートケーキにはこだわっていて、自信もあります!」(清水さん)

 そう胸を張る清水さんの苺ショートケーキは、創業当時から現在まで「スポンジがしっとりしていて、クリームよりも早く溶ける」「スポンジ嫌いの子どももおいしいと食べてくれる」と評判を集める同店自慢のスウィーツとなっています。

お店の看板にも、かわいい苺のイラストが。そこには、子どもからお年寄りまで、みなさんに食べてもらいたいという清水さんの想いと、苺ショートケーキに対する並々ならぬ愛情が込められていました。
自慢の苺ショートケーキを店頭に並べる清水さん。 その先にあるお客さまの笑顔を思い浮かべて……。
苺ショートケーキとともにカラフルなケーキが、ショーケースを華やかに彩ります。

家庭でも「アレルギー対応のケーキ」が気軽につくれる未来へ。

 2017年8月、清水さんは和賀町から現在の鍛冶町にお店を移転しました。小麦不使用など、アレルギーに対応した焼き菓子のラインナップが充実してきて、お店が手狭になったためと、そうした焼き菓子のニーズは市街地の方がよりあるだろうと考えての決断でしたが、売り上げも順調とのこと。

 さらに清水さんはお店を移転してから、アレルギー対応のバースデイケーキづくりも開始。その注文も増えているそうですが、それだけ多くの方がアレルギーで辛い思いをされている現実に、清水さんもアレルギーをもつ当事者として心を痛めているという話は最初に触れました。

 しかし、だからこそ、チャレンジしてみたいと思う夢が清水さんにはできました。

「昨年のクリスマスシーズンは、アレルギー対応のクリスマスケーキの注文も多くいただいたんですが、短期間で一度に多く注文が入ると、とても僕ひとりでは全部の対応ができない。それで、申し訳ないとは思いながらも、一定数を超えた分はお断りしました。

 もちろん、普通のお店ならヒトを雇えば対応できるんでしょうが、僕の場合はアレルギーがあるし、小麦や卵と触れただけでアレルギーを発症するリスクがある。だから、僕がどうなればアレルギーを発症するかということを100%理解して作業してくれるヒトじゃないと一緒に仕事ができないんですよ。

 しかも、お客さまの注文に合わせてアレルギー対応のケーキをつくるとなると、さらに神経を使う。そうなるとやっぱりアレルギーのことをきちんと理解して、アレルギーで辛い思いをされているお客さんと同じ気持ちになってケーキをつくれるヒトでないと安心して任せられないんです。

 でも、そこで思ったんです。だったら、アレルギーを持つお子さんのために、その親御さんがケーキをつくってあげるのが一番いいんじゃないかって。

 誰よりも親御さんが一番自分の子どものことをわかっているわけだから、その親御さんがつくれば安心だし、子どもも自分の親が自分のためにケーキをつくってくれたらうれしいんじゃないかって……。だから、親御さん向けに『アレルギー対応のケーキづくり教室』を開きたいんですよ」(清水さん)

 そうしたケーキづくりを通して、親子のつながりがさらに深まったら楽しいだろうと、清水さんの夢もひろがります。

「頑固おやじのクッキーシュー」も創業当時から愛される一品。 “頑固”というのはサクサクした表面のイメージだけで、中にはやさしい甘さが上品なカスタードクリームがたっぷり詰まっています。

 さて、同店で人気の「頑固おやじのクッキーシュー」は、清水さんが独立した2012年に考案したもの。30年後、子どもから“おやじ”と呼ばれるようになっても、自分の味にこだわり頑固に洋菓子をつくり続けているであろう未来の自分をイメージしたものだそう。

 清水さんは「頑固おやじのクッキーシュー」が生まれた1年後にアレルギーを発症し、洋菓子職人を辞めようかと悩んだ時期もありました。

 しかし、その迷いも今はありません。これからもアレルギーのある洋菓子職人だからこそつくれる“やさしさ”がたっぷり詰まったお菓子をずっとつくり続けていくつもりです。なにせ、未来の“頑固おやじ”ですから。

小麦粉を一切使用せずにつくった「ブラウニー」は、バレンタインにおすすめ。しっとり濃厚なチョコレートの大人な味わいを、大切なあの方へ。
小麦粉の代わりに北上産のもち米粉を使用してつくった「もっちり焼ドーナツ」は、名前の通りもっちりとした食感が魅力です。
チョコレートコーティングした「もっちり焼ドーナツ」は昨年クリスマスに販売し大好評だったため、バレンタインに合わせて箱詰めに。やさしい味わいがもっちり詰まったおいしさを、感謝の気持ちを込めて、あのヒトへ。
常連さんと談笑する清水さん。女性だけでなく、男性がひとりでも気軽に立ち寄れるお店づくりも同店が愛される理由です。

◇「洋菓子工房 ケーキ屋Shimizu」がつくる小麦粉不使用の焼き菓子は、北上市の「ふるさと納税」の返礼品にも。詳細はこちら!

(了)

洋菓子工房 ケーキ屋Shimizu
岩手県北上市鍛冶町1-11-71
Tel/0197-72-7225
営業時間/11:00~18:00
定休日/火曜日

2019-02-06|
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