2004(平成16)年から北上市が取り組む「いきいきゲーム」とは?
「やっぱり世の中、金か~!」
そんな男の子の嘆き声が教室内に響いたのは、講師を務めるボランティアの方がゲームのルールを説明しているときでした。
「最後に一番お金を持っている国が勝ちになります」
男の子は講師の方が言い放ったその言葉に反応して、「やっぱり世の中、金か~!」と思わず嘆いたのでした。
しかし、そんな男の子もゲームがはじまると一変。仲間と一緒にゲームの世界にどんどん夢中になっていきます。
ゲームをしながら社会の仕組みを知り、「お金儲け」のためだけではない、仕事をすることの意味と面白さに気づかされていったからでしょう。
このゲームの名前は、「いきいきゲーム」というそう。
北上市では、2004(平成16)年から授業の一環として市内の小中学校を対象に同ゲーム(当初は「トレーディングゲーム」という名称)を実施。講師を務めるのは、資格を取得した市民の方や市職員などで、ゲームをお手伝いするサポーターも市民の方が担当するなど、すべてボランティアで行われています。
支給されるモノは国ごとに違う……。不平等からのスタートにワクワク。
「いきいきゲーム」のルールを簡単に説明すると、子どもたちは「ゾウ王国」や「ラビット国」など動物の名前がつけられた国に分かれてゲームがスタート。
子どもたちは紙(資源)やハサミ・コンパスなどの道具(技術力)を使って製品(紙を丸や四角など指定のサイズで切ったモノ)をつくり、それを製品取引所に持ち込むと買い取ってもらえます。
さらに、そこで得られたお金は銀行に預けることもでき、勝者は最初にも触れた通り「最後に一番お金を持っている国(チーム)」となります。
つまり、「他国より多く製品をつくり売上を伸ばせば勝てる」という一見シンプルなルールにも見えますが、「世の中そんなに甘くない」と実感できるところがこのゲームの最大の魅力。
まず、最初に支給される封筒の中には紙(資源)、ハサミやコンパスなどの道具(技術力)、所持金(資金)が入っていますが、その内容が国ごとに違うのです。いきなり不平等からのスタートですが、しかし逆にそれが子どもたちの競争心に火をつけます。
・紙(資源)はないけど、道具(技術力)はある国。
・道具(技術力)はあるけど、紙(資源)がない国。
・所持金(資金)はあるけど、道具(技術力)がない国。
・情報は持っているけど、紙(資源)も道具(技術力)も所持金(資金)もない国……。
子どもたちは与えられた条件のなかで、必要ならば所持金(資金)などを使って他国と交渉して自分たちが持っていないモノを揃え、紙(資源)と道具(技術力)を使って製品(紙を丸や四角など指定のサイズに切ったモノ)をつくり、他の国(チーム)と競い合っていきます。
新技術の登場、突然の災害など次々訪れる変化への対応。大切なのは……。
しかも、同じ製品をたくさんつくればいいかというとそうでもなく、他国の状況など市場の流れを読み違えると、大量につくった製品(紙)が在庫の山となり、やがてただの紙切れに……。
さらに新技術の登場、突然の災害など、子どもたちは次々に起こる変化に対応しながら、自国の状況を常に把握し、製品価格の相場を読み、他国とも交渉し、銀行も上手に活用し、国連(講師=進行役)の通達も逃さずチェックしながら製品をつくり、売上を伸ばしていかなければなりません。
そこで大切になってくるのが、仲間との協力。
与えられた条件のなかでみんなで話し合ってアイデアや知恵を出し合い、それぞれの“得意”を活かして役割分担を決め、相手の立場に立ってモノゴトを考え、あるいは自分たちの国(チーム)に今何が必要かを自分で考えて行動し、ときにはできないことにも挑戦していくことが求められます。
教室のあちこちで仲間の輪ができたと思ったら散り散りとなり、一生懸命製品づくりに励む者、完成した製品を製品取引所に持ち込む者、銀行に走る者、他国と交渉する者、国連(講師=進行役)に質問しに行く者がいて……。気づけば、いたるところで一喜一憂する子どもたちのイキイキとした姿と出会えました。
楽しいゲームはこうして終了となりましたが、印象的だったのがゲームを行う上で大切にしているという3つの約束。ゲームスタート時に子どもたちに伝えられますが、それが以下の通り。
- 失敗おめでとう
- 答えはひとつじゃない
- 得意をいかそう
2004(平成16)年から北上市で取り組む「いきいきゲーム」。
その勝者は「最後に一番お金を持っている国(チーム)」となりますが、「一番豊かな国とはどんな国なのか」を考える時間にもなったような……、そんなひとときでした。
今回お邪魔したのは、北上市内にある鬼柳小学校6年生のクラスでした。取材撮影にご協力いただき、ありがとうございました。
(了)
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