当たり前の自然。当たり前の暮らし。 そんな“当たり前”が宝物になる 北上ライフスタイルの未来。

岩崎地区で動き出している “北上らしい”ライフスタイルとは?

 2月9日(日)、北上市の西部に位置する岩崎地区は真っ白な雪に覆われていました。

 空を見上げれば、あいにくの曇天。やがて雪も降りだした午後の昼下がり。豪雪地帯として知られる夏油高原の入り口にあるカフェには、40人を越える老若男女が詰めかけていました。

 この日、行われたのは「岩崎から発信する私の北上ライフスタイル」と題したトークショー。

 2014(平成26)年度より北上市では、持続可能で心豊かな“北上らしい”ライフスタイルの創造をめざして、「北上ライフスタイルデザインプロジェクト」を始動。

 第1弾は口内(くちない)地区を舞台に、自然との触れ合いからスタート。里山体験イベントや木育ワークショップ、さらには自然のなかで遊び方や楽しみ方を自分たちで創造できる秘密基地づくりにもチャレンジ。大人と子どもが一緒になってつくることで、自然と上手に共存することでひろがる豊かな可能性を探求しました。

 また、第2弾は自然豊かな山間に歴史ある茅葺民家を移築し、昔ながらの暮らし方や手仕事体験とともに四季折々の美しい自然を体感できる「みちのく民俗村」がフィールドに。田植え・稲刈りや、よもぎ採り・餅つきなどの体験を通して、自然とともに豊かな暮らしを育んできた先人たちの日々の営みを経験しました。

 今回のトークショーは、それらに続く第3弾。自然の豊かな可能性に改めて気づき、自然の恵みを享受しながら日々の暮らしを営む先人たちの知恵を学んできた「北上ライフスタイルデザインプロジェクト」の次の舞台は、現代へ。

 「岩崎から発信する私の北上ライフスタイル」と題したトークショーは、岩崎地区にあるさまざまな地域資源を活用しながら、独自の活動を展開している4人のパネラーが登場。司会は東京都市大学環境学部・古川柳蔵教授が務められました。

トークショーを前に歓談するパネラーと関係者さん。左より「キャンプグランド べアーベル」オーナーの日角孝治さん、
「アンビシャスファーム」の佐藤孝志さん、「北上市立 鬼の館」館長・島津秀仁さん。

地域の絆を未来へとつなげる「岩崎地区青年会 虹色の会 絆」。

 パネラーのお1人目は、「岩崎地区青年会 虹色の会 絆」の会長を務める小原和弘さん。2011(平成23)年に結成した同青年会の主な活動は、岩崎地区にある鬼のテーマ博物館「北上市立 鬼の館」と共同で行う2月の「福豆鬼節分会」や、8月の納涼祭「虹色フェスタ」といった地域イベントの開催。

 同青年会ではこれらのイベントの企画から運営までを一手に手掛けており、今年の2月に開催した「福豆鬼節分会」では来場者4,600人を達成するなど、その取り組みは地域活性化に大きく貢献しています。

 そんな同青年会の立ち上げから携わってきた小原さん。5人からスタートした会員は現在250人となり、小・中学生から50代まで幅広い世代が参加。しかも、その半数が女性であり、結婚を機に岩崎地区にやってきたお婿さんやお嫁さんも多いそう。

これまでの活動を紹介したパネル。 同青年会では会員同士の連絡網もメールやSNSを使わず、手書きのカードを持って会員が一軒一軒回っているそう。
「直接カードを渡すことで、お互いの顔や暮らしぶりがわかる。そうなれば、いざ災害が起こって助けに行くときも役に立ちます」と小原さん。

 コミュニティのつながりが薄れ、地域行事の参加率の低下に悩む地域が多いなか、若い世代や女性も巻き込んで積極的に活動するそのバイタリティにまず驚かされますが、そうした取り組みを続けても同青年会発足時の9年前に比べ、地域住民の数は300~400人減っており、人口減少をいかに抑えるかが課題とのこと。

 そのためにも年代・性別にこだわらず、お婿さんやお嫁さん、さらには移住者などソトから来たヒトたちの視点や発想なども積極的に取り入れ、みんなでカタチにしていく「そのプロセスを大切にしている」と語る小原さん。

 しかも、自分たちが“当たり前”だと思っているコトやモノでも、ソトから来たヒトから見れば“宝物”。それに気づき、地域に眠る価値を掘り起こし、磨いていくことが活動の原動力になっているそう。

 また、イベントへの取り組みなど、ひとつひとつの活動を子どもたちに見せることで、それを見て育った子どもたちが故郷に愛着を持ち、いずれは地域づくりを担う存在になってくれたら、と小原さんは夢を語ります。

“当たり前”こそソトから見ればワンダーランド。地域資源を掘り起こし、滞留型観光へ。

 地域の財産は、“当たり前の光景”のなかにある……。

 そう語るのは2016(平成28)年に、夏油高原エリア活性化プロジェクトに携わる北上市の地域おこし協力隊として宮城県から夫婦で移住。解体が決まっていた築80年以上の古民家をセルフリノベーションして、観光案内所を併設したカフェ 「小昼~kobiru~」 へと生まれ変わらせ、現在もこの地で営業を続けている中村吉秋さんです。

 吉秋さんが、地域の財産は“当たり前の光景”のなかにあると改めて実感したのが、昨年自ら参加したホタルツアー。金色に輝くホタルが顔に向かって飛んできたため、思わず手で追い払うと、都会からきたらしい子どもが「なんで捕まえないの?」とびっくりされたそう。

 「自分たちにとっては“当たり前の光景”でも、ソトからきたヒトにとってはワンダーランド。ホタルはもちろん、私たちが雪かきが面倒だと思ってしまうすごい雪だって財産」だと吉秋さん。

 “当たり前”の日々の暮らし、地域に受け継がれる歴史と伝統、そして豊かな自然……。

 吉秋さんは観光案内所を併設したカフェとしての営業だけでなく、ヨガ教室やフリーマーケット、さらには音楽を楽しむクラブイベントなど、さまざまな企画も実施。「小昼~kobiru~を地域の人々、さらには観光客ともつながれる場にしようと多様なチャレンジを続けています

 すでにあるモノ、もともとある地域の資源を掘り起こし、そこにおもてなしや体験という付加価値をつけて提供していくこと……。そうすることで、岩崎地区の観光を従来までの「通過型」から「滞留型」へと発展させていきたいと夢を語る吉秋さん。

 宮城県から移住し、解体が決まっていた築80年を超える古民家をセルフイノベーションし、古民家カフェをオープンさせた吉秋さんならではの視点と取り組みです。

写真左より佐藤孝志さん、中村吉秋さん、日角孝治さん。仕事人図鑑にもご出演いただいた事業者さんたちです。
夏油高原の入り口にある「小昼~kobiru~」は、観光案内所を併設したカフェとして2018年11月にオープンしました。
人気のメニュー「 黒小昼」(ブラックカレー)は、独特の苦みがクセになる味わい。
店内に置かれたイベントのチラシ。こちらは定期的に開催しているヨガ教室のもの。

◇「夏油古民家カフェ 小昼~kobiru~」さんの取り組みは「仕事人図鑑」で詳しく紹介しています。詳細は、こちら!

夏油高原の豊かな自然を、キャンパーたちの「我が家」に。「ふるさと」に……。

 「キャンプグランド べアーベル」のオーナー・日角孝治さんは、夏油高原の豊かな自然にほれ込み、この地で手づくりのキャンプ場を2011(平成23)年にオープンさせた方。ちなみに現在、同キャンプ場は全国からキャンパーが集まり、岩手県では唯一雪中キャンプも可能なキャンプ場としても人気を集めています。

 日角さんはもともと茨城県に住んでいましたが、2010年に奥様の実家がある北上市に移住。そこで現在の「べアーベル」がある森と出会い、夢だったキャンプ場のオーナーになるべく、所有者の理解も得て土地を購入。以来、自分が理想とするキャンプ場を自らの手でつくってきました(現在も拡張中)。

 日角さんのキャンプ場は、リピーターが多いことが特徴。関東から訪れるキャンパーも多く、そういう方々が「べアーベル」に訪れると、「ただいま」と言ってもらえることが何よりも「うれしい」と語ります。

「去年のGWもたくさんの方に来ていただいたんですが、その半分が関東からで、みなさん『夏油っていいよね』と言ってくれるんですよ。

 たぶんですが、関東に住んでいると、田舎がほしくなるのかなと思って……。そういう方たちの田舎というか、我が家に、ふるさとにべアーベルがなれたらいいなと思っています」と日角さん。

 夏油高原の豊かな自然を通して、日本中のキャンパーたちとつながる日角さんは、昨年から田んぼで米づくりもスタート。

 さらに、いずれは手仕事が体験できる工房もつくり、自分が食べるもの・使うものは自分でつくる……。そういうライフスタイルを体験できる場所にしていきたいと夢を語ります。

 こちらも自分が惚れこんだ土地で、手づくりで自分の夢をカタチにしてきた日角さんならではの視点と取り組み。キャンパーたちの「我が家」に、みんなの「田舎」に、「ふるさと」に……。日角さんの夢はひろがります。

「小昼~kobiru~」の店内には、「キャンプグランド べアーベル」の缶バッジも。

◇「キャンプグランド べアーベル」日角孝治さんの取り組みは「仕事人図鑑」で詳しく紹介しています。詳細は、こちら!

「ひまわり畑プロジェクト」からはじまる岩崎地区の新たな挑戦。

 佐藤孝志さんは地元・夏油高原で農業に励む11代目として、これからの農業の在り方を「農村」というひろい視野で見つめ、地域を盛りあげていこうと奮闘する方です。

 孝志さんは昨年、北上市の兼業農家チャレンジ支援事業の一環として「ひまわり畑プロジェクト」に着手。約2ヘクタールの遊休農地で約10万本のひまわりを育て、夏は観光資源として活用。さらに収穫した種をひまわり油として加工・販売する取り組みに挑みました。

 その結果、夏は約10万本のひまわりが咲き誇る様子がさまざまなメディアで紹介されたことから、誰も見向きもしなかった農地に多くの観光客が訪れるなど話題に。

 さらに、収穫した種を活用した「ひまわり油」も完成し、いよいよ販売も開始。このトークショーの会場となった「小昼~kobiru~」でも購入できるなど、「ひまわり畑プロジェクト」は1年目から順調に成果をあげています。

 そんな佐藤さんですが、最初は「農家の6次産業化は難しい。ひまわり油をつくっても売れないだろう」と思ったそう。しかし、それでも「ひまわり畑プロジェクト」に挑んだのは、「ひまわり畑」をきっかけに、地域で経済が回る仕組みができると思ったから。

 日角さんや吉秋さんなど、岩崎地区には「地域を盛りあげよう」と意欲的に活動する事業者さんたちがたくさんいます。そうしたヒトたちを孝志さんは「プレイヤー」と呼んでいますが、「ひまわり畑」を見に訪れた観光客が、飲食店や温泉・アクティビティなどを展開する地域のプレイヤーたちとつながる仕組みをつくることで、観光客を岩崎地区に滞留させようと考えたのでした。

 「私は農業のことはわかるけど、飲食とか観光のことはわからない。知恵はひとつ、経験もひとつです。でも、得意分野を持ったプレイヤーが集まり、つながれば、知恵はいくつにもなるし、経験も増えて、それはすごいチカラになる。

 そういうプレイヤーたちがつながり、自由に活動できて、やりたいことがどんどんできる地域にしたい。そうすれば、地域で経済が回る仕組みもしぜんとできるのではないかと思っています」と孝志さんは夢を語ります。

「小昼~kobiru~」の店内で販売されている孝志さんの「ひまわり油」(中段)。
「ひまわり畑」を見に訪れた観光客が、地域のお店で「ひまわり油」を買えるようにしていきたいと孝志さん。

◇佐藤孝志さんの取り組みは「仕事人図鑑」で詳しく紹介しています。詳細は、こちら!

空間を“ 場所 ”に変える「まち育て」から、「あじさい都市」へ。

 北上市では身近にある地域資源を発掘し、育てる事で地域を元気にする「まち育て」という活動を積極的に展開。このトークショーの最後を締めくくった北上市の高橋敏彦市長は、それを踏まえて……。

「『まち育て』は、“ 空間 ”を“場所”に変化させることです。地域を未来につなぐ岩崎地区青年会さん。古民家をカフェにした小昼さん。森をキャンプ場にしたべアーベルさん。農地を景観に変えた佐藤さん……。

 すれ違うだけだったヒトに出会いの場をつくり、居場所をつくっているみなさんの取り組みは、私たちがめざす『まち育て』そのもの。素晴らしい取り組みだと思います」( 高橋敏彦市長 )

  人口減少・超高齢化・エネルギー不足 ……。これから訪れる社会を前に、それぞれの地域が独自の資源を活かして、自立した地域として咲き誇り、相互に連携することでイキイキと発展できる北上市の未来のあるべき姿を、「あじさい都市 きたかみ」という言葉で表現し、その実現に向けて取り組んでいる北上市。

 その一環として、持続可能で心豊かな“北上らしい”ライフスタイルの創造をめざす「北上ライフスタイルデザインプロジェクト」。その第3弾のキックオフとなるトークショー「岩崎から発信する私の北上ライフスタイル」は、こうして無事終了。

 そこには、地域のつながりを大切に、“当たり前”の自然、“当たり前”の暮らしに宿るモノやコトを発掘し、磨き、育て、宝物にしようと奮闘する頼もしい事業者さんたちの姿がありました。

 岩崎地区で動き出した「北上ライフスタイルデザインプロジェクト」の第3弾が、地域でがんばる事業者さんたちとつながることで、“北上らしい”ライフスタイルをどのようにデザインしていくのか……。今後に注目です! 

◇ 「北上ライフスタイルデザインプロジェクト」 の詳細は、こちら!

(了)

トークショー「岩崎から発信する私の北上ライフスタイル」

開催日時/2020年2月9日(日)13:30~15:00

会場/夏油古民家カフェ 小昼~kobiru~

主催/北上市

2020-02-11|
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