グルメ師匠、降臨。
その方は、電気自動車に乗ってやってこられます。私は密かにその方のことを“グルメ師匠”とお呼びしてお慕い申し上げている次第なのですが、なぜそうお呼びしているかと言えば、やたらと北上の“おいしいところ”に詳しいからです。(もちろん、師匠はグルメ好きが高じて痛風持ちです。あっぱれ! おそれいりました m(_ _ )m )
昨年の7月中旬に東京から北上に移住してきた私に対して、“グルメ師匠”はいろんなおいしいところを教えてくださります。
「焼き鳥好きなんですか? じゃあ、『鳥ん坊』行きました? まだ? あっ、そうですか。あそこの“ねぎま”は、おいしいですよ。肉はもちろんジューシーなんだけど、皮をパリッと焼いてるところがポイントなんですよ。ぜひ一度食べてほしいなあ。たぶんね、あれは焼き鳥を焼く機械が特別なんですよ。『美味しんぼ』でも紹介されていた特別な機械だと思うんですよね。それから『島鳥』ね。あそこもいいですよ……」
などという感じで、“おいしさ”を裏付ける情報を散りばめながら、ピザならあそこ、イタリアンならあの店、フレンチならあの店はああで、この店はこうで、と微に入り細を穿ち、手取り足取り教えてくれるのです。
北上に来てまだ間もなく、おいしいところなど何も知らない当時の私にとって、そのアドバイスはまさに干天の慈雨。衿を正して、いつも拝聴しております。ですから、私はその方のことを尊敬の念を込めて、“グルメ師匠”とお呼びしている次第なのです。感謝!m(_ _ )m
グルメ師匠のおすすめは?
ただし、問題がひとつあって、“グルメ師匠”がおすすめしてくださるお店はオシャレなお店が多く、40代独身の干からびた男子がひとりぼっちで出かけるにはかなりハードルが高いお店ばかり。
“グルメ師匠”はすでに結婚されており、従っておそらく週末にはかわいいお子さんたちをベビーシッターに預け、愛する奥様と2人でオシャレしてお気に入りのイタリアンやフレンチのお店へと出かけ、テーブルに向かい合って座り、さしずめ今の時期なら新春を寿ぐことを口実にボトルを開け、見つめ合って「乾杯!」とグラスを掲げ、そのあとグラスを 少し傾けながら、そのワインが持つ色合いや輝き、濃淡の美しさを愛で、やがてゆっくりと立ち昇ってくるワインの豊穣な香りを愉しみ、口のなかで優雅にワインを転がしながらゆっくりと味わったうえで、「また新しい一年がはじまるね。君と一緒に人生を歩める幸せに感謝」などと歯の浮くセリフをのたまいながら、メインディッシュの北上牛に舌鼓を打っていることは容易に想像がつきます(*´m`)ムフフ
そういう場所にひとりで出かける勇気のない小心者の私が、「ひとりもんでも気軽に行けるお店はどこがいいですか?」と尋ねると、北上市のおいしいものを知り尽くした“グルメ師匠”は、私の事情をくみ取った答えを返してくれます。
「だったら江釣子屋のランチがおすすめかな。ボリューム満点の刺身定食が人気で、いつも行列ができるんですよ。限定メニューだからすぐ売り切れちゃうけど、並んでも食べる価値はあると思うなあ」
そう言ってアルカイク・スマイルを浮かべる姿は、私にはまさに仏さまのように見えました。さすが、“グルメ師匠”と呼ばれるだけあって(勝手に私が呼んでいるだけですが)、その期待を裏切りません。師匠、ありがとうございます!m(_ _ )m
“グルメ師匠”が小心者の私のために選りすぐってくれたお店です。これは行くしかないでしょ! 私は平日が休みとなったとある日、さっそく「江釣子屋」さんでランチを食べるべく、いざ出陣(/*´∀`)o レッツゴー♪
長蛇の列の先に見えた希望。
当日は生憎の雨模様。しかし、これなら行列も少ないんじゃないかな(*´m`)ムフフ 私は天気も味方につけた気分で、オープンの30分前(午前11時)に「江釣子屋」さんに到着するように車を走らせました。しかし……、
雨が降るなか、オープン30分前にもかかわらず、お店の前には長蛇の列が……_| ̄|○ お店の玄関横には屋根付きのウッドデッキがあり、15人ぐらいならイスに座って待てるようになっています。
(雨が降っても、これなら安心だよね。江釣子屋さん、すごい!)
などと感心している場合ではありません。私の前にはすでに20人ほどがいて、当然私はウッドデッキからはみ出て並ばざるをえない状況です。しかも、私が目指す「刺身定食」は限定メニュー。私の前に並ぶヒトの列を眺めながら、「これじゃあ刺身定食は無理だろ」と意気消沈していると……。
とある男性が、列の一番前にいる男性に声をかけるのが見えました。思わず、耳がダンボになる私。
「すいません。何時ごろから並ばれているんですか?」
「9時30分ごろかな」
(9時30分? すごい情熱! それじゃあ30分前に来ても無理だよな……)
ますます意気消沈する私。しかし、そんな私の後ろにさらに多くのヒトが並びます。おそらく私を含め、私のあとに並ぶヒトたちは限定メニューを食べられないかもしれません。それでも増える列を眺めていると、このお店の定食メニューがいかにおいしいかがよくわかります。
最終的に午前11時30分のオープン時には30人以上の列ができあがっていました。「刺身定食が食べられない」と気落ちしていた私ですが、その列の長さに勇気をもらった気分で、沈んでいた気持ちもいつの間にか消え失せ、「何食べよっかなあo(^-^)o」と期待に胸を膨らませながら、店内に足を踏み入れたのでした(/*´∀`)o レッツゴー♪
新キャラ登場! 赤字の海鮮丼とは!?
お店の入り口では、若い女性の店員さんが待っていました。その女性が、申し訳なさそうに私に声をかけてきます。
「申し訳ありません。限定メニューは残り一枚しかありません」
と言われて、ビックリ!
(まだ残っているの? ラッキー!)
「まぐろ中落ち定食なんですが、いかがですか?」
(中落ち定食? そういうのもあるのか(*´m`)ムフフ ラッキー!)
一気にテンションマックスになった私ですが、小心者ですから、その気持ちを表に出すことはできません。
「ああ、じょあ、それで……」
などと、ちょっとつまらなそうにも見える口調で「まぐろ中落ち定食」のチケットを女性店員から受け取ります。
(なんでもっと大喜びしないの? 素直じゃないね、お前は。そういうんだから40歳過ぎても独身なんだよ)
などと自己嫌悪している私に笑顔を向けて、女性店員がカウンター席に案内してくれます。ぶっきらぼうな顔をした私ですが、心のなかは(*´m`)ムフフ
いざ、向かったカウンター席は3人が座れ、両サイドにはすでに男性が座っています。私がその真ん中に座ると、なんと右隣には列の一番前に座っていた男性が……。きっと人気の刺身定食目当てで、午前9時30分から並んでいたであろうその男性を、私は尊敬の念を込めてチラ見します。
(先輩、お疲れさまでしたm(_ _ )m)
男性に挟まれ、少し小さくなりながら座って待っていると、さっそく右隣に座る男性のところに定食が運ばれてきた様子。私の期待も高まります!
(おお~、ついに噂の刺身定食が登場かワクo(´∇`*o) (o*´∇`)oワク)
期待に胸膨らませながら、横眼で見ていると、
「海鮮丼、お待たせしました!」
という女性店員さんの声が!
(か、か、海鮮丼! 刺身定食じゃないんかい!)
と思わず、心のなかでツッコミを入れる私。さっそくメニューを見ると、「赤字の海鮮丼」なる文字が……。
(「赤字の」だと……)
改めて横眼でチラ見した海鮮丼には、おおぶりのお刺身が彩りよく並び、見ただけで活きの良さも伝わってきます。
(そうか、人気メニューは刺身定食だけじゃないのか……。江釣子屋とは恐るべし!)
何も知らずに訪れた私は、改めて「江釣子屋」さんの奥の深さを知ったのでした。
「まぐろ中落ち定食」と恋に落ちて。
「赤字の海鮮丼」に感動していると、今度は左隣の男性にも定食が届いた模様。ふとチラ見すると……。
(こ、こ、これが刺身定食か!)
そこには、彩りも豊かなで肉厚・プリプリの旬の魚介が十数種類も並び、眺めも壮観!しかも、それで1,000円! コスパ高!
(そりゃ、並ぶわ!)
と、私も脱帽するしかありませんでした。思わず笑みがこぼれる左隣の男性は、さっそくスマホでパチリ。
(そりゃ、撮るわ!)
喜々として箸を持つと、ご飯茶碗を手に持ち、どれにしようかとお刺身を物色しはじめます。と、そこに今度は私の定食が来た模様。
「お待たせしました。まぐろ中落ち定食です」
その声に思わず振り返ると、
「うわ、すげえ!!!!」
さっきまで、どんなにうれしくても「つまらなそうな」ふりをしていた小心者の私も、思わず我を忘れて驚きの声をもらしてしまいました。カウンターの上に置かれた「まぐろ中落ち定食」の想像以上の大きさに、思わず私もスマホでパチリ。しぜんと笑みもこぼれます。
だって、隣で「刺身定食」を食べている男性も、私が注文した「まぐろ中落ち定食」のスケールの大きさに、ご飯茶碗と箸を両手に持ったまま目が釘付けなのですから(*´m`)ムフフ
さらに、「刺身定食」を食べようとしていた左隣の男性は、我慢ができなくなったのか、
「す、すいません。写真撮ってもいいですか?」
と私にお願いまでするじゃないですか!
(なんだろう、この優越感は。食べる前から得した気分 (o^^o)ふふっ)
私はクールに、でも心のなかでは満面の笑みを浮かべながら、「あっ、どうぞ」と言って写真を撮らせてあげました (o^^o)ふふっ
それからあとは至福の時間。まぐろの中骨からスプーンで中落ちを削り取るという食べ方も新鮮で、中骨をひっくり返すと裏にも中落ちがぎっしり詰まっています。それらを食べ終わるころには、心もお腹もすっかり満ち足りた気分。さらに食事のあとにはコーヒー(しかも無料)まで飲めて、「なんか、もうすいません」と頭のひとつも下げたくなりました。
しかも、それでお会計は、なんとあのボリュームで600円! 「ありがとうございました」と言われて、思わず私の方こそ「ありがとうございました!」とお辞儀をしたくなるほどでした。
お店の外に出ると、雨は降り続いていましたが、私の気分はすっきり快晴\(^o^)/
ふと「頭上注意」の貼り紙が目に留まり、見上げればツバメの巣が……。「江釣子屋」さんでは、ツバメの親鳥が一生けん命ヒナを守り育てている様子を見て感動し、「ヒナが巣立つまで温かく見守っていただきたい」と貼り紙に書かれていました。
(なんて、ステキなんでしょ (o^^o)ふふっ)
そのとき、なぜか私の頭のなかに浮かんだのは、電気自動車で颯爽と立ち去る“グルメ師匠”のうしろ姿……。私はなんだかうれしくなって、思わず心のなかで叫びました。
(グルメ師匠、いいお店をご紹介いただき、ありがとうございましたm(_ _ )m )
さて、グルメ師匠、次のおすすめは!?
(了)
江釣子屋
岩手県北上市上江釣子16-107-1
Tel/0197-72-7080
ランチ/11:30~14:00
ディナー/17:30~00:00
定休日/火曜日(臨時休業あり)
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