「ねえ、キミはどうしたい?」  子どもの“気持ち”を大切に。 “自分”を育む遊びの時間。

子どもはもちろん、大人も夢中な遊びの時間とは?

 赤いテープと白いクッション材を使って、大好きな「マグロの握り」や「焼き鳥」を作る男の子。

 毛糸玉から糸を取り出し、どれだけの長さがあるか調べようと毛糸と格闘し、部屋を走り回る女の子。

 カラフルなビーズをトレイからケースへ、ケースからトレイへと移し替えることに夢中な男の子。

 さらに、この日は「裁縫」が人気で、大胆な針の動きで自分の「枕」を手作りする男の子や、かわいいキャラクターや小物入れづくりにチャレンジする女の子がいるかと思えば、大人たちも負けてはいません。

 自ら手作りした人形用のかわいい靴下やジブリ映画の人気アイテムを器用に縫うママさんたちがいたかと思えば、「焼き鳥」をつくった我が子に触発されて、白いクッション材をいくつも串刺しにして「砂肝」を完成させるママさんも。

 また、無心でプレートの上にアイロンビーズを並べている親子は、「今日は何をつくろうか」と2人で相談して、楽しみにしてきたそう。スマホ画面に映し出されたデザインを参考に、親子並んでモクモクと作業する姿は職人のよう……。

「アイロンビーズ」とはプレートの上にチューブ状のビーズを並べて、その上からアイロンをかけるとビーズがくっついて
自分好みのカラフルなデザインのアクセサリーや小物がつくれるという遊びです。

自分の“気持ち”を大切に、自分で“決める”遊び方。

 「つの子のアトリエ」というこのイベントは、北上市内にある文化交流センター「さくらホール」の一室で、毎週木曜日の午後4時から開催されています。

  「つの子」とは3つ(3歳)~9つ(9歳)までの「つ」のつく子どものことで、同イベントではそうした子どもを中心に親子で集い、みんなで自由に“遊び”を楽しんでいます。が、参加する子どもにはルールが……。

 それは、「何をして遊ぶか(あるいは遊ばないか)は、自分で考えて自分で決める」こと。与えられたコトやモノに従うのではなく、他人に合わせるのでもなく、自分で考えて「やる・やらない」を選択し、帰りたくなったら帰ってもOK。そうやって自分の“気持ち”を大切にしながら、“遊び”の時間を楽しみます。

 もちろん、ルールは参加する親にも……。

 それは、子どもたちに指図をしたり、先回りをしてお節介をしたりしないこと。子どもたちが失敗しようが、一見ゴミのようにも見える意味不明なモノをつくりだそうが、ニコニコ笑顔でゆったり見守りつつ、大人自身も自分の“遊び”を楽しむこと。

 遊びの道具は、クレヨン、絵の具、ペン類、紙ねんど、砂、ビーズ、スズランテープ、毛糸、フェルト、布切れ、裁縫道具、空き箱、筒、芯などから、ときには葉っぱ、小枝、雪、泡、ダンゴムシなどなど自然のものも登場。

 最先端のゲームや電池で動く人気のおもちゃはありませんが、子どもたちに不満な様子はありません。それどころか……。

 最初は机の上が遊び場でしたが、やがて遊びの輪がひろがり、子どもたちも自分の興味がおもむくまま、あっちこっちに移動し、遊びの時間を楽しんでいる様子……。

 その様子をあたたかな眼差しで見守りながら、時には自身も遊びに参加する女性が、「つの子のアトリエ」の仕掛け人・嶋田佳子さんです。

「待つ勇気」が子どもはもちろん、大人の心も開放!

 子どもアート療法士の資格を持つ嶋田さんは、一人ひとりの子どもの“気持ち”を最優先に考えながら、“遊び”を通して自分らしく伸び伸び成長できる“心”を育もうと、2010(平成22)年からこの取り組みをスタート。

 最初は「クレヨンカフェ」として活動していましたが、2014(平成26)年に現在の「つの子のアトリエ」に改称。当初参加していた“つの子”も小学校を卒業するとここを巣立ち、現在は高校生に……。その11年にわたる地道な取り組みのなかで、嶋田さんが大切にしてきたのが、「待つ勇気」。

 親としては、「ああしなさい」「こうしなさい」「あれやっちゃだめ」「これやっちゃだめ」とついつい指図しがちです。

 しかし、嶋田さんは「せめて『つの子のアトリエ』で過ごす時間は、その言葉を我慢してほしい。子どもたちの様子を見守ってほしい」と親御さんたちには伝えているとのこと。

「つの子のアトリエ」オープンに向けて、色鉛筆や裁縫道具など、遊び道具を準備する嶋田さん。
ご本人は虫が大好きで、時にはダンゴムシを捕まえてきて子どもたちと遊ぶこともあるそうですが、ママさんたちには……。

 そうした嶋田さんの「待つ勇気」が、「つの子のアトリエ」の居心地のよい雰囲気をつくりだしています。

 子どもたちからは、「聞くまで教えないでくれるのがいい」「黙って見てくれているところがいい」といった言葉が……。

 さらに、以外だったのがママさんたちの感想……。

 「つの子のアトリエ」では、「やってもいいし、やらなくてもいい」が合い言葉。しかも、子どもたちの“気持ち”が何より大切にされるので、子どもたちが「やりたい!」と思ったら、ビーズを畳みの上に撒き散らかそうが、絵の具を体に塗ろうが、お構いなし。

 しかも、基本的に大人の役割は子どもたちの「やりたい!」を応援し、「ニコニコ笑顔で見守ること」ですから、子どもたちがビーズを畳の上に撒き散らかそうが、絵の具を身体に塗ろうが、「すごいね!」と言って笑顔で褒めることがモットー。

 本来であれば、周りの目を気にして「きちんとしつけなければ」という使命感から、ついつい怒ってしまったり、家事や仕事が忙しくて 「早くして」「ちゃんとやって」「汚れるでしょ」「きちんと片づけて」と注意してしまうのが普通。なかなか子どもの“気持ち”最優先とはいかない現実を、ママさんたちも心を痛めているのでした。

 しかし、「つの子のアトリエ」では、そんな後ろめたさからママさんたちも解放されるそう。それどころか、「この90分は周りの目を気にせず、何をしてもしなくても、やりっぱなしでもOK」ということで、自分たちも遊びに集中できるのが楽しいとのこと。

 もちろん、最後は後片付けの時間もありますが、それでも“ひとり”で子育てをするのではなく、みんなで子どもたちが自由に遊ぶ様子を見守り、ママさん同士でも世間話をしながら、好きなことに夢中になる時間がいい気分転換にもなっている様子。

子どもの成長を感じながら、ゆったり育む親子の時間。

 ご主人とお子さんと3人で他地域から北上市にやってきたママさんは、周りに知り合いもなく、気軽に子育ての相談をできるヒトもいなくて、不安を感じながら子育てをしていたそう。さらに、自身も仕事をしているため、ゆっくり子どもに構ってあげられる時間もなく、それが悩みでもありました。

「以前は自分でつくったものが壊れたりすると、すぐ泣いて、泣きやむまで大変でした。

 でも、例えばさっきもつくったものを友達が間違って壊しちゃいましたけど、それで泣くこともなく、今も一緒になってまたつくりなおしています。ああいうことは今までなかった。成長したなと思って……」

 そう語るママさん自身も、「つの子のアトリエ」で過ごす90分は自分も楽しむだけでなく、他のママさんや嶋田さんに子育ての悩みを聞いてもらえる貴重な時間になっているそう。また、「今度は何をつくろうか」など子どもと会話する時間を増やす効果も……。

「ねえ、キミはどうしたい?」

 子どもたちの“気持ち”に寄り添い、ニコニコ笑顔でその様子を見守りながら、子どもも大人も一緒に“遊び”を楽しむ「つの子のアトリエ」。毎週木曜日の90分間が、一人ひとりの子どもの“自分”を育むだけでなく、あたたかな親子の時間も育んでいました。

ママがつくってくれたジブリ映画で人気のアイテムを身に着けて……
女の子もちょっと誇らしい様子。よかったね~。

(了)

子どもアート療法士のいる

「つの子のアトリエ」

【木曜定期コース】

開催日時/毎週木曜日 16:00~17:30

場所/北上市文化交流センター「さくらホール」内

対象/つの子(3つ~9つのお子さま)

料金/5,000円(月ごと)

内容/お絵描き(クレヨン・絵の具・ペン類)、紙ねんど、砂、ビーズ、スズランテープ、モール など

お休み/第5木曜日、祝日・お盆・お正月にあたる木曜日

【土日不定期コース】(予約制)

開催日時/月2回(土曜日または日曜日) 10:00~11:30

場所/北上市文化交流センター「さくらホール」内

対象/つの子(3つ~9つのお子さま)

料金/子ども1人につき500円(3つ未満は無料)

 ※「木曜定期コース」をご利用のお子さまは無料です。

内容/紙遊び、色水遊び……など、毎回テーマに合わせて画材を準備

◇各コースの詳細は「つの子のアトリエ」Webサイトをチェック!

2020-03-18|
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